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耽美なる【女子美】の事件簿

芥川奈於(あくたがわ・なお)

耽美なる【女子美】の事件簿 ブック・カバー
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「いらっしゃいませ、大天国へ。」

2017.06.23 更新

 今から約120年前は、「女が美術を勉強するなんて、とんでもない!」とされる世の中だった。そんな環境に不満を持ち、立ち上がった女性たちが1900年に造った美術学校。

 それが伝統ある、「私立女子美術大学」。
 そしてその付属中学校と高等学校。

 俗に言う「女子美」。

 この学校の名前を聞いたことのある人はいても、そこでの日常を深く知っている人は、あんまり、いないと思う。

 多くの生徒が、これといった理由もないのに自分こそクラスで一番の人気者だと思いこんで、鼻タカダカな学校生活を送っている。
 制服にはいつもドロドロの油絵具が染み付いている。
 美味しいお菓子を鼻の穴に詰め、飛ばし合っている。
 泥だらけになりながらもグラウンドを駆け回る。ただただ駆け回る。仲間たちは、それをばかばかしそうに、それでもギャハハと大笑いをしながら窓から眺め続ける。
こんな日常。

 女子美の生徒はみな、この日常が当たり前だと思っている。
 世間とは、大きく違うということを知らずに。

 女子美は、自分がやりたいことにNOを言うものがいない自由な所。
 雄叫びをあげる猛者(もさ)たちがそろったジャングル。
 粋でおしゃれで、時には男泣かせで、ついでに親泣かせな女の子の集合体。

 そして、そんな女子美には、アクが強い人間が揃っている。

 授業中に神が舞い降りたと錯覚して、窓から身を乗り出し飛び降りそうになりながらも、天に向かって叫ぶ者。
 可愛い制服を着ているのに、カッチカチのドレッドヘアにしてボブ・マーリーを崇拝する者。
 かさばることで有名な、初代の超巨大なゲームボーイに夢中になり、お弁当箱と間違えてそれを大判ハンカチに包んで持ってきてしまった慌て者。

 あげればキリがない!

 そんな生徒がそろう中、先生たちも負けてはいない。

 蛍光ピンクと蛍光イエローのシースルー・ソックスを左右別々に履いて、校内を歩きまわる美術の先生。
 真っ赤な口紅をつけ、「ベルばら」の世界からやってきたようなクルクル巻き髪の国語の先生。
 授業内容を大きく脱線し、怪談や世界の未解決事件を話しだして止まらなくなる社会の先生。

 なにかがおかしい生徒や先生が大半を占める女子美で、珍事件が勃発しないはずがない。

 でも、毎日乱痴気(らんちき)騒ぎをしながら、授業の半分以上を占める美術系の時間になれば、みんなもシンと静まりかえった教室の中でデッサンをし、それぞれの持つ画風を思う存分に振るって水彩画や油絵やデザイン画を描き、細かな建築模型を作っている。

 他の学校よりも芸術につながる時間をたくさん過ごしている彼女たちは、いつもキラキラとした「美」を求めている。
 そして、手に入れた「美」の中で、一番「美しい!」と感じたものを、自分自身の「個性」につなげる術(すべ)を知っている。
 そういう「個性」をなによりも大切にし、生徒同士は、お互いを尊重し認め合っている。
みんな誇りを持ち生きているのだ。
 
 そんな耽美な女の子たちが集う場所、女子美。

 青春ドラマやスポーツドリンクのCMみたいに爽やかスクール・デイズが続く天国は、ごまんと存在するのかも。

 でも、こんなにおかしい女子美みたいな学校は、この世でたったひとつの大天国なんじゃない?

 私は付属中学から高校を経て、四年制の大学まで通っていた「女子美十年選手」。
 様々な珍獣たちや、ときには野獣とも思える女の子たちとの付き合いは長く、たくさんの事件を見てきた。
 
 「じっちゃんの名にかけて!」と叫びながら難事件を解決していく『金田一少年の事件簿』ではないけれど、「ひいじっちゃんの名にかけて!」という美しい気持ちを忘れず、女子美で起こった数々の【事件簿】を書けたらいいなぁと思う。
 だって私も生粋の女子美生だったのだから。

 女子美は本当に、めったにない、この世でたったひとつの学校なの?
 女子美に存在する珍獣とは、どんな人物?
 女子美流に「美」を追求するとはどういうこと?

 この連載を読んでいけば、あなたにもわかる日がきっとくる。
 

 さあ、いらっしゃいませ、大天国へ!

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著者プロフィール

芥川奈於(あくたがわ・なお)

動物イラストレーター・コラムニスト。
女子美術大学付属中学校を経て女子美術大学芸術学部デザイン科、卒業。
10年間、通称【女子美】に通う。
雑誌やwebサイトでイラスト、書評の連載を多数持ち、現在は「しらべぇ」書評、「JALEE」映画評他コラム連載中。
芥川龍之介のひまご。

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