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今日、終わりの部屋から

王谷 晶

今日、終わりの部屋から ブック・カバー
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「今日、終わりの部屋から」第四回

2018.08.24 更新

・101号 管理人室 飯塚寿夫
はいはい、はいはい。居ますよ居ますよ。……おーうなんだよ、また急だないつもセンちゃんは。え? いや用事なんてねえけどさ。ま、いいや上がんなよ。どうしたいここんとこマメに顔出すけど。茶飲み友達? よしてくれよジジくさい。そりゃ立派なジジイの年だけどよ。ジジイでもジジくさくなっちゃったら終わりだよお前。ハハハ。まあセンちゃんにゃ関係ないか。神様は不公平だね。男前はいつまで経っても男前だ。はあ、しっかしうるさくてかなわねえな。工事だよ工事。この辺もボロ家ばっかりになってきたから、あちこちで取り壊しだ建て直しだって。そうそう、ここも年内取り壊しなんだよ。言ったっけか? そうだよ古い古い。見りゃ分かるだろもう……五十年は経ってるな。でっかい地震でも来たら次はやばいよ。水回りなんかもガタガタでさ。でももう文句言われても無視してるよ、無視。引っ越し? 俺の? まあ、適当に考えてるよ。目黒の家に戻るのはめんどくせえからなあ、また適当な部屋でも借りて住むかな。嫁の小言だ孫の相手だってやってられんよ。男はさあ、静かな時間がなきゃいけねえよな。人生に。身軽で気楽が一番よ。なあ。そういうセンちゃんはどうなんだい。こっちには誰かと一緒に来てんのか? 一人。ああそう……いやいや詮索するつもりじゃねえけどさ。センちゃん家業継ぐって言ってたろ。だからもうこっちにゃ戻ってこないもんだとばっかり……そういやなんだったっけ実家は。農家。ああそうだ、リンゴ農家。青森だもんなあ。そういやセンちゃん子供は? いない? 結婚は? 嫁さんもこっち来てんのかい。いいじゃないって、またそれかよ。わかったわかったわかったよ、詮索しねえよ。んな顔しないでくれよ。……。あ、そうだセンちゃん、アレだよ。あんた甘い物食えたっけ? いやさあ、隣に婆さんが一人で住んでんだけどね。ほんものの婆さんよ。俺らより十は上だよ。でその婆さんがさ、なんだか知らねえけど急に「ちょっと出かけてきましたもんで」ってでっかい菓子折り持ってきたんだよ。昨日ね。あ、そうこれこれ。そう、帝国ホテルの。いやあの婆さんもう二十年くらいここ住んでるけど、こんなの持ってきたの初めてだよ。すんごいしみったれたババアでさ、いつ見てもヨレヨレの上っ張りにモンペ穿いてて小汚かったのにコレ持ってきたときはギラギラした服着て真っ赤な口紅なんか塗ってて。いや驚いたね。ちょっと気味が悪いよ。ありゃもしかすると来ちゃったんじゃねえかな。ボケが。ここ出てったら行くとこあるのかねあの婆さん……。ちょっと切り分けるからさ、一人じゃ食いきんないしね。これはアレかな、カステラか? カステラにしちゃ身が詰まってるね。うん……うん、あっまいな! いやでも茶請けにはいいかもな。ちょっと酒が入ってるよ。なかなかしゃれたもん買ってくるじゃないかあの婆さん。ふーん、帝国ホテルねえ。んなところに何の用事があったんだかねえ。どれくらいするもんなのかねこういうのは。なんだよセンちゃん食わねえのかい。仏壇? あげる? ああ、あれは……いや、あれは俺の仏壇じゃあねえんだよな。いや、変な話だよな。あれは姉貴のでさ。そう、三コ上の。もうずっと旦那と一緒に台湾で暮らしててさ。あっちに持ってけねえからってここに置いてくれって。位牌くらい持ってくのなんざわけねえと思うんだけどさ。何考えてっか分からねえよ。まあ俺もこういうのはよく分からんから、盆暮れ正月くらいかね線香あげんのも。うん。そう、この写真の子だよ。姉貴の最初の息子でさ。俺の甥っ子ってことだな。高校生んときだよ。事故でね……急にね。デキのいい子でね。姉貴も期待してたからなあ。しばらく半狂乱で……大変だったよ。後追いしようとしたりして。俺はなんにも叔父さんらしいことしてやれなかったなあ。今も? ハハハ、そうだな。線香もやらなきゃお膳をあげるわけでもねえしな……このカステラ、仏前にあげるか。甘いもん好きだったのかなあ。何も知らんまんま逝っちまったんだなあ。俺に似てる? 昔の? そうかい? そうなのかねえ。生きてたらどんな大人になってたんだろうねえ……。

