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手を伸ばせば届く宇宙の話

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第9回 宇宙から帰ってくるとき燃えるのはなぜ?

2015.05.14 更新

私は風船を使って宇宙撮影をしているのですが、撮影が終わったあとの装置は地上に落下させて回収しています。帰還時には地球の大気圏に突入するので、「摩擦熱で燃えないの?」という質問を度々受けます。
風船はおおよそ高度30~45km程度まで上昇します。一般的には国際航空連盟(FAI)が定めた高度100kmから上を宇宙としていますが、高度30kmでもほぼ空気はないに等しく、ほとんど宇宙であると言ってよいような場所です。(※第5回『空はどこから宇宙になるの?』に詳しく書いてあります)
帰還型の宇宙船、例えばスペースシャトルなどの機体は、熱に非常に強い素材を使うことで大気圏突入時の摩擦熱に耐えています。
代表的な素材がセラミックスです。セラミックスと言われると聞き慣れないかもしれませんが、大昔から利用されているものです。身近なものだとお茶碗があります。お茶碗はスペースシャトルのセラミックスと同じ材料でできたものではありませんが、お米を食べるときに使っている、陶器製のお茶碗もれっきとしたセラミックスです。
セラミックスは熱にとても強いので、大気圏突入の際の摩擦熱に耐えるために利用されているのです。オーブンなどに使う容器が陶器、つまりセラミックスを利用しているのはこのためです。
映画やアニメで隕石や宇宙船が大気圏に突入する際、真っ赤に燃え上がっているシーンをよく見かけますね。これは現実と非常に近い描写です。
スペースシャトルが帰還する際には実際に機体下部は真っ赤に燃え上がりますし、古い人工衛星を廃棄する際は大気圏に落下させることで燃やし尽くしてしまいます。
ですが、物体が燃える理由は摩擦熱ではないのです。

冬場になると寒いのが嫌になって、暑い夏が恋しくなるものです。夏になったらなったで暑さに参ってしまうのですから、なんともわがままな話です。そんな暑い日はエアコンが効いた涼しい部屋に避難したくなるものです。
突然宇宙からエアコンのお話になってしまいましたが、このエアコンこそが、大気圏に突入すると燃えるという現象を説明するのに恰好で、最も私たちに身近な機械なのです。
エアコンはどうして冷たい空気を出すことができるのでしょうか。それは空気のある特性を利用しているからなのです。

空気は一気に膨張させると温度が下がる性質を持っています。これを「断熱膨張」と言います。エアコンは、電気を使い仕事をする ことで、夏の暑い空気を一気に膨張させることで、冷たい空気を作り出しているのです。
では逆に、一気に空気を圧縮したらどうなるでしょう。お察しの通り、暑くなるのです。これを「断熱圧縮」と言います。断熱圧縮では熱が発生するのです。
エアコンには暖房機能も冷房機能もついています。電気が空気を瞬時に圧縮するか、膨張させるかの違いでしかないので、エアコンは空気を温めたり冷やしたりできるのです。

物体が宇宙から帰ってくる場合は、エアコンの暖房モードと同じです。すべての宇宙に滞在する物体は、重力に引っ張られて地球に落ちてこないようにするために、ものすごい速度で飛行しています。その速度は、おおよそ時速28,400km以上。第一宇宙速度と呼ばれている速度です。新幹線の100倍近い速度ですから、とてつもない速度ですね。
宇宙船は地球に帰ってくるときに多少は減速しますが、ほとんどこの猛烈な速度で地球大気に突っ込んできます。すると、機体前方の空気は、突っ込んできた機体によって、急激に圧縮されます。エアコンとは比べものにならないほどのエネルギーで圧縮されるので、膨大な熱が発生します。発生した膨大な熱により、機体は赤く燃えるのです。この熱こそが、宇宙から帰ってくる宇宙船が燃える理由です。
この熱はあまりにも膨大なので、金属でできた人工衛星ですら溶かして消滅させてしまうこともあります。有人宇宙船は燃え尽きてしまってはいけませんから、断熱圧縮による発熱に耐える材料で宇宙船は作られているのです。
地球大気へ突入する際に熱を発する原因として、もちろん空気摩擦も多少はあります。しかし、断熱圧縮による影響のほうが圧倒的で、摩擦熱はほとんど無視できるレベルです。断熱圧縮はとにかくものすごい熱を発するのです。

さて、私が飛行させている装置もまた、宇宙から地球大気に突っ込み、地上に帰ってきます。発泡スチロールでできた物体ですから、非常にもろくて壊れやすいです。もちろん熱にも弱い。しかしながら、これまで一度も燃えたことはありません。熔けたことすらありません。
それはなぜか。答えは、断熱圧縮が起こらないからです。風船は風に乗って飛んでいるので、速度はほとんどゼロです。速度ゼロから落下を開始するので、断熱圧縮が起きることはないのです。だから、燃えないのです。

断熱圧縮。聞き慣れない言葉かも知れませんが、宇宙開発でも家庭でも、私たちの生活においてとても身近な現象で、たくさんの恩恵を与えてくれています。
今回は宇宙開発に関連する断熱圧縮にフォーカスしてお話ししましたが、断熱圧縮以外にも熱が生まれる現象はたくさんあります。熱は様々な方法で生み出すことができる、私たちにとても身近なものなのです。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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