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今日、終わりの部屋から

王谷 晶(おうたに あきら)

今日、終わりの部屋から ブック・カバー
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「今日、終わりの部屋から」第八回

2018.12.28 更新

・301号室 村田純

 あっ、どうもどうも。ハイ、あっ、大丈夫っす。うん、電話どうぞ。……。いやなんか、普通に可愛くてビックリって感じで。なんかごめんね、こんなボロアパートで。いやーなんか、最近やったらツイてて、今日スロで結構出ちゃって、そんで呼んじゃおっかなって。いやーそういえば自分ちにデリって呼んだことないなと思って。引っ越し前に一回くらいしとくかなと思って……うん。ここ取り壊しになるから年明け引っ越さなきゃで。あ、これ? ヒメカちゃんこういうの好き? そうそう、一番くじ。コンビニ。や、ちょっと一回引いてみたら当たっちゃって。一等。そうなんだよーなんかキてんのかも。やっぱそう思う? 買うべき? 年末ジャンボ。俺もそれ思ってさー。いま何億だっけ。一億? 二億? 七億?! まじで? 七億すげえなー。何すっかなそんなあったら。あーそうね、呼びまくりだね女の子。まいんち呼べるわ。すげーな七億。いやー絶対買お、年末ジャンボ。あれだよ、ヒメカちゃんにも運わけてあげられるかも。なんでってほら、あげちん的な……。……。いや、でも、やーまじ、でも俺ほんと最近ツイてんなー。だってヒメカちゃん、すげー可愛いじゃん。いやいやまじまじ。ホームページの写真よりぜんっぜん。ミラクル感じる。ラッキーラッキー。あ、シャワーね。うん一緒に。風呂場だいぶ狭いけど。いいよね狭くて。ふへへ。

・103号室 佐野春樹

食器あんまり無いな。じゃ他の壊れ物と一緒にまとめちゃうか。箱にちゃんと但し書きして。うん。ほとんど荷物無いし。あー、まー、たまにあるよこういう仕事は。引越し業者に頼む人がほとんどだろうけど。うちはまあ、なんでも屋みたいなものだから。普段は俺一人で片付けちゃうんだけどね。今日は清掃と運搬もコミだから人手欲しくて。最近駐禁厳しいでしょ。え? いや、怖がることはないんじゃない。遺品整理ったってここで死んだわけじゃないんだから。そうだよ。なに、それでさっきからビビってたのお前。バカだねー日雇いバイトにそんな仕事させないって。なんか、事故だとは言ってたな。あー、そういうの詳しく聞かないことにしてんの。言いたがってる人は別だけど。そうそう、話を聞くのも仕事のうちみたいな。別料金? 面白いこと言うね。でも需要あるかもなーそういう、ただ言いたいこと聞いてあげる人みたいなさ。そういう時あるもんな。カウンセラーとか大げさな相手じゃなくて、キャバって気分でもない感じの。今度そういうのもオプションで出してみっか。そしたらお前バイト来る? なんだよ自分で言っといて。まあ聞き上手って感じじゃねえもんな。学生だっけまだ? 就職とかどうしてんの。うち? バッカ単発バイト代出すのだってキュウキュウですようちは。まあ社会勉強にはなるかもな。いるよーいろんな人いるよ。今日のお客さんも立ち会いたくないってはっきり言われたしさ。とにかく全部、ゴミに見えるものでも詰めて運んでくれって話だからこれ。教科書? あ、ほんとだ。学生だったんだな。高校生かな。アパートで高校生が一人暮らしか。なんか事情があったのかね。いや、だから聞かないってそういうのは。深入りするような立場じゃないでしょ。服? 洗濯してなさそうなのとしてるのは一応分けとくか。ビニール袋入れて。そうそう。ほんと荷物ねえな。短い間だけ住む予定だったのかもな。貧乏って感じじゃなかったしなあ。そう、依頼してくれた人。お父さんだなあれたぶん。うーん、いたんじゃないかな。玄関にパンプスあったし。顔は見なかったけど。ああ、まあ職業病みたいなもん。こういう稼業でいろんな人んち出入りしてると分かっちゃうのよ。何人家族かとか、うまくいってる家庭なのかそうでないのかとか。ええ? 探偵なー。あれ免許いるしさ。設備投資も大変なんだよ。俺はなんでも屋さんでいいよ。おいおい、何見てんの。勝手に見ちゃ駄目だって。アルバムかそれ。卒アル? 普通の? 普通のだな。……この子かね、死んだ子。お前とそんなトシ違わないな。あー、そうねえ。やっぱりけっこういいとこの子って感じする。大事にされてたんだろうな。生誕記念で植樹だってさ。お前そんなんしてもらった? ないよ俺も。実家アパートだし植えるとこ無いもんよ。お前どこだっけ。えっ、言葉ぜんぜん京都じゃないじゃん。じゃ喋れんの京都弁。えー言ってみ言ってみなんか。ひひひおもしれ。似合わねえなー関西弁。俺はないよ別に。川崎生まれ東京育ちよ。標準語標準語。ほら仕舞いなさいってアルバム。しかしやるせないなー。事故ねえ。事故ったっていろいろあるからなあ。かわいそうにな若いのに。お前もさー、気をつけろよ。若いとバカやるけど命あっての物種ですよ。そうだよオッサンだよ。お前もオッサンになれば分かるよ。人ってほんと、びっくりするくらいあっけなく死ぬよ。死んだらそれまでよ。あーうん、信じないねー。いないよ幽霊なんて。ていうかいたら出てきてほしい人とかいっぱいいそうだけど、そういう人のとこには来ないじゃん。俺がもし幽霊になったらさ、誰か呪ったりするより会いたがってくれてるやつに会いに行きたいもん。ホラー? だんぜん心霊系より殺人鬼系のが怖いっしょ。生きてる人間が一番怖いよ。なー。

