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手を伸ばせば届く宇宙の話

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第7回 宇宙は寒いの? 暑いの?

2015.04.16 更新

近年、夏はとても暑いですよね。温度計を確認すると、気温が35度なんてこともあります。
容赦ない太陽光から日陰に避難しても耐え難い暑さです。室内のクーラーでホッと一息。室内の温度は25度程度でしょうか。たった10度の変化ですが、とても気持ちがよくすがすがしい気分になるものです。
私の住む北海道は、冬場とても寒くなります。冬場に「今日の気温、何度?」と尋ねてみて「19度だよ~」という答えが返ってきたとしましょう。
これを聞いて「暖かいな」と思ったら、あなたは本州のかたでしょう。「寒いな」と思ったら、北海道のかたでしょう。
寒い地域では毎日気温がマイナスなので、いちいちマイナスを付けません。つまり、冬場に北海道の人が「19度」と言ったら、それは「マイナス19度」のことなのです。
帯広がある北海道の十勝平野に行くと、マイナス20~30度まで下がることもしばしば。そんな日には外出しないに限ります。外に出ると、コートを着ていても肌を刺すような寒さです。
ちなみに日本の過去最低気温は、1902年に記録された北海道旭川のマイナス41.0度。この年は猛烈な寒さで、199人の死者を出した八甲田山の史上最悪の遭難事故が起こった年でもあります。このあたりから考えても、マイナス20~30度ほどが人間が耐えられる寒さの限界なのではないでしょうか。

「マイナス41度なんて想像できないくらい恐ろしい」と思いましたか? でも、もっと寒い場所があるのです。それは、宇宙です。宇宙の気温はマイナス270.42度なのです。
マイナス40度という温度は人が死んでしまうほど大変な低温であるというお話をしたばかりですが、宇宙はそれよりも気温がさらに230度も低い場所なのです。
230度もの温度差を私たちが日常で体感することはまずないので、想像できない温度です。
たとえば身近にある低温の場所といえば、冷凍庫。手を入れるとひんやりしていますよね。家庭用の冷凍庫はだいたいマイナス20度程度に設定されているようですが、業務用の冷凍庫になるとマイナス60度にまで下がるものもあるようです。
冷凍庫よりさらに低温なものにドライアイスがあります。アイスクリームを買った時などに使う、モクモクと白い煙がでる物体、あれがドライアイスです。ドライアイスは二酸化炭素でできた氷です。このドライアイスはマイナス79度。かなりの低温ですが、それでも宇宙の温度より191度も高いのです。
理科の実験や、皮膚科でイボの治療に使う液体窒素。これはドライアイスよりさらに低温です。液体窒素とは、空気中にある窒素を液体にしたもので、その温度はなんとマイナス196度! 液体窒素は一瞬で何でも凍らせてしまう、とても冷たい液体です。それでもまだ、74度ばかり高いですが、だいぶ宇宙の温度に近付いてきました。
液体窒素より温度の低いものは、身近にあまりありません。例えば、液体水素がマイナス252.6度、液体ヘリウムがマイナス269度です。液体ヘリウムでようやく宇宙とほとんど同じになりますが、身近なものではないので、感覚的に理解できませんね。

ちなみに温度はどこまで下がるのかというと、マイナス273.15度が最低で、それよりも下がることはありません。
温度というのは、原子や分子の運動速度によって測っています。原子や分子の速度が遅くなると温度が下がり、速くなると上がります。速度の速さに限界はありませんが、遅くなることには限界があります。それは、原子や分子が停止した状態です。停止すると温度の限界、最低温度となります。停止した状態より速度が遅くなることはないのですから、これより下がることもなくなるというわけです。このマイナス273.15度は絶対零度とも呼ばれています。
宇宙はほとんど絶対零度の場所なのです。

宇宙は気温がマイナス270.42度なのだから、とてつもなく寒いと思ってしまいますね。
しかし、一概に「寒い」とは言えないようです。
寒い場所で人間が寒いと感じるのは、空気が体から熱を奪うためです。つまり、空気がないと熱を奪うことができません。魔法瓶が良い例です。魔法瓶の内部には真空の場所があるので、中に入れたスープやお茶の熱が外に逃げず、長い時間暖かいままです。真空では、熱は外に逃げないのです。
気温とは、測る場所にある「空気」の「温度」のことを言います。宇宙にはほぼ空気がありません。わずかに存在する微粒子の温度がマイナス270.42度なのであって、ほぼ真空の世界です。

私たち人間は、生きているだけで熱を発しています。これは恒温(こうおん)動物の特徴です。地球上で生きていると、空気が体を冷やすので、体は熱を発し続け、暖かい状態を保とうと頑張ります。生きるために、熱を発し続けるようにできているのが恒温動物の特徴です。
しかし宇宙に行くと、体を冷やす空気がありません。魔法瓶の中と同じなのです。ですから、放っておいても冷えません。それなのに、恒温動物である人間は、生きる機能として熱を発し続けます。空気がないにも関わらず、生きるため備わった機能で勝手に熱を作り続けるので、その熱で体は温められていきます。
空気に奪われるはずだった熱が体の中に溜まっていくので、体温はどんどん上がっていき、やがてインフルエンザによりも高い熱となり、最終的には体温が上がり過ぎて死に至ります。生きるために体を温める恒温動物の性質が、宇宙では仇となるのです。
そのため、宇宙に行くと人は「暑い」と感じるのです。
ちなみに、宇宙服には必ず冷却装置が付いているので、体に熱が溜まり続けることはありません。宇宙服は空気のない宇宙で窒息しないために着るものでありながら、こんな役割もあるのですね。
「宇宙は寒いのか、暑いのか」。その答えは、「暑い」のです。何とも不思議な場所ですね。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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