・201号室 長谷川融(はせがわ とおる)

これをどなたかが読んでいるということは、今、日本、いや日本だけでなく報道機関の発達した先進国に於いても、私の事が大きく話題になっていることと思います。私の事。私の行った事業と言ったほうがよいでしょうか。まず一点、重要な事をお伝えしたい。私は一連の行動をまったくもってビジネスライクに行っており、そこに何らかの情熱、思想、ましてや劣情などは一切挟まれていないことをここに明記しておきたいのです。私は明確な目的意識をもって計画し、実行しました。冷静であること、勤勉であることは私の原理原則であり、私の心血を注いだ事業が場当たり的な勢い任せの結果であるとかふしだらな欲望に突き動かされて行ったことだとかの誤解を受けるのは我慢がなりません。なのでここできちんと説明しておきたいのです。これは私だけでなくあなたがたの生活にも大きく影響を与える、視野の大きな研究と思索によって生み出された計画なのです。この文章が公開された時点で私の仕事がどこまで解明されているのか不明ですが、おそらく大半の事業はまだ発見もされていないのではないでしょうか。それほどに私の計画は極めて冷静に、綿密に、長い準備とシミュレーションの下で実行されてきたのです。私はこの計画に人生の全てを捧げてきました。そして実行するたびにその練度、精度を向上させてきました。故に初期の仕事は少々杜撰な点もありました。あわや失敗かと思った事も一度や二度ではありません。しかし人は失敗を糧に成長する生き物です。私は失敗を恥とは思いません。ただ、同じ失敗を二度と繰り返さぬように、それだけは心に誓っていました。最初の私の仕事はもう報道されているでしょうか? 昭和五十四年、A区の前田喜美ちゃんのことです。ひとつ申し開きをさせていただくと、私も幼い子供をこの計画に使うのは気が進みませんでした。しかし何分初めての作業です。万が一にも中断、頓挫するようなことがあってはなりません。ですので不本意ながら成功率の高い、力の弱い子供を使うことにしたのです。これは極めてビジネスライクな計算によって導き出された結論であり、決して卑怯な気持ちから弱い子供を選んだのではないことをここに明記しておきたいのです。その証拠に次に選んだI区の岩谷圭三さんは壮年の、たいへん健康そうな方でした。おかげで完成までには苦労もありましたが、これで自信のようなものがついたのを覚えています。翌五十五年から平成元年までの事は皆さんすでによくご存知ではないでしょうか。A市、T区、S区、M区、K区、H市でお披露目した八名の方も、私の計画の協力者です。皆さん非常に優秀な方たちでした。中でも五十六年の田辺正敏君。学生服姿のたいへん利発そうな青年でした。ただ、田辺君の件は私がささいなミスをし、マスコミには事故と報道されてしまったのが遺憾の極みであります。改めて主張しておきたい。田辺正敏君の件も私の事業の一環であると。これらは極めてビジネスライクに、冷静に、計算の上で行ったことなのです。平成元年、O区の真壁美和さんの件は特に皆さんの記憶に残っていることと思われます。真壁さんの発見によってやっと一連の事業が関連のあるものだと一部の賢い人たちが気付き始め、私はほっとしたものです。いくら完璧な計画であっても、それを理解してくれる者がいないというのは張り合いのないものです。もちろん独創性と成功には孤高が何よりの友となるのは言うまでもないことです。さて、この文章が世間に公開された時点で私がどこにいるのか。皆さんきっと最も知りたいのはその点でしょう。万事滞りなく計画が進行していれば、私はすでに発見されているはずです。それによって私の事業は完成するのです。皆さんおめでとうございます。皆さんは私の働きと犠牲によってより良く進歩した世界に今、暮らしているのです。さて、別紙にある製図は私のお墓の設計図です。私は過度な称賛は求めません。ただ自分が眠る場所だけは理想の通りに整えていただきたいというささやかな願いがあります。図にあるように中央に私の墓碑を建て、それを取り囲むように一連の事業協力者の姿を象ったモニュメントを並べてください。協力者の皆さんの写真は白い封筒に入っています。古い物は当然デジタルカメラではなくフィルムカメラで撮影したのでやや画像解像度が粗いですが、どなたも全身画像を前後左右からきちんと撮影したのでモニュメントの作成に不都合はないでしょう。各人のモニュメントの下には本人の遺骨を埋めてください。全てとは言いません。ご家族にもお骨は必要でしょうから。私はそういう常識は持ち合わせているつもりです。次に…………

