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手を伸ばせば届く宇宙の話

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第13回 平安時代にパラシュート?

2015.07.09 更新

「パラシュート」。別名「落下傘(らっかさん)」。とても身近でよく耳にする言葉にもかかわらず、実際に見たことがある、使ったことがあるという人はまれではないでしょうか。多くの人にとってパラシュートは、映画や漫画やテレビ番組などでしか見たことがないものだと思います。映像の中では、人が空から舞い降りるシーンでよく見かけることから、パラシュートは上空から地上へと安全に降りる道具として知られています。

私たちがたびたび利用する飛行機は、かのライト兄弟によって1903年には初飛行に成功していますが、その歴史はわずか100年ちょっとしかありません。自転車は1813年に発明されていますから、200年程度です。自動車は自転車よりもう少し古く、1769年の発明です。私たちの身近にある発明品は意外にも新しいものばかりです。

そんな中で、パラシュートの歴史は意外なほど古く、記録が残っている限りでは852年まで遡(さかのぼ)ります。852年というと、日本は平安時代。なんと1000年以上の歴史があるのです。
最初のパラシュートは、木の枠で補強したコートを使い、スペインで塔から脱走するために使われたのが最も古いものだそうです。あまりに昔のお話なので、実際にあったことなのかどうかは確証が持てませんが、語り継がれて現代まで伝わっているということを考えると、少なくともパラシュートの原理を遠い昔の人も知っていたことは間違いありません。
1485年頃には、世界的に有名な絵画である「モナリザ」や「最後の晩餐」を描いたほか、科学や土木など様々な分野で活躍し、多くの発明品を生み出したレオナルド・ダ・ヴィンチが、パラシュートの研究をしていたスケッチが残っています。仮にこれを最初の研究としても、パラシュートの歴史はとても古いのです。
初期に開発されていたパラシュートは、私たちの知っているパラシュートとは大分違う材料や形をしていました。木の枠に布を張っていたのです。大道芸人が高いところから下りてきて、皆を驚かせるパフォーマンスに利用されていたらしいと図版にも残されています。物理的な計算をすると、この頃のパラシュートではそれほど落下速度を落とすことができないので、なかなか危険なパフォーマンスであったと予測できます。

この原始的なパラシュートが時代と共に進化して、現代のパラシュートになったかというと、違うのです。一時期、パラシュートは世界から忘れられてしまいました。そして、数百年間の空白期間が生まれます。パラシュートはロストテクノロジーと化したのです。
再びパラシュートが歴史に顔を出したのは、1783年のこと。フランスで塔が火事になったとき、安全に脱出するための道具として開発されました。この時にパラシュートという名前が与えられました。
そして、1797年にようやく私たちの知る、現代的なパラシュートがフランス人のジャック・ガルヌランによって発明されます。彼の実験は気球を使って実施されました。現代的なパラシュートの歴史は、気球の歴史とほとんど一致するのです。ちなみに、このガルヌランは、ボイル・シャルルの法則で有名なシャルルのお弟子さんです。世界は狭いものです。
ガルヌランの作ったパラシュートが、現在私たちがよく目にする、半球にたくさんの紐が吊り下がった形状です。宇宙開発で科学に貢献し、スカイダイビングで人の命を守ることができるのも彼のおかげなのです。
ちなみに、初めて気球から降下した彼のパラシュートの乗り心地は良いものではなかったそうです。落下の最中に風に何度も煽られ、回転して、地上に降り立った時にはふらふらだったそうです。

この原因は、彼のパラシュートには穴がなかったから。空気抵抗を受けやすくすることで、減速する装置に穴なんて空けたら減速しなくなってしまうのではないかと心配されるかもしれませんが、そんなことはないのです。パラシュートは穴を空けることで、パラシュート内部の気流が安定し、安全に減速できるのです。穴がないとパラシュート内部の空気の逃げ場がなくなり、パラシュートが横になったり、一部がひっくり返ろうとしたりするため、安定しなくなるのです。穴をつくることで、空気の逃げ口ができ、空気の流れを整えることができるということです。つまりパラシュート内部にある空気の交通整理ができるわけです。
彼の作ったパラシュートは後世の人間によってさらに改良され、適切な位置に穴が空けられるようになりました。こうして、安全で、乗り心地のよいパラシュートができ上がったのです。

さて、こんなにも歴史の長いパラシュート。人類が長らく研究してきた安全装置ですから、当然安全なものと思いたくなりますが、実は減速装置としては最悪です。他に手段があるならそちらを使うというのが航空宇宙の分野での鉄則です。パラシュートは構造上、理想的な状態で開かない確率が、信じられないほど高く、信用できない装置なのです。さらに計算通りの減速効果が得られない確率も高いのです。
パラシュートはすべてが思惑通りにいけばとても大きな減速効果を得られる便利なものですが、反面、信頼性はあまりにも低いのです。それでも宇宙開発では他によい手段がない場合、致し方なくパラシュートを使っていますが、残念ながらパラシュートは付ければ安全になる魔法の布ではないのです。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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