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女って何だ?

カレー沢薫

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第1回

2016.07.08 更新

本コラムのテーマはズバリ「女が苦手な女」、もっと厳密に言えば「女」である。

もうこの時点で若干ズバリじゃなくなった気がするが、実は「女」というのは私が意識的に避けてきたテーマである。
何かの間違いでそういう話になりそうになった時は「そんなことより猫はカワイイ」「おキャット様! おキャット様!」と、突然偏差値が5億下がったかのような文章を書いてお茶を濁してきた。

では、なぜ今回テーマを「女」にしたかというと、私も三十半ばになり、そろそろこの問題と向き合わねばならない、と思ったから、というわけでは全然ない。

そもそもこんなテーマになるはずじゃなかったのだ、当初の依頼は「意識高い系」についてのコラムだった。
所謂「意識高い系」の人たちが集いそうなところに潜入取材し、現場の様子をコラムにするというものだった。
なかなか面白くなりそうなテーマである。しかしまず私が田舎に住んでいるという問題があった。明言は控えるが、イオングループが住民の娯楽を支えているような地方と言えば、大体イメージできると思う。むしろ意識が高い人間なら、真っ先に脱出を図るような場所である。こんな田舎で意識が高い人が集まる場所と言われても、スタバぐらいしか思い浮かばないし、そのスタバすら車で一時間半かかる。

また、私は平日昼間会社員をしているため、コンスタントに都心に取材に行くというのも無理であり、仮に時間を捻出したとしても、このご時世、交通費まで出す出版社はほぼ皆無なため、確実に赤字になる。
つまりこの依頼を受けると、原稿料マイナスで、貴重な会社の休みに意識高そうな奴が集う場所に行き、意識高そうな奴の意識高そうな会話を聞くという、一体何の罪があってこんな苦行をせねばならぬのか、マックブックプロの角で500人ぐらい撲殺してないと、こんな罰は受けないだろう、という目に合わなければいけない。

よって、このコンセプトで書くのは無理だと素直に断った。
すると今度は、その「いつもは会社員をしている」という特性を生かし「会社内の人、そこで起こった出来事」などをテーマにしてはどうかと提案された。

悪くないテーマである。
しかし当方、会社員である以前にコミュ障という特性を生かしてしまっており、社内で誰とも仲良くなく、それ故に、このような執筆業をしていることを今までずっと秘密にできたのである。
それを実在する会社内の人や具体的に起こった出来事を書いてしまっては、万が一の身バレがあり得る。
むしろそれが原因で、兼業作家から専業作家にジョブチェンジしなければならない事態となる可能性が高い。

よって、これも無理だと断った。
さすがに担当が出してきた案を二回も蹴ったのは申し訳なく、自分でも考えねばと思った、そこで、前述の通り私の一番の特性である「コミュ障」また兼業漫画家を続けているのは、大きな将来不安によるものなので「老後」や「老後破産」などをテーマにしてはどうか、と提案した。

すると、担当は、コミュ障や老後も面白そうですね、と前置きした上で「ところで「女」というテーマはどうですか」と言ってきたのであった。
私が「そんなことより猫はカワイイ」と言い出すのと全く同じノリである。
まさか私の案を一蹴し、最も書きたくないテーマを繰り出してくるとは思わなかった、この担当とはメールのやりとり数回のみで会ったこともないが、これは今までの担当とはなしえなかった、かつてない劣悪な関係が築けそうだと、オラわくわくしてきた所存である。

正直「嫌だ」と思ったが、今回断る理由は「何か嫌だ」しかない。
それに、すでに2回も嫌だと言ってしまっている。さすがに3回目は「こいつ本当にやる気あるのか」と思われる恐れがある。

私はお世辞にも売れている作家ではないので、依頼された仕事はタダでない限りは大体受けている。しかしこの業界、こっちがやる気でも途中で立ち消えになってしまう話も少なくはない。よって一秒でも早く開始させなければならないのだ。

他の商売と同じで、相手の目が覚める前に財布からクレカを出させ奪い取らなければいけない。それを、あれは嫌だこれは嫌だと言っていては、出かかったクレカが引っ込んで「こいつに声をかけたのは間違いだった」という正解にたどり着いてしまう。

よって「いいテーマですね、色々書けそうです」と、1本も書ける気がしないのに言ってしまったのである。

だが、そもそも何故そんなに「女」をテーマにしたくないのか。やはり私自身が女でありながら「女」に対し言い知れぬ畏怖を感じているため、できるだけ触れたくないと思っているのだろう。
よってまず次回はその恐怖がどこから来るかについて考えていきたい。
ともっともらしいヒキで終わろうとしているが、もちろん考えたくない気持ちでいっぱいだ。

次回突然「そんなことより猫はカワイイ」という話になるかもしれないということを先に断っておく。

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著者プロフィール

カレー沢薫

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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