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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

女って何だ? ブック・カバー
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第38回(最終回)

2018.01.26 更新

連載「女ってなんだ?」、途中で担当が退社したりしたが、めでたく最終回である。

後半は、学校、職場、家庭など、シチュエーション別で女について語ってきたが、結果として「どこにいても厳しい」という話になってしまった。

では、このコラムの結論は「そもそも女に生まれたのが間違いであった」となって、「受精前からやりなおせ」もしくは「誰かのキンタマをもいでつけよう」がアンサーになるかというと、それも違うし、そこでも「私のキンタマは東大卒IT企業社長の」などのマウンティングが起こるにきまっている。

逆の性別なら上手くいくという保障はないし、自らの不遇を全て性別のせいにするというのも一種の性差別な気がする。

当コラムをどんな属性の人が読んでいるのかは知らないし、そもそも誰か読んでいるのかさえ謎だが、万が一読んでいる女性(にょしょう)がいるとしたら「この乱世において、文字が読めるところまで、その性別でやってこれた」ということである。
どこにいても厳しい社会において、それでも女としてやってきた上に、ひらがなやカタナナ、果ては漢字まで覚えたのだから、まずはそこを評価する方向でいきたい。

この「シチュエーション別の女」によって、今は女にとって乱世、つまり「女が生きやすい社会とは言えない」ということはわかったが、だからといって「社会が悪いから仕方ない」「社会整備はよ」と、ひたすら、ソシャゲの詫び石をせびるような姿勢でいればよいというわけではない。

例えば、昨今しきりに「女性が活躍できる社会に」と言われている。
今のところ「家事育児ついでに介護もやって、さらに働こう」という、常人には無理な大活躍を求められる社会になっているのが実情だが、社会が大型アップデートメンテをして本当に「女性が活躍できる社会」になったとしよう。

私は活躍できるだろうか。
多分無理な気がする。「女性が活躍できる社会」というのは、能力や、やる気があるのに、性別のせいで正当な評価やチャンスさえ与えられていなかった女性が活躍できる、という意味だ。女なら誰でも活躍できるという意味ではない。
逆に言うと、デキる女とボンクラの差がさらに開く社会である。

「男性が活躍できる社会に」と言わないのは、男はすでに活躍しようと思えば活躍できる社会だ、あとはもうお前らの問題である、ということなのだろうが、男が全員活躍しているといえるだろうか。やはり活躍してる奴と「躍」どころか「動」すら感じない男に分かれている。

活躍する場やチャンスが平等に与えられたとしても、デキる奴とデキない奴が出てくる。「女性が活躍できる社会」が実現したとしても、男と同じことが起こるに決まっているので覚悟が必要だ。「社会さえよくなれば」という話でもないのである。

また、問題というのは解決したら次の問題が出てくるものだし、逆に解決してしまったがために出てくる問題もある。

昔は、女に自由や権利がないのが問題だったと思うが、当時に比べて多少自由になった今は「自己責任」と言われるようになった。
結局、女も男も「その時代にあった問題」を抱えて生きていくしかない。ただ生まれてきた時期によって、問題の量や難易度が違うのだが、それはもう運なので、どうにかしようと思ったら両親の出会い、それが手遅れなら受精を阻止する必要がある。

このコラムの連載を通じて「女とは難儀なものだ」と感じることは多々あったが、例え今、隣に「キンタマの木」が立っていて「ご自由におもぎください」と書かれていても、もいで自分の股間につけたりはしないと思う。
冒頭でも言ったが、男になれば悩みが全部なくなるとは思えないし、「女は大変だ」と言いながらも「でも男は男で大変そうだ」とわかっているからだ。
両方大変な中で、これまで今の性別でやってきたのだから、新しい大変なほうへいくより、引き続きやっていくほうが楽に思える。

しかし女として「やってきた」という中でも、「これはやれん」と思う局面はある。
そういうときは「男は男で大変そうだ」という発想すらなくなってしまう。

「そうは言うても、女は結婚すれば安泰でしょ」と言ってしまう男性は、おそらく男として「やれん」状態なのではないか。
男に生まれてすごく辛い状態なので、女が女に生まれただけで楽勝なように見えてしまうのだ。
これはもちろん逆もあり、自分も女として上手くいかないとき、過剰な男叩きに走りたくなってしまうときがある。これは人類滅亡の第一歩だ。

例え女として不幸や不遇があっても、これは全て、男(でかすぎる主語)が私のキンタマを奪ってつけているせいだ、というわけではない。一体何個キンタマがあるのだ。

また「女とは難儀だ」と思うのは、自分が難儀な部分のみ見て「難儀がおったぞー!」「ペロッ! これは…難儀!」と言っている可能性もある。

女に生まれてしまった以上、「この腐敗した世界に生まれてしまったゴッズチャイルド」という思想ではなく、「せっかく女に生まれたんだから」という姿勢で生きるべきだろう。

女38

これにて約一年半の怒りのデスロードも完結。

もっと水が飲みたい、渇ききった読者諸氏に朗報だ!(ヒャッハー!)

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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