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手を伸ばせば届く宇宙の話

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

手を伸ばせば届く宇宙の話 ブック・カバー
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第14回 ロケットとモンゴル騎兵

2015.12.29 更新

宇宙開発の花形といえば、ロケットです。宇宙センターの巨大な発射台から打ち上げられ、力強く空に昇って宇宙にまで達するロケットは、まさに科学技術の結晶といえます。
そんなロケットのルーツは、実は遠い過去にあります。
中国の4大発明といえば「羅針盤」、「製紙」、「活版印刷」、そして「火薬」です。火薬が発明されたのがは、今から1000年ほど前の618~907年ごろです。その火薬を使い、火箭(かせん)という兵器が開発されました。それが西暦1200年ごろ。この火箭こそがもっとも古いロケットであると言われています。
この世界初のロケット火箭は、漢民族がモンゴル帝国に侵略する防衛のために使用しました。火箭は武器としての効果自体は非常に疑わしいものでしたが、モンゴル兵に対し恐怖心を与えるのには十分であったようで、漢民族はモンゴル兵を退けることに成功しました。
しかしその後、歴史で知るとおり、漢民族はモンゴル兵に敗れ去ります。これにより火箭の技術はモンゴル帝国に移ります。
モンゴル帝国はその後も兵器としてのロケットの開発を進め、ヨーロッパへの侵攻や日本に攻め込んだ元寇(げんこう)の際にも使用しています。

※元寇 日本の鎌倉時代中期に、当時大陸を支配していたモンゴル帝国およびその属国である高麗王国によって行われた対日本侵攻のこと。2度行われ、1度目を文永の役(ぶんえいのえき・1274年)、2度目を弘安の役(こうあんのえき・1281年)という。

モンゴル帝国が使用したロケットは、ヨーロッパを通じて世界に伝わり、やがて世界のいたるところで使用されるようになりました。
ロケットという言葉の由来は、イタリア語からきています。1379年にイタリアの内戦で使用されたとき、イタリア語の糸巻きを意味する「rocchetto(ロッケッタ)」という呼び名が使われるようになり、やがて英語のroket(ロケット)という呼び方に変わっていきました。このように、初期のロケットはもっぱら戦争用の兵器だったのです。

ロケットは、アメリカ国歌『星条旗』の一部にも登場します。初節第5行に以下のくだりがあります。

And the 「rocket」s’ red glare,
the bombs bursting in air,
Gave proof through the night that
our flag was still there

日本語訳
「ロケット」が赤く光を放ち空中で炸裂した
我々の旗は耐え抜き夜通しそこにあった

これは1812年から1814年までの間に起こった、英米戦争のワンシーンです。
1814年のゴートマクヘンリーの戦いは、この戦争で最も苛烈なものでした。フォートマクヘンリーという星型の要塞に立てこもったアメリカ軍に対し、イギリス艦隊がロケットによる砲撃を仕掛けるも、アメリカ軍は25時間に及ぶ砲撃に耐えました。そのときのことを称えたのが『星条旗』です。
このように、ロケットは兵器として使われ続けていました。

ロケットが宇宙と結びついたのは、ごくごく最近です。ロケットと宇宙を結びつけた最初の人は、ロシアのツィオルコフスキーという、明治~大正時代に生きた科学者です。
ツィオルコフスキーは、世界で初めて宇宙開発用のロケット研究を行い、宇宙開発にロケットの使用を推進する「ツィオルコフスキーの公式」を作り上げました。ほかにも人工衛星や、宇宙服、多段式ロケット、軌道エレベーターなどを考案しています。彼から宇宙開発が生まれ、ロケットの新しい時代が始まった、まさしく宇宙開発の父、ロケット工学の父なのです。
その後、ロケットは1926年にアメリカ人科学者のゴダードによって、現代の形となりました。彼の研究はだいぶ時代を先取りしていたため、同時代の人々からはマッドサイエンティスト扱いされていましたが、彼の研究が人類の宇宙への道を拓いたのです。

やがて第二次世界大戦中に、ナチスドイツによってV-2ロケットが開発されました。
V-2は現在、世界中全ての宇宙ロケットの遠い祖先に当たります。
ナチスドイツの敗戦後、V-2開発の研究者や研究資料はアメリカおよびソビエトに渡り、その後も開発は続きました。そして1957年にソビエトが世界初の人工衛星スプートニクの打上げに成功。翌年、アメリカがエクスプローラの打上げに成功。その後もさまざまな失敗や成功を繰り返しながら、現在のロケットとなりました。

ロケットと同じような形状をしている兵器に、ミサイルがあります。ミサイルとロケット、もちろん違うものを指すのですが、これらは微妙な違いです。誘導性能があるものをミサイル、ないものをロケットと定義するのが一般的のようです。しかし、ロシアではミサイルのこともロケットと呼んだりしますから、この定義は世界共通ではありません。日本に住む私たちにとっては、例えばロケット花火は兵器ではなく、かつ誘導性能もありませんから、やはりロケットです。ペットボトルロケットも同様にロケットです。戦闘機やイージス艦が搭載しているミサイルは、誘導性能があり、かつ兵器なので、ミサイルです。

ロケットの歴史はとても古く、多くのシーンで兵器として利用されてきました。そしてこれから先も人間の歴史に何度も顔を出すことでしょう。それほど遠くない将来、人類を他の惑星に連れて行ってくれるでしょう。ロケットは古くて、そして新しい装置なのです。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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