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手を伸ばせば届く宇宙の話

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第11回 時間と向き合う

2015.06.11 更新

前回(第10回参照)、時間が絶対的なものではないとお話ししたと同時に、遠い将来には未来へ行けるタイムマシンもできる可能性があることに触れました。とはいえ、現在の私たちがタイムマシンに触れることはないでしょう。よって、私たちは与えられた寿命の中、現在の時の流れの中で同じ1秒を刻んでいくしかないのです。
今回もこの「時間」について触れていきたいと思います。
最新のニュースによると、現在日本は世界で最も寿命の長い国になっています。2015年時点での平均寿命は84歳。世界一の長寿国です。84年、一人の人間にとってとても長い時間のようですが、人間は生まれた時点で必ず死ぬことが決められていますから、時間は限りのあるものです。人間は必然的に時間というひとつの縛りの中で生きているのです。

私は大学入学と共に家を離れ、遠く北海道の大学に通いました。卒業後も北海道で仕事をしていたので、なかなか実家に帰ることもなく、1年に3日も帰れば良いほうでした。帰省する日数が年3日というのは、働いている一般的な成人男性と比較しても多いわけでも少ないわけでもないのではないでしょうか。「そんなものか」といった具合に感じられるかもしれません。
年3日。これがどの程度の時間なのか、好奇心から計算してみました。その結果、日々の時間にもう少し向き合う必要があるのではないかと思い至ることになりました。
大学を卒業してから定年まで50年程度。定年を迎えるまでに親が生きている確証はありません。先に亡くなってしまう可能性も十分あるでしょう。定年になった年に親が他界すると仮定した場合、家を出てから親と一緒に過ごせる時間はこのような式で導くことができます。

3日×50年=150日

大学入学まで18年間ずっと一緒に暮らしてきた親と過ごす時間は、家を離れてしまうと半年にも満たなくなるのです。この計算結果を見て私はかなり驚きました。帰省する日数を3倍に増やしても1年半足らずにしかならないのです。少し実家に帰りたくなりませんか。
数式で導くことで、日々漠然と過ぎていく時間を客観的に、定量的に見ることができます。そうすることで、新しい切り口を見出し、違う視点から生活を把握することができます。

日々の生活で、例えば毎日インターネットなりスマートフォンなりで漫然と1時間を過ごしたとしましょう。1日の中において、1時間はさほどの時間ではありません。気にせず過ぎていく時間です。しかし、計算式に落とし込むとどうでしょうか。
1時間×365日×64年(成人してから平均寿命までの年数)=23,360時間
この漫然とした時間を労働時間落とし込むとどうなるでしょう。平均的な日本人の労働日数は月21.5日。労働時間は1日8時間です。すると、
23,360時間÷8時間÷21.5=135.8カ月

この135.8カ月は、年に直すと11年4カ月。毎日の漫然とした1時間を数式で客観視すると、もの凄く長い時間になるのです。およそ11年もの間、パソコンなりスマホなりに時間を費やしていることになるのです。こうして計算してみると、日々漫然と過ごしている時間の恐ろしさと、習慣が人生に与える影響の大きさを感じますね。

人間は日々、「起きて」「食べて」「活動して」「寝て」を繰り返しています。それぞれの時間に目を向けてみると面白い結果が出てきます。ある人の一日をモデルに、日々の時間が生涯でどれほどの時間になるかを導いてみましょう。
仕事の定時は9時から夕方5時。通勤に1時間かかりますので、朝8時に出勤します。毎日1時間残業し、7時に会社を出て、自宅に帰ってくるのは午後8時 。
この人は通勤や休憩も含めると、仕事に12時間を費やしています。
月に平均21.5日、この労働体系で働いているとしましょう。22歳から働き、65歳まで勤めたとします。

11回目 図版

この図はあくまで労働年齢の図です。人生いつまでも働いているわけではありません。65歳で退職し、平均寿命まで生きたとすると、19年間もの人生があります。退職後は通勤と仕事の時間が自由時間になるとして計算しましょう。

まず、最も長いのが睡眠です。人は一生の間に、214,620時間寝ています。年数に直すと24.5年、つまり人生の3分の1近くは寝ているわけです。
次いで長いのが労働時間。43年の勤労生活の間、99,846時間働くことになります。11.4年働き通しです。
食事の時間は毎日2時間として、一生で61,320時間。これを年に直すと7年間です。人生の12分の1は食事をしていることになります。これほどの時間を食事に費やすのですから、世界中でなぜ食文化が栄えているのか、そして今後も栄えていくだろうということが、容易に想像できます。
毎日たった30分の読書は一生で15,330時間になります。東京大学に合格するまでの勉強時間が3,000時間と言われていますから、5倍近い時間です。相当な量の知識が貯まる事でしょう。
通勤時間は労働する日のみなので1日2時間ですが、一生で22,188時間。年に直すと2.5年。読書の時間も随分なものでしたが、通勤時間も相当なものです。電車に揺られている時間を有効活用すると、この時間は人生を豊かにしてくれること間違いなしです。
風呂の時間も毎日30分。読書と同様、15,330時間。年に直すと1.8年です。人生の50分の1は風呂で過ごすことになります。これも結構な時間だと思うのです。人生の50分の1もの時間を使うのであれば、バスタイムはもう少し文化的でも良いのではないかと提案したくなります。
毎日10分の習慣を一生続けた場合、その時間は生涯で5,110時間にもなります。チリも積もれば山となるとは良く言ったものです。
このように、一生の中でどのくらいの時間になっているか数字に直してみると、新しい視点で見ることができるようになります。数字は無個性で理屈っぽく、意味や感情や現実が抜け落ちた味気ないものであるかのように思われがちですが、「なんとなく」の事柄をより分かりやすく、生き生きと物語ってくれます。とりわけ人間にとって大きすぎたり長すぎたりする、感覚を超越した物事を分かりやすく等身大で表現するためには極めて便利です。
人間は寿命があり、いつか果てる存在です。科学技術も未発達で、タイムマシンもまだ作ることができません。時間から逃れられないのです。しかしながら縛られていながらも、日々の生活で知らずに失っている時間を見つけ出して活用することはできるのではないでしょうか。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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