・301号室 村田純(むらた じゅん)

【悲報】下の部屋にキチガイ発生

1:風と共に名無し
なお限界の模様

2:風と共に名無し
画像

3:風と共に名無し
>>2 顔は見たことない
毎日アーウー叫んだり壁ドンしてる

4:風と共に名無し
壁ドンの正しい用法

5:風と共に名無し
>>4 たまに天井ドンもされるで

6:風と共に名無し
天ドンwwwwwwwww

7:風と共に名無し
マジレスすると管理会社

8:風と共に名無し
>>7 管理人さんいるけど顔見たことないンゴ

9:風と共に名無し
管理人は見とけよ

10:風と共に名無し
コミュ障は集合住宅住むな

11:風と共に名無し
イッチもキチガイというオチ

12:風と共に名無し
>>11 社畜童貞だけどキチガイではない

13:風と共に名無し
引っ越せ

14:風と共に名無し
いま天井ドンしとる
夜中やぞ

15:風と共に名無し
キチガイLIVE

16:風と共に名無し
叫んでる叫んでるまじおっかない
ケイカクガーとか言うとる

17:風と共に名無し
音声でもいいからうpれよ

18:風と共に名無し
使えない>>1がいると聞いて

19:風と共に名無し
イッチ消えたか

20:風と共に名無し
クソスレ

21:風と共に名無し
惜しい童貞を亡くした

(第五回へ続く)

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作品について

著者プロフィール

王谷 晶

東京都生まれ。小説家。2018年1月刊行『完璧じゃない、あたしたち』(ポプラ社)では、女同士のさまざまな関係を描き話題に。その他、『探偵小説(ミステリー)には向かない探偵』『あやかしリストランテ 奇妙な客人のためのアラカルト』(いずれも集英社オレンジ文庫)などの著書がある。

作品概要

東京下町、住宅街の一角に建つ全9室の古いアパートトネリコ荘は、その名の通り狭い庭に邪魔なほど大きな一本のトネリコの樹が植わっている。
周辺地域には再開発計画が持ち上がっており、数ヶ月後にはトネリコ荘もトネリコの木も全て打ち壊され更地になる予定。
そんなある夜。庭のトネリコが突然青白く光った。次の日から住人たちの身の回りで奇妙なことが起き始める。
怪奇現象の正体は? そして、住人たちの明日は?
いま注目の作家・王谷晶が贈るエンターテイメント小説。

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