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オトナのたしなみ

柴門ふみ(さいもん・ふみ)

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バックナンバー  123 

第28回 結婚は愛か条件か

2016.03.21 更新

年頃の娘を二人持つ幼なじみと、久しぶりに会いました。
「いいことと悪いことが、ほぼ同時に起きたのよ」
彼女が私に言いました。
「長女が結婚一年で離婚、次女が力士と婚約したの」
「えっ、力士って、おすもうさん?」
私は驚いて、思わず聞き返しました。
「そうなの。大学時代から相撲部のマネージャーをやるぐらいだったから、根っからの相撲好きだったのね」

幕下の力士だから名前を言ってもわからないわよ。そう言って彼女は、娘と彼のツーショット写真を見せてくれました。
「大きいわねえ」
身長180センチ、体重200キロ、着物姿に、頭を大銀杏(おおいちょう)に結った彼は、堂々たる力士でした。

「けれど、二人の結婚を認めるのには勇気がいったんじゃないの?」
もし、私の娘が力士と結婚したいと言いだしたとしたら……? 私には想像もつきません。
「そうねえ。もし長女が離婚していなかったら、私は次女の結婚に反対したと思うわ」

彼女の長女はとても優秀で、国立大学の医学部を卒業した女医さんなのです。頭が良く合理的に物事をとらえる長女は、
「恋愛で無駄な時間を取られるよりも、条件のかなった相手とさっさと結婚するわ」
そう言って、一流大卒で一流会社勤務のサラリーマンとお見合いをし、わずか三カ月で結婚を決めたのでした。
ところが、わずか一年で破局となったのです。それも、長女からの一方的な離婚通告だったとか。
<暮らしていくうちに情がわくのではと思ったけど、一年過ぎても結局わかなかったから>
というのが、彼女が離婚を決めた理由でした。

一方、次女は力士のことが好きで好きでたまらなくて、この人と結婚できるだけで今生の幸せ、という状態であるらしいのです。
「力士なんて、活躍できる期間は短いし、横綱なんてとても無理。結婚しても、この先苦労が待っているのはわかっているけれど」
それでも、娘がこれほどまで大好きなのだし、力士も人柄はとても良いらしいので、幼なじみはこの結婚を応援することにしたというのです。
「それと、条件だけで結婚した長女が結局失敗したのを見てるから」

結婚相手は条件で選ぶか? 愛で決めるか?
これは、実に悩ましい問題です。
お見合い結婚でも、幸せな結婚生活を送る人もいますし、親の反対を押し切り大恋愛の末結婚したものの離婚に至るケースも少なくありません。
 
ただ、大好きでたまらない人と結婚式を挙げる喜び。
期間の保証はないけれど、たとえ短期間でも大好きな人とラブラブな新婚生活を送る幸せ。
これらは、条件だけで結婚した人が、生涯で絶対に味わえないものなのです。

人生の大きな喜びを味わいたい、貪欲な人はリスク覚悟で愛だけの結婚に飛び込むべきです。それでうまくいけば言うことはないですし、万が一失敗しても楽しい思い出は、一生心に残ります。
一方、無難で安全な人生を送りたい人は、条件を吟味した相手と結婚したほうがいいでしょう。出会いはお見合いでも、相性が合えば恋愛相手よりもより信頼しあえる良いパートナーになれます。私の友人にもこのような夫婦はいっぱいいます。
ただ、安全安心と思っていた条件結婚でも、突然夫が病に倒れたり亡くなったり、というケースもあるのです。

結論としては、どちらも五分五分、というところでしょうか。
大恋愛結婚も、破局した場合に楽しい思い出を引きずって、一向に立ち直れないようだと不幸です。夫に早く旅立たれても、つらいでしょう。

どちらを選んでも、夫や結婚生活に執着し過ぎないことが大切なのだと思います。

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著者プロフィール

柴門ふみ(さいもん・ふみ)

1957(昭和32)年、徳島県生まれ。お茶の水女子大学卒。1979年漫画家デビュー。若者たちの恋愛をテーマにして『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』『同窓生 人は、三度、恋をする』など多くの作品を発表している。またエッセイ集として『恋愛論』『大人の恋力』『そうだ、やっぱり愛なんだ』などがある。ペンネームは中学時代からファンであったポール・サイモンに由来している。

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