・203号室 ケイト・グエン 添谷陽美

 んん……うー……ハルミ? 帰ってきたの……? うー、おつかれ、バイト。あー、明かりつけないで。頭イタイ……。冷たいタオル乗せてるの。目も痛いの。ちょっと熱っぽいよ。ハルミもう寝る? 布団しいてない、ごめんね。……んあー、なーに、せまいよ。一緒寝るの? 頭いたいからやんないよ。はー……。ハルミ、手も足も冷たい。きもちいい。はー……。……。まだ寝てない? なんだか、目がさめてしまったよ。布団、いっこだけ使ってると、ふふふ。思い出す。ハルミと最初に会ったころ……。わたしまだ寮いて、でも出て行きたくて。ハルミがうちこいって言ってくれたの、うーれしかったなー。ミョーガダニの、せまーいアパート。よく覚えてるよ。ここよりはキレイだったけど、狭かったねえ。布団いっこしかしけなくて、だからいつも一緒に寝て……。あのときも、ハルミの足、冷たかったな。わたし、あったかいでしょ。体温高いよ。ミョーガダニでハルミと寝てるとき、うれしかったけど、どーなるんだろうなーって思ってた。わたしたち、わたし、LOVEそんなうまくいかないの知ってる。わたし、ホームでもうまくやれなかった。だから日本来ても、うまくやれないと思ってたよ。ハルミに会うまで。わたし、朝まで誰かと眠るの初めてって言ったの、覚えてる? あのとき。ハルミ、ヘンな顔してた。言わないほうがよかったかなって思ったよ。でも、好きな人と夜を全部過ごすの、こんなに嬉しいんだって、ハルミが教えてくれた。夜、ひとりで帰るの苦しいからね……もうそういうのは、イヤ。好きな人とは、朝までずっと一緒にいたい。はー……。眠くなってきた。ハルミ、手握って。冷たいの、気持ちいい。ハルミは? わたしあったかいの気持ちいい? ……寝ちゃった? ……。…………。

 ん。んー……まぶし。ねー、明かり消してえ。あー、八時? 朝? もうー? わー、やばい。遅刻しちゃう。起きなきゃ……まだ頭いたいなー。風邪かな。あれっ、ハルミ、もうちゃんと服着てる。早起きした? わたしも起こしてよー。

 は?

 何言ってるの。だって、きのう一緒に寝たでしょ。そういうのも、もうナシにしたいの? なかったことにしたい? どういう意味? え? ……ほんとに今帰ってきたの? きのう、夜帰らなかったの? 
 じゃ、わたしの手、握っててくれたの、だれ……。

(第九回に続く)

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作品について

著者プロフィール

王谷 晶(おうたに あきら)

東京都生まれ。小説家。2018年1月刊行『完璧じゃない、あたしたち』(ポプラ社)では、女同士のさまざまな関係を描き話題に。その他、『探偵小説(ミステリー)には向かない探偵』『あやかしリストランテ 奇妙な客人のためのアラカルト』(いずれも集英社オレンジ文庫)などの著書がある。

作品概要

東京下町、住宅街の一角に建つ全9室の古いアパートトネリコ荘は、その名の通り狭い庭に邪魔なほど大きな一本のトネリコの樹が植わっている。
周辺地域には再開発計画が持ち上がっており、数ヶ月後にはトネリコ荘もトネリコの木も全て打ち壊され更地になる予定。
そんなある夜。庭のトネリコが突然青白く光った。次の日から住人たちの身の回りで奇妙なことが起き始める。
怪奇現象の正体は? そして、住人たちの明日は?
いま注目の作家・王谷晶が贈るエンターテイメント小説。

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