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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第7回

2016.10.12 更新

今回のテーマは「意識高い系女子」だ。

「意識高い系」、すっかり市民権を得た悪口だ。むしろ「系」という言葉さえつければ何でも悪口になる法則が成り立っているような気がする。
「美人」はいいが、「美人系」というと、美人じゃないのにイイ女ぶってる感が出てしまう。
「系」をつけることにより、ヴィトンがヴィトソに早変わりなのである。

よって「意識高い系」も「意識だけ高い系」と同意義と見なされがちだ。
では具体的に、意識高い系女子とは何か、担当から送られてきた「○○系女子メモ」を引用する、これをコピペするだけで尺が稼げるという優れものだ。

【SNSが好き、「○○さんの知り合い」など、人脈を作りたがる。○○会(憂鬱な水曜だからパクチー食べよう会)、異業種交流会などをやりたがる。政治、貧困など社会問題に関心があり、SNSでリツイート。
ことあるごとに自分の本当にやりたいことってこれかな、と悩みだし、将来の夢は、日本をちょっとよくしたい、など具体的にはわからないけど壮大。起業、世界一周、自分らしい働き方、など仕事で何かを成し遂げたい。愛読書は自己啓発本や起業家の自伝。
スタバやカフェでMacいじる自分が好き。マルチ商法にはまりがち。SNSで女や恋愛にまつわる迷言をたまにつぶやく。シャンパンを「泡」と呼ぶ。】

見ているだけで疲れる、海外版のレッドブル飲み過ぎで肝臓壊しそうなタイプだ。
この高みを目指している感は、キラキラ系女子に通じるものがある。しかしキラキラ系が目指すのはもっと女子寄りで、目指すところはセレブな気がする。
意識高い系は、モテとか金とかはいいから「自分らしく生きる」「何かを成し遂げる」ことに重点を置き、さらにそれが他人から見てクールでスタイリッシュでありたいと思っているタイプだ。

つまり、数年前「ノマド」という言葉にびしょ濡れになったタイプである。
例え業務内容が、デバッグだろうが、エロゲーの局部に延々モザイクを入れる仕事だろうが、それをスタバでmacで「カタカタカタカタ……ッターン!」とやりたいのだ。

例え偉業でも、鼻の穴よりでかい鼻クソを出したとかではダメなのである。むしろそういうことは出来ても黙っている。
「自分らしく生きる」というのも、バナナを食いながら、日々木から木へ飛び移る忙しい毎日で、強そうなゴリラは大体友達、という生活だと、いくら「ありのまま」でもダメである。
シンプルだけど上質な、カレーうどんとか一生食わないと神に誓ったかのようなワードローブを身にまとい、コバエコナーズとか置いてない、無印良品の店内かよ、というような生活感ゼロの不自然な部屋で「これが私の自然体の暮らし」と微笑むのが意識高い系が目指す「自分らしさ」なのだ。

つまり内容はともかく(本人もわかっていない場合が多い)、総じて自分の満足度が高く、他人の目からみても「カッコいい生き方」を追求しているのが意識高い系だ。

これは、キラキラ系とはまた別方向で苦労が多そうな生き方である。何故なら、プライドと意識は低いほうが生きやすい。

例えば「マンガリッツァのモノマネをすれば命だけは助けてやる」と言われたとする。すると、おそらく大半の人間がマンガリッツァを知らないため、全滅する。
全く例えになってなかったので、もう少しハードルを下げて「ウンコを食ったら助けてやる」と言われたとする。ハードルと一緒に、このコラムの質も地に落ちた気がするが、とにかくそう言われたとする。

まず、本当にプライドと意識が高い人間はここで死を選ぶだろうし、たとえ食って生き延びたとしても、自分は意識とプライドが高いと思っていた人間であれば、この「食った」という事実が一生人生に影を落とす。
それに対して、プライドも意識もない人間は次の日食ったことを忘れるか、食ったことを持ちネタとしてワタミで披露、生中ジョッキ片手に「割と甘かった!」などと言っているのである。

人生で起きるさまざまなことは、自分自身さえ笑い飛ばしてしまえば、他人から見てもたいしたことではなくなる。ただ、意識とプライドが高いと、笑い飛ばせないことが多くなる一方なのである。
不遇な立場に立たされれば「自分はこんなところにいる人間じゃない」と思い悩むし、他人からぞんざいな扱いを受ければ屈辱と感じ、傷つく。

「自分はこんなもんじゃない」と思いながら生きるのは「私はこの程度」と思って生きるよりずっとつらいことである。
しかしそれは本当に意識とプライドが高い人の話であり、意識だけ高い系の女は、実情はともなく、とにかく「何か良さげ」に見えればよいと思っているので、「スタイリッシュなマンガリッツァのモノマネ」や「私らしいウンコの食い方」を研究したりと、割とたくましくやっているのかもしれない。

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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