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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

女って何だ? ブック・カバー
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第31回

2017.10.13 更新

女というのは、大体が死ぬまで戦う、サイヤ人級の戦闘民族である。
だったらサイヤ人のように、若い期間が長いという、戦闘に特化した体にしてほしかった。だが逆に、老いても平気で戦い続けるという点でいえば、サイヤ人以上の蛮族とも言える。

だが、戦う場所は女によって違う。
鳥山明は、背景を描くのが面倒だから、早めに周囲を爆破して、荒野にしてしまっていたらしいが、女は背景も気にせず学校やオフィス、ママ友が集う公園、義実家など、様々なフィールドで激しい戦いを繰り広げている。

今回は「会社」というバトルフィールドを取り上げたい。
ここで戦うと、背景を描くのが大変そうなので早めに爆破しておきたい。それでなくても会社というのはおそらく、世界一爆発を願われている施設だ。

会社というのは、戦場の中でも無差別級だ。士官学校を卒業したばかりの新兵から伝説の老兵まで、同じ部隊で戦っている。

そして私も、中年OL兵として、この部隊に所属している。

まず会社という戦場には、「職場の人間というか、女と仲良くする必要があるのか」という最大のテーマがある。これは仲良くの程度にもよるが、友達になる必要があるか、ということなら「否」だ。

学生の本分は勉強だ、と言われたら、それだけじゃない、と主に勉強ができない勢が反論してくるだろうし、確かにそれだけじゃないのも確かだ。
しかし、会社員の本分は仕事じゃない、と主張する社員はやばいし、経営者でもやばい。会社というのは金を稼ぐ場じゃない、仲間や経験を得る場であり後々の財産になる、とかいう奴は、「やりがい搾取」をしてくるタイプだ。

つまり、会社、仕事というのは、多くの人が、生活のため、プライベートを楽しむための賃金を得る場なので、楽しくやれなきゃダメだということはなく、むしろ、プライベートの楽しみのために我慢をする場だ。
所詮、制限時間(退社時間)までの、我慢大会会場なのである。スーツ姿でサウナに正座し、膝に重石を乗せられている状態なのに、さらに隣の奴に「どこ住み?」と声をかけて友達にならなければいけないなんて、酷すぎるだろう。
終了のゴングが鳴ったら、さっさと全裸になって、「お先!」と部屋を出るぐらいの関係で十分だ。

よって、友達にならなくても、嫌われなければ大丈夫である。
ただ、それはなかなか難しい。まったく誰にも嫌われないというのは無理かもしれない。
むしろ、女子社員が一定数いたら、常に誰かが嫌われている。
とりたてて嫌われてなくても、女子社員が数人集まると、その場にいない女子の悪口がはじまってしまうくらいだ。

しかし、大体が陰口止まりである。
つまり、会社では友達を作る必要もなく、むしろ若干嫌われても、学校のようにグループになる必要がないので実害はそこまでないのだが、その嫌われ方には気をつけたほうが良い。

例えば、嫌われ方が、見た目が派手とか、たまに鎖骨のサソリのタトゥーが見えている、とかなら良い、良くはないが、まだ良い。
だが、会社員の本分は仕事である。よって仕事で嫌われるのはまずいのだ。

嫌われる理由は、「仕事がデキない」とかではない。不真面目、さぼっている等である。それも、明らかに業務中ツイッターをやっているとか、いないと思ったら散髪して帰ってくるとかのレベルではない。電話を取らない、客がきてもコイツだけ茶を淹れようとしない、共有の麦茶をチョイ残しして補充しようとしない、なども結構見られているのだ。

そして、それらの何がまずいかというと、タトゥーに関しては陰で言うしかないが、職務怠慢に関しては、注意がしやすい、もっと言うと上にチクりやすいのである。女の小競り合いにはノータッチな上司も、業務関連なら動くことが多い。

逆に言えば、好かれていなくても、仕事さえマジメにやっていれば、何かあってもそこまで臆することがないということだ。これは、友達を作ろうと手製の菓子を配るより、よほど重要なことである。

しかし、自分はちゃんと仕事をしていて、社内不倫はもちろん、会議室でヤッてもないという状況でも、嫌われるときは嫌われるし嫌がらせもされる。

これはもう、理屈を超えた嫌われ方をしている。それだけのことをしてしまったかどうかは関係ない。たまにネット上で、理屈の通じない相手からバーリトゥード・ファイトを挑まれている人を見たことがあると思うが、あれは現実、会社でも起こるのだ。

「○○くん(アイドル)かっこいい」というツイッターのつぶやきに、「彼は私の彼氏なんですけど、どういうつもりですか?」と言ってくる人や、若い男性社員と話しているだけで、「アイツは色目を使っている」と言ってくる相手と、まともに戦えるだろうか。ましてや勝つことなど、できるだろうか。
「ちょっと待ってください、相撲で決着をつけましょう」と言っても無駄だ。清めの塩で目潰しをされるか、行司の軍配を奪って殴ってくるだけである。

会社というのは、友達を作る必要はなく、仕事だけしていればいい。それでも居づらくなるときは居づらくなる。そのときは長居は無用。どうせ我慢大会会場だ、我慢できなくなったら他の我慢できそうな会場に行った方がいいだろう。

女31

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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