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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第8回

2016.10.26 更新

今回のテーマは「バターケーキ女」である。

まず最初に聞きたいのだが。お前らこの女のことを知っているか?
私は全くの初耳であったので、私の質問に唯一舌打ち以外で答えてくれるグーグル先生に聞いてみたのだが、結果一向に出てこないどころか「ほっそり女子が食べてるスイーツベスト5」などという、ほっそりしたいのにスイーツを食おうと言う貴様の発想がまずスイート、としか言いようがないクソトピックが出てくる有様である。
おそらくバターケーキ女はまだ浸透していないか、出たての言葉なのだろう、深海魚のごとく毎年新種の女が発見されるのだから仕方がない。

しかしあまりにも出てこないので、よもや貴様(担当)が今作った言葉じゃないだろうな、と思いつつも、まずは担当が添付してきた「バターケーキ女」の説明を見ていきたいと思う。

【バターケーキ女とは、「キラキラ女子」の劣化版。地方都市や郊外に住み、市役所や中小企業に勤めている。これといった自分がないけれど、この街で輝きたい欲はある。
女の子っぽいアイテムを使っているものの、その愛用品はキラキラ女子愛用ブランドのパクリの安物で、これらをネット通販で買いがち。インスタなどキラキラ女子が好んでいることをマネしてみるも、垢抜けない。軽自動車に乗っている。
目立つことを嫌い、まわりも同じようなタイプで固めて集団行動を好み「ウチらってモテないよねー」と言いながらも、海に行けば、内心『こいつらよりはイケてるだろ』と思っている。】

今作ったにしてはディティールが細かすぎるし、もはや怨念すら感じる。
中二の時ノートに描いた「俺が考えた最強の異能力者」だってここまで設定が多くなかったと思う。
実はこれでも半分ぐらいには削った。全文載せると、原稿料は担当に払うべきという話になりかねない。

どういう女か、というのは必要以上によくわかったが、それにしてもバターケーキの語源がわからない、もはや担当の個人的恨みとしか思えない。おそらくこういう女に後頭部をバターケーキで殴打されたことがあるのだろう。

しかしこのバターケーキ女、一見田舎でキラキラ女子の真似事をしている安っぽい女のように見えるが、割と悪くないようにも思える。
このバターケーキ女の特徴を見て「これアタシのことじゃん」と思った女は、多分自分の人生をすごくいいとは思ってないが、悪いものと思っておらず、そこそこ満足しているのではないだろうか。

バターケーキ女と、ただキラキラ女子になりたくてなれない、切れかけ蛍光灯女との違いは、身の程をわきまえているかどうかだと思う。
キラキラ女子や都会に対する憧れはあるし、出来れば地元の山中運送(株)、とかではなくサイバーエージェントで働きたい、とは思っているが、実際、都会に住みサイバーエージェントに入社し、本物のキラキラ女子に囲まれて仕事などしたら、瞬時にメンがヘラってしまう、ということは理解しているのだ。
よって、山中運送(株)総務部のまま、やりがいとかクリエイティブとかとは無縁の仕事をしつつも、なんとなくおっさん連中に可愛がられ、商店街にできたオシャレ風のカフェ(隣は米屋)で、ボヤけた飯の写真を撮ってインスタに上げてなんとなく満足しているのだ。
逆にこのぐらいの女が自分の実力を見誤り、都会に出てキラキラを目指したら確実に不幸になる。女に限らず人間身の丈に合わないものを目指すと破滅しやすく、田舎ですらパッとしなかったのに、キラキラ女子や意識高い系にあこがれて上京してきた女など、闇金ウシジマくん一発合格であり、すぐさま「キラキラ女子くん」編スタートである。
バターケーキ女は、決して主役にはなれないタイプだが、その分ウシジマくんの主役にもならずに済んでいるといえる。

しかしこういうタイプは、常に「これでいいや」と思っているため向上心がないともいえるし、これでいいやと思い続けていると「これで」がドンドン下がるため、足の指毛は常に生えていていいぐらいまで落ちる可能性もある。
また現状を変える力も低いため、気づいたら、手取り14万の山中運送㈱総務部のまま30年が経ち、チヤホヤしてくれていたおっさんは全員死んだ、というような事態にもなりかねない。
高望みしすぎず、なんとなく就職結婚、なんとなく幸せになっていそうなバターケーキ女だが、逆にそのルートから外れると全くつぶしが効かなくなりそうでもある。
この「身の程を知る」と「上を目指す」のバランスは非常に難しい。上を目指しすぎるとウシジマくんだし、下を見すぎると指毛生え放題である。
かくいう私も、日々自分の不遇を嘆いてしまうのは上を見てしまうからだ。確かに全く売れてはいないが、このように仕事があるだけいいと思えれば幸せなのだ。それをアニメ化だの100万部だのと比べるから不幸になるのである。
しかし自分のような人間が現状に満足すると、それがドンドン下がっていき「今日も俺は息してるから偉い」というところまで落ちる、というも容易に想像がつくのである。

※ 後日確認したところ、バターケーキ女はマジで担当の造語だった。
  ググりにググッた当方の時間の即刻返却を要求する、訴訟も辞さない。

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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