キノノキ - kinonoki

キノノキ - kinonoki:ナビゲーション

女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

女って何だ? ブック・カバー
バックナンバー  1...3435363738...41 

第36回

2017.12.22 更新

前回「担当からのネタがなくなった」とわざわざ書いたのに、担当から追加のネタがついぞこなかったので、突然のフリースタイルダンジョンになってしまった。

ここ数回、女は生き辛い、世間から無体な要求をつきつけられているというような話を延々としてきた。幸い女性読者からはたくさん(3人以上)の共感をいただいたが、一方で男性読者が存在しているとしたら、「男だって生き辛い、むしろ男の方が大変だ、女の方がまだ優遇されている」という感想を抱いたかもしれない。

「女(男)は大変だ」という話をすると必ず、「こっちだって大変だ」という声があがる。
それ自体が、「カレーは美味い」という話をしているときに、「ハンバーグだって美味い」と言い出すようなものだが、もちろんハンバーグも美味いので、「おいおい俺抜きで美味いものの話をしようってのかい?」とハンバーグ陣営さんだって黙っていられないのもわかる。

しかし、こういう話はやがて、「カレーよりハンバーグの方が美味い、よってカレーは不味い」という話に発展してしまうことが多い。
つまりいつの間にか、「女より男の方が大変だ、よって女は大変じゃない」という主張になってしまうのだ。
何故か、「カレーもハンバーグも美味い。じゃあカレーにハンバーグのせちゃいますか! 今夜はカーニバルだ、女も男も関係ねえ! 無礼講だ、酒を持て!」という風に、「男も女も大変だからお互い協力しましょう」とはならないのである。

ではどうなるかというと、延々、男ないし女の大変な面を羅列し、如何に相手が優遇され楽をしているかを言い合っていくのである。
そして、空気がいい感じに暖まり、乾燥してきたところで、「女は最終的に体売れるからいいよな」などといった、非常に燃えやすい、BBQにぜひ持っていきたい一品が投入され、場は一気に爆発炎上するのだ。

このように、どちらかの性別ゆえに起こった事件や大変さの話をすると、いつの間にか「男VS女」の構図になり、全てを焼き尽くすまで終わらない。
これがネットで非常によく見る「炎上」である。

当たり前だが、男と女、どちらか一方だけ大変で、どちらかは楽勝、ということはない。ただ大変さの種類は男と女で違うし、同じ女でも抱えている大変さは個々で違う。それを、「俺の方が大変だし、お前は大変じゃない」と言い合っても意味がない。

そもそも人間は、非常に大まかに分けると、男か女のどちらかだ。
2種類しかいないのに、「男VS女」で死ぬまで戦ったら、人類は滅ぶし、もしくは「こんなことなら一度滅んだ方がいいのでは」というぐらい、殺伐とした世の中になるだろう。

それも、人類を滅ぼすために、宇宙人がしかけた陰謀なら仕方ないが、実際にその争いをけしかけたり煽ったりしているのは、男か女かその他、少なくとも人類だ。
共食いにもほどがある。「人類」などと言っているが、日常的にバッタと同じことをしてしまっている。
女である辛さは、男を殴れば解決するというものではないし、その逆もしかりだ。

「そんなことはない、旦那を殴ったら、元気ハツラツになった」というご婦人もいるかもしれないが、それは男ではなく、旦那を殴ったからオロナミンCになったのだ。あと暴力はよくない。

このように、一個人への感情が「これだから男は、女は」になってしまう、「突然主語が巨大化」現象も、男VS女戦争を引き起こす要因である。

よって、クソと出会ったとき、そいつが男だったからといって、「これだから男はクソ」と思うのではなく、「クソがたまたま男だったというだけで他の男は関係ない」、もしくは「性別を与えるにも値しないただのクソ」と思うようにすれば、いらぬ性別戦争はなくなり平和になるのではないだろうか。
但し、言い方があまり平和でなくなってしまったので、各自平和的な表現に変換してほしい。

ともかく、「クソ♂」ないし「クソ♀」に一回遭遇してしまっただけで、全部クソと思ってしまうのは大雑把すぎる。ていねいな暮らし、などというしゃらくさいものは唾棄していいが、ここは多少ていねいにおこなった方がいい。さもないと、全員敵になってしまう。
生きていく以上、敵に遭遇するのは避けられないかもしれないが、敵じゃないものまで敵視しても仕方ない。

だが、女ゆえ、男ゆえの辛さは存在するが、逆に、男に、女に生まれて良かったということもあるだろう。辛さばかりに目を向けるのではなく、そちらを謳歌することを考えた方がいいのかもしれない。

ちなみに、私が女に生まれて良かったと思うことは、ありすぎて逆に今は何も思い浮かばないが、とりあえずキンタマをぶつける心配はないことだろう。

そういえば「生理痛の辛さは男にはわからない」に、「女だってキンタマぶつけた痛みはわかんねえだろ」が食ってかかり、炎上、というのも、信じられないがネットによくある論争だ。

お互い、ないもの、起こらないものの痛みで言い争っても永遠にわかりあえない。
それより「痛がっているやつがいたら心配する」のが普通である。

「こっちの方が痛い」と言うのは、男、女ではなく、人として優しくない。

女36

バックナンバー  1...3435363738...41 

著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

ページトップへ