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手を伸ばせば届く宇宙の話

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第2回 宇宙は無重力という誤解

2015.01.29 更新

前回、私は風船を使った宇宙開発をしていると書きました。「宇宙は無重力なのに、装置はどうして戻ってくるの?」とよく問いかけられますので、今回は宇宙と重力のお話をしたいと思います。

テレビニュースなどで映し出されるISS国際宇宙ステーションからの映像では、人がふんわり浮いていますよね。誰もが知っている映像ですので、一度は見たことがあるのではないでしょうか。このような映像を幾度となく見ていると、宇宙=無重力が当然の真実であるととらえてしまうものです。
実はこれ、大きな誤解なんです。「そんなバカな!」と思われるかもしれません。しかし、宇宙は無重力ではないんです。「無重力でないのなら、重力があるの?」。はい、その通りです。宇宙には重力があります。
特殊なひっかけ話ではありません。宇宙はどこでも重力があるのです。私達の知っている宇宙の常識とだいぶ違うので、不思議に思いますよね。この重力の不思議な話に、ちょっとお付き合いください。

宇宙を無重力と勘違いしてしまう原因は、宇宙ステーションからの映像やスペースシャトルの船外活動の映像からでしょう。
宇宙ステーションやスペースシャトルは、高度約400kmの場所を飛んでいます。高度400kmといってもあまり実感が湧きませんので、飛行機の飛ぶ高度を引き合いに出すと、国際線の旅客機などが飛んでいるのは高度12km程度です。ここから先の高さだと、私達に身近なもので例に出すなら、月でしょうか。月は大体380,000km遠くを回っています。しかし月だと遠すぎて実感がわきませんね。
では、空ではなく地上で比較するとどうなるのでしょう。400kmというと、ちょうど東京から大阪までの距離です。と聞くと、宇宙ステーションは実は結構近場を回っているんだなと感じられますね。
ちなみに地球の半径は約6,400kmです。この地球をサッカーボールの大きさ(直径22cm)にたとえると、宇宙ステーションはサッカーボールからたった7mmしか離れていない場所を飛んでいることになるのです。こう考えると、宇宙ステーションは地上すれすれの場所を回っているんだなと、気付かされますね。
では、この宇宙ステーション内の重力はどのようになっているのでしょうか? 重力は地球から離れると、どんどん小さくなっていきます。といわれても、重力は目に見えませんし、普段の生活で重力の変化を感じることはほとんどないので、あまりピンとこないかもしれません。重力を身近なものにたとえると、『音』がそっくりです。音は離れれば離れるほど小さく、近づけば近づくほど大きくなっていきます。これと一緒です。

先にもお話しましたが、宇宙ステーションは地球すれすれの高さを飛んでいます。これだけ近いと、地球の重力がかなりきいています。宇宙ステーションのある高度400kmでは、私たちの生活している地上の88%程度の重力を受けているのです。88%もあれば、地上とほとんど変わりません。「え~、でも、宇宙ステーションで、人が浮いているよ」と思いますよね。これにはわけがあります。
子供の頃に、バケツの水をグルグルと振り回したことはありませんか? 上下にグルグル回すと、バケツの中の水が一瞬逆さまになりますが、しかし絶対にこぼれません。そう、宇宙ステーションでの無重力はこれと全く同じ理屈なのです。
宇宙ステーションが無重力になる原因、それは遠心力です。遠心力は車がカーブしたときに外側に投げ出されそうになる、あの力でもあります。宇宙背テーションには遠心力が働いています。この遠心力によって重力が相殺され、宇宙ステーションの中にいる人にとっては無重力になっているのです。
宇宙ステーションは1時間半で地球を一周する速度で飛んでいます。新幹線が時速280kmですが、宇宙ステーションは時速28,000km。100倍です。とてつもない速度です。この速度で飛ぶことで、重力を打ち消すような遠心力がかかります。ですから、宇宙ステーションの中の無重力は自然にあるものではなく、人間が作り出した無重力環境ということになります。つまり、宇宙ステーションの中にいる人だけが無重力のように感じられるのです。
なお、この速度がとても重要で、速度は速すぎても遅すぎてもいけません。遅くなると遠心力が弱くなり、重力に負けて地球に落ちてきます。役目を終えた古い人工衛星が地球に落ちてくるのはこういう理由です。逆にもっと速くなったら、地球の重力を振り切り、飛んで行ってしまいます。太陽系を探索して回ったボイジャーや火星探査機などはこの仕組みを利用しているのです。宇宙ステーションは重力と遠心力がちょうど吊り合っている速度なので、ずっと地球の近場を飛んでいられるのです。
宇宙に行くためには、高く上がるだけではダメなのです。それだけでは必ず地球に引き寄せられ、落下してきます。どんなに高く上がってもダメです。月のある高さまで行っても、冥王星のある遥か彼方まで行っても、重力に打ち勝つことはできません。必ず引き寄せられます。重力は性質上、無限の彼方まで離れるとゼロになります。けれどもどうやら私達の住む宇宙は有限のようですから、極端な話をすると無限の彼方というものはありません。太陽系の端まで行っても、銀河の端まで行っても、どこまで行っても重力からは逃げられません。
重力があるから、宇宙ステーションはとどまり続けることができています。そして重力を利用して人間は宇宙ステーションの中に無重力の世界を作り出したのです。この宇宙ステーションが非常に特殊なだけであり、私達の持っている認識「宇宙=無重力」というのは誤解なのです。
では「宇宙のどこにも無重力の場所はないのか?」と思われるかもしれません。ちょっと補足しておきましょう。宇宙に無重力の場所はあります。が、本当に限られた一部の場所だけです。たとえば、天体と天体の重力が釣り合う場所です。2つの天体から同じ力でひっぱられている場所は無重力となります。これらの場所はラグランジュポイントと呼ばれており、今後の宇宙開発で注目されている場所でもあるのです。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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