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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第3回

2016.08.10 更新

前回さも書きたいことがある、という引きで終わったが、当然ない。
よって、担当に次から何を書けばいいか、と問うたところ「猫とからあげの話をしていい」とはもちろん言われず「まずタイプ別で語ってはどうか」と提案された。

つまり「サバサバ系」「ゆるふわ系」など、今までのそういう