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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第9回

2016.11.09 更新

前回は「バターケーキ女」なる、実在しない女について熱心に語る、というキツネに化かされた人みたいになってしまったので、今回は確実に実在するメジャーな女について語りたい。

その女とは「オタサーの姫」だ。
少し前にネット界隈で一世を風靡し、各処で議論が行われた存在である。

ではまず、オタサーの姫に関するいつもの担当メモを紹介しよう。

【女は自分だけのオタクサークルやマニアックなコミュニティに所属している。
「はわわ」「ぐー」など独り言に擬音を入れる。
リズリサやアクシーズファムなど、フリルやリボンがついた子どもっぽい服が好き。ロリータ気味。
男好きだが処女ぶる。男性向けアニメやアイドルが好きな私が好き、人と違う自分が好き。それらを「女の子っぽくない変わった私」アピールにも利用。
自分よりちやほやされている目立つ女の陰口を叩くなど、基本的に性格が悪い。】

まず、人間を紹介するのに「性格が悪い」と書けてしまう胆力がすごい。
オタサーの姫の性格が悪いというより、担当に説明させるとどんな女でも性格が極悪になる、とんだマジックタッチの持ち主だ。

しかし、世間一般のオタサーの姫に対するイメージはおそらくこんなものだろう。

だが、オタサーの姫というのは、上記のような、ゴスロリファッションに身を包んだ、中の上クラス、AKB総選挙279位ぐらいの女が、バンダナメガネのオタク男数人を引き連れて池袋を闊歩している図のことだけを指すわけではない。

そんな愉快な存在ならいい、そういうパレードなのだと思える。
しかし、オタサーの姫とは、オタクにちやほやされて満足している女のことだけをいうのではない、コミュニケーション能力が低い男の集団の中に乱入し、一騎当千していく、オタサー無双(発売元コーエー)女の総称なのだ。

例えば、それなりに仲良くやっていた童貞グループに、大して可愛いわけじゃないがヤリマンという名の手榴弾が投げ込まれたとする。
すると童貞たちは「穴兄弟」というバンドを組み一層結束を強くする、なんてことはまずない。そのヤリマンをめぐって内部崩壊を起こす、よってオタサーの姫はサークラ(サークルクラッシャー)とも呼ばれるのだ。
このように、オタサーの姫の仕事現場は陰惨なものなのである。

またオタサーの姫が暗躍するのは、男女間だけではない。皆も学校などのコミュニティで「イケてない女グループの女王」を見たことがあるだろう。あれも、コミュ障たちをコミュ力がそこそこある人間が制圧するという構図は同じだ。
もちろん私は、無双されていた方であり、雑兵Aとして、董卓(姫)と目が合った時半笑いするだけの学生生活だったし、今もそのポジションはあんまり変わっていない。

オタサーの姫の怖いところは「俺より弱い奴に会いに行く」という、逆ストリートファイター思想なところだ。
キラキラ系女子などは、レベルが高い人間の集団に入り、そこでの姫を目指すのだが、実力次第では自分が淘汰されてしまう恐れがある。
だがオタサーの姫は最初から自分より下の集団に入る、進学校のビリよりドヤンキー校のトップを獲るタイプだ。徹底した「急募チヤホヤ※チヤホヤしてくれる人間のレベルは問いません」なのである。

このように勝てる戦しか出兵しないということは、全戦全勝、無敵ということになる。だがもちろん、勝てる勝負かどうか見極める目と、そこで立ち回る要領の良さが必要だ。

私が、以前キラキラ系女子のサマンサタバサより、オタサーの姫のアンクルージュを粉砕したいと言ったのはそこである、キラキラ系女子は「がんばってんなあ」と思えるが、オタサーの姫は大してレベルが高いわけでもない女が要領だけで上手いことやっているイメージがあるからだ。
実際はオタサーの姫も姫であるために努力はしているのだろう、だがそれが、キラキラ系女子よりさらに認めづらいのだ。

このように、無双され続けた雑兵Aとして、オタサーの姫に対しては、担当の女に対する憎悪の半分ぐらい(担当を超えると世界が滅びる)の怨嗟を持っていたのだが、実生活で「あっこれはオタサーの姫だ」と思ったのは2回しかない。

1回目はゲーセン。男の方は3人、大学生風で、全員メガネにカバンをたすきがけ、絵に描いたようなオタサーの姫のとりまきだ。しかし問題は姫の方であり、彼女はロリータファッションではなく、男に負けず劣らず地味であり当然のようにメガネだった。
彼女たちはゲーセンのホッケーゲームに興じており、陰惨さの欠片もなかった。

2回目は同じく男3人に女1人という構図で、1回目よりは全員見た目が垢抜けていた。しかしその集団に出くわしたのは、アニメ映画「キングオブプリズム(キンプリ)」放映後の映画館のロビーであり、全員一心不乱にキンプリのこと、むしろ男のほうが熱心に登場キャラの「大和アレクサンダー」について語っていた。

結局、私の憎悪も、脳内で作り出した架空のオタサーの姫像に対するものであり、本当のオタサーの姫とその愉快な仲間たちの現場は、このようにほのぼのとしたものなのかもしれない。

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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