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InterFM特番「ショートショート・デイズ」書き下ろし作品

田丸雅智(たまる・まさとも)

InterFM特番「ショートショート・デイズ」書き下ろし作品 ブック・カバー
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冷たい視線

2015.09.30 更新

 新しくできたゲレンデの取材のために、私は郊外の施設を訪れた。そこは人工雪で一年中、雪が楽しめるという施設らしいのだが、人工とは思えないほど良質な雪だということで評判になっていた。
 扉を抜けると白銀の世界が広がっていて、私は子供のころを思いだした。昔は、冬になると両親とよくゲレンデに行ったものだった。スキーはもちろん、ソリで斜面を滑り降りたり、雪合戦をしたり。目の前の雪を見ているだけで、童心に戻ったように心が躍った。
 ゲレンデには降雪機は見当たらず、まるで空から降ってくるように、雪は天井から舞い降りていた。雰囲気を醸しだすためだろうか、ところどころに真っ白い氷の彫刻が並べられている。
 オーナーに会って早々、私は雪の秘密について尋ねてみた。
 すると彼は、誇らしげに答えてくれた。
「雪には拘りがあります。年中良質な雪が作れるように、しっかり体制を整えていましてね」
 これはマスコミには初披露することなんですが、と、オーナーはつづけた。
「じつは、雪の作り方が独特なんです」
「独特というのは?」
 もったいぶるオーナーに、私は切りこむ。
「この雪は、アルバイトの方々が作ってくれているものなんですよ。うちでは雪を降らせるという重要な役割を、そのみなさんに担ってもらっていましてねぇ。この施設の天井付近で、良質な雪を作るのに欠かせない仕事をしていただいているんです」
「いったい、なにを……」
「雇っているのは、ある種の特殊能力を持った人たちでして。ほら、冷たい視線、という言葉があるでしょう? あれを文字通りにやる人たちがいましてね」
「冷たい視線……?」
「ええ、世の中には本当にそういう視線を持っている人が存在しているんですよ。その人たちを雇い入れて、降雪機の代わりを果たしてもらっているんです。もっと言いますと、この施設の天井から降らせているのは、雪ではなくて雨でしてね。それを冷たい視線で見つめてもらうことで、雨から雪へと変えているんです」
 冗談のような話に、私は戸惑った。
「……本当ですか?」
「もちろんですとも。あとで現場をお見せしましょう。じっと雨を睨みつけるだけで、ことは済んでしまうからおもしろいですよ。主に女性なんですがね。彼女たちは、じつに卓越した視線で周囲の温度を一瞬にして下げてくれる。ざぁざぁ降っている人工雨も、途端にさらさらとした天然さながらの粉雪に変わるんです。私はただ、彼女たちをマネージメントしているだけです」
 黙りこんで聴き入る私に、オーナーは、ただし、と付け加えた。
「彼女たちを雇うにあたって、ひとつだけ注意をしなければならないことがありまして。みなさんからの信頼が薄くなると、危険なことが起こりうるんです。力は強力ですからねぇ」
「危険というのは……?」
「ほら、そこに並んでいる彫刻。やけにリアルな形をしているでしょう?」
 言われて目をやると、先ほどの氷の彫刻が視界に入った。それは人の形をしていて、リアルと言えばリアルだった。
 オーナーは言う。
「捨てるのもアレなので、オブジェにでもなればと置いているんですがね」
 乾いた笑みを浮かべて、彼はつづける。
「あれらはすべて、冷たい視線の力で作られたものなんですよ。たとえば手前の彫刻。彼女たちの前で失言をしてしまうまでは、うちの優秀なスタッフだったんですけれど」

img_tsumetai-shisen_profile_akiyama朗読:秋山真太郎(劇団EXILE)
1982年、長崎県出身。高校卒業後に雑誌のモデルや俳優として活動を開始。
’09年に劇団EXILEメンバーとなり、映画や舞台を中心に幅広く活動中。

 

〈NEWS〉
「HiGH&LOW THE STORY OF S.W.O.R.D.」出演
《2015年10月期~日本テレビ深夜ドラマ/2016年7月16日(土)映画全国公開》
【出演】EXILE 三代目J Soul Brothers GENERATIONS E-girls 劇団EXILE ほか

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著者プロフィール

田丸雅智(たまる・まさとも)

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年12月『物語のルミナリエ』(光文社文庫)に「桜」が掲載され作家デビュー。12年3月には、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。新世代ショートショート作家の旗手として精力的に活動している。著書に『夢巻』『海色の壜』『家族スクランブル』、児童書に『珍種ハンターウネリン先生』がある。

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