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手を伸ばせば届く宇宙の話

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第8回 宇宙で風船は膨らむの?

2015.04.30 更新

いつまで待っても待ち人がやってこない時、楽しみにしていたケーキが自分の前のお客さんで売り切れてしまった時、くじ引きの番号が一桁だけ違って外れた時。とりわけ怒るほどでもないけれど、面白くなくて、ちょっとむくれたくもなりますよね。
不愉快な時にむくれてしまうものですが、機嫌の良い時にむくれてみると、なんだか愉快なものです。
むくれ顔をする時には、口をつぐんで口の中に空気を溜め込みます。そうすると頰が膨れますね。
むくれ顔になる原理は、風船が膨らむ原理と同じです。
内部の圧力が上昇すると、外の圧力と吊り合おうとするため、膨張という現象が起こります。一方、外と中を隔てる壁(むくれ顔なら頰の肉、風船ならゴム)は元の形を保とうとするので、膨らんだ状態が保たれるのです。
膨らむという現象には、釣り合っていることがとても大事です。内部の圧力が、壁が元に戻ろうとする力より強い場合は膨らみ続けます。膨らみ続けると、しまいには壁を破壊して中の空気が溢れ出てしまいます。これが風船の破裂です。
逆に壁が元に戻ろうとする力が強い場合は萎んでしまいます。
私達のむくれ顔や、街で見かけるアドバルーンも、「内部の圧力」と「壁が元に戻ろうとする力」がちょうど釣り合っている状態なので、あのように膨らんだ状態を維持できているのですね。

ではこの風船を宇宙に持って行くとどうなるのでしょう。宇宙は私たちの知る世界と全然違う不思議なところです。想像もできないことが起こります。風船はどうなってしまうのでしょうか。
風船の中にはヘリウムガスという空気より軽いガスを入れます。肺に吸い込むと声が甲高くなる、あのヘリウムです。
ヘリウムガスの入った風船は、地上では浮力によって浮き上がりますので、地球上で暮らす私たちにとっては、風船が浮き上がるのは当たり前のことです。

しかし、宇宙では私たちの知っている風船ではなくなります。
まず、宇宙ステーションに風船を持って行くことにしましょう。
宇宙ステーションの中には、地上と同様に空気があります。
風船の内部にあるヘリウムガスが風船の外部の空気より軽い場合に浮き上がるとお話ししましたが、宇宙ステーションの中には空気があるのに、風船は浮きません。
その理由は、宇宙ステーション内が無重力状態だからです。
無重力の世界だと、空気に関係なく浮力は働かなくなるので、宇宙ステーションの中では風船も人間と同様に中空で静止し、浮き上がることも、落下することもありません。
では宇宙ステーションから 風船を持って外に出るとどうなるでしょうか。宇宙ステーションから外に出れば 、無重力状態です。宇宙ステーション内同様、風船が浮き上がることはありません。しかし、外に出た途端、風船は宇宙ステーション内とは違った現象を起こすのです。
それは破裂です。あっという間に膨張して破裂してしまいます。宇宙には空気がありませんから、風船の外側にある空気から受ける圧力は存在しません。そのため、風船の中のヘリウムが大きくなろうと、どこまでも膨張します。しかしゴムは無限に大きくなることができませんから、破裂してしまうのです。

では、宇宙で風船を膨らませてみるとどうなるのでしょう。
風船のゴムは元の形に戻ろうとする力を持っています。ですから、風船に入れるガスの量を、ゴムが戻る力と釣り合うところまでで留めておけば、破裂することはありません。宇宙ステーションの中と同じように、中空に漂います。浮きも沈みもしません。
この宇宙で膨らませた風船を、宇宙ステーション内部に持って帰ってきたとしましょう。すると、どうなるのか。ゴムが元の形に戻ろうとする力に加えて、空気からの圧力を受けるので、潰れてぺしゃんこになってしまいます。

では今度は月に持って行ってみましょう。月面には空気がありませんから、宇宙空間と同様に破裂してしまいます。宇宙空間と同じ要領で、風船を膨らませることはできます。
しかし月面で風船は、宇宙とも宇宙ステーションとも、地球とも違う現象を起こすのです。なんと月面では、風船は落下するのです。
空気のない月面は、宇宙と同じ真空状態です。風船の外側には何もないので、風船は石ころやボールと同じになります。重さを持った単なる物体にしかならないのです。
しかし宇宙空間とは違い、月面には重力がありますので、風船は月の重力に引かれて落ちるのです。

ふわふわ浮いているイメージの強い風船ですが、宇宙の場所によって、こんなにも様子が違ってしまうのです。地球上で当たり前のことが、当たり前ではないのです。宇宙はやっぱり不思議なところですね。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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