キノノキ - kinonoki

キノノキ - kinonoki:ナビゲーション

女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

女って何だ? ブック・カバー
バックナンバー  123456...22 

第4回

2016.08.24 更新

今回のテーマは「ゆるふわ系」である。

「ゆるふわ系」というのは、そういうファッションを指すことも多いが、最近ではモテ系の格好&ふるまいをしている女の代名詞として使われている場合も多い。
よってゆるふわ系は時に女の敵のように扱われ、発見次第「いたぞ! ゆるふわだ! 殺せ!」となる場合も多く、今、流行りのモンスターをゲットするゲームなら、ゆるふわ系はすぐさま乱獲され、それらを捕まえたボールはそのまま焼却炉にGOである。

今まで私は、脳内で、想像上のリア充を何万回とトレーラーで轢いてきたが、それと同じくらいゆるふわもナパームで爆殺してきた、しかしあくまでそれは「男の前でだけゆるふわを装う狡猾(こうかつ)な女」というイメージとの戦いであり、実像のない物を粉砕し、額の汗をぬぐいながら「勝った……」とか言っていただけである。

現実世界では、さすがにそんな絵に描いたような悪いゆるふわには会ったことがない。いたとしても、そういう計算づくのゆるふわは、私みたいな女には一番用がないだろうから、関わりが一切ないのである。

しかしそういうブスの脳内でよく虐殺されているゆるふわではなく、真のゆるふわ系に私のようなタイプは意外と昔から世話になっている、というか現在進行形で世話になり続けているのである。

男がバンドを組めばモテると思うのと同じぐらいの知能指数の低さで、女も髪をゆるっと巻いて、ふわっとした甘めのワンピさえ着ればモテると勘違いしてしまう時がある。しかしゆるふわというのは、そういう見た目のことをいうのではない。見た目ではなく雰囲気、オーラのことだ。
もちろん「ぽややんとしている」等、肛門期丸出しな佇まいではない。それは頭が緩いだけだ。ゆるふわとは人を受け入れる雰囲気のことである。

我々コミュ症に友人が少ない理由の一つは「とにかく拒絶されたくないから」である、自己評価が低い割に人一倍自分が可愛いため、自分のような者が話しかけたら嫌な顔をされて傷つくに違いないと思い込み(錯覚ではなく嫌がられている場合も多々ある)人に話しかけることができない。
故にコミュ症は「こいつなら拒絶しないだろう」という人間を選んで話しかける、それがゆるふわ系なのだ。
つまり、キツさがない、誰に対しても割と優しく対応する、そして隙があるのが真のゆるふわ系だ。
もちろん、コミュ症じゃなくても、人は自分を受け入れてくれる人間を好きになるものだ。よって、ゆるふわ系は事実モテる、そして男女問わず人気者的ポジションになるのである。
しかし、それもいいことばかりではない。まず、私のような人間が群がってくるという時点でデメリットの方がでかい。またそういう相手に対しても割とまともに対応してしまうのがゆるふわ系だ。よってゆるふわ系は日々マドハンドに囲まれていると言ってもいい。
異性関係でもそうだ。全世界の女に無視されているような男も拒絶しないため、そういうタイプに惚れられてしまうのだ。
つまり、人間的に全ての病院に匙(さじ)を投げられ、安楽死した方がいいタイプの人間が最終的に頼るのがゆるふわ系なのだ。

仕事上でもゆるふわ系は被害が多い。
私も平素は会社員かつボケナスなので、仕事で失敗をすることが多い。そんな時まずやるのが「隠す」だ。怒られるのが大嫌いだからである。そして取返しがつかなくなったころに隠したものが発覚し、もっと怒られるというのが、私のスタンダードビジネススタイルだ。
しかし、職場に話しかけやすい、確実に怒らないとわかっている、ゆるふわ系がいれば、相談するのだ。相談されたということは、そのトラブルに巻き込まれたと言ってもいい。
もちろん相談を持ち掛けてくるのは私だけではないだろう、よって人の良いゆるふわの人生は、他人の虎舞竜に巻き込まれるだけで終わることもままある。
だがコミュ症にとっては、こういう人間が仕事場にいるかいないかで、やりやすさが全く変わるので、実に貴重な存在なのである。

一見ゆるふわ女というのは、モテない非リア女の天敵のように見えるが、それは相手を選んで、態度や股をゆるふわできる女のことであって「ダメだ! 己のゆるふわを制御できない!」という生来のゆるふわに対しては、むしろ非リアの方こそ頼っていることが多いのだ。

しかしそういうゆるふわ系でも菩薩ではないので、あまり調子に乗って頼ったり、どうでもいい愚痴ばかり言うと流石にキレることもある。
平素怒らない人間が怒ると怖いように、人を拒絶しないゆるふわ系の塩対応というのは、とてつもない破壊力があり「人として終わった感」を味わうことができる。
もちろん、そんなことはめったにないのだが、私はこういうゆるふわ系を二回ほどキレさせたことがある。逆にこれは長州力をキレさせるぐらい大したことなので、何かあった時は「俺はゆるふわ系を二回もキレさせた人間やぞ」と見栄を切りたいと思う。

女04

バックナンバー  123456...22 

著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

ページトップへ