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オトナのたしなみ

柴門ふみ(さいもん・ふみ)

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バックナンバー  123 

第1回 女が年を取るということ

2015.01.21 更新

27歳ぐらいの女性が、
「ほらもうあたし、オバサンだから」
などと喋っているのを耳にすることがあります。
現在58歳の私からすると、笑止千万もいいところです。
10代の一番輝いていた時代を過ぎてしまったから。だからおそらく、自嘲をこめて、
「オバサンになってしまった」
と口にしてしまったのでしょう。
しかし、それを35歳の女性がそばで聞いていたとしましょう。
「甘いわね。年増になる苦しみを、何もわかっていない」
彼女はきっと腹の底でつぶやくはずです。
けれど、その35歳の嘆きを40歳の女性が聞いたなら、
「ちょこざいな。本当のオバサンは40歳から始まるのよ」
と苦々しく思い、40歳の女性が愚痴れば、50歳の女性が彼女を甘ちゃん扱いすることでしょう。
女性は、自分より年下の女性が年齢を嘆くのが許せないのです。
それは多分、いつも自分の年齢を気にしていて、無意識のうちに若い女性に嫉妬しているからだと思います。
なので、自分より年配女性のいる前で、
「もうオバサンですから」
などと口にしては絶対にいけないのです。

自分より若い女性に苦い感情を抱いている一方で、自分が年を取っていることに気づいていないケースも多いものです。
20代向けファッションコーディネイトをそのまま取り入れている、いわゆる「イタイ」40~50代の女性たち。しかし、それも仕方ないといえば仕方ないのです。
人は一日の大半、自分の姿を見ずに過ごします。自分の顔を見るのは、朝晩の洗顔の時だけ。化粧の時にはもう少しじっくり見るかもしれませんが、それでもせいぜい30分でしょう。一日の内で残り23時間30分は自分の老けた顔を見ないで過ごすので、自分の姿かたちは「若かった頃のイメージ」で止まったままの人も多いのでは?
また、絶頂期の楽しい思い出に、人はどうしても縛られてしまいます。
生まれつきの美人はもちろんのこと、「並」やそれ以下の女性でも、ハタチ前後は、間違いなく誰でもぴかぴかと輝き始めます。その若いメスの魅力にオスたちは引き寄せられ、彼女たちをチヤホヤするのです。しかしそれもまた、ほんの一瞬のことなのです。
10代まではずっと地味だったけれど、ハタチぐらいで突然モテ始めてしまった「並」の女性。急にチヤホヤされた蜜の味が忘れられず、40になっても「あのハタチの頃の髪型・ファッションをすればずっとモテ続けるはず」、そう思い込んでいるのが、「イタイ」女性たちなのです。
子どもの頃からずうっと美人の女性が、案外「イタイ」ファッションになっていないのは、特にいつが絶頂期というのがないからでしょう。
自分より若いメスに嫉妬するくせに、自分の肉体的衰えを直視していない。かように、女性が年を取ること~自分の年齢を受け入れること~は難しいのです。

そういう私自身、自分の年齢を受け入れていないことがしばしばです。というのも、30代や20代の女性を主人公に漫画を描いていると、すっかりその登場人物になりきり、娘気分が乗り移ってしまうからです(任侠映画を観終わった男性が、肩を揺らして映画館から出て行くのと同じ原理です)。
その気持ちのままショップに行くと、とんでもない洋服を買ってしまっていることがあります。そして翌朝冷静になり、
「なんでこんな小花が飛び散った、甘々プリントのワンピースがウチにあるの!?」
思わず叫んだことが何度もあります。
そんなふうにして血迷って買ってしまった洋服が私のクローゼットにはかなりの枚数あったのですが、先日すべてを息子の彼女にあげました。試着させると、27歳の彼女にはなんとお似合いなことか! ショップの店員さんって度胸あるなあ。よく58歳の私に「とってもお似合いです」などと言えたものだ。
「イタイ」大人になりたくないなら、ショップに足を踏み入れた時に自分の年齢を頭の中でつぶやき、決して店員さんの言葉に惑わされないようにすることです。彼女たちは売るためなら、ホント何でも言いますから。

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著者プロフィール

柴門ふみ(さいもん・ふみ)

1957(昭和32)年、徳島県生まれ。お茶の水女子大学卒。1979年漫画家デビュー。若者たちの恋愛をテーマにして『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』『同窓生 人は、三度、恋をする』など多くの作品を発表している。またエッセイ集として『恋愛論』『大人の恋力』『そうだ、やっぱり愛なんだ』などがある。ペンネームは中学時代からファンであったポール・サイモンに由来している。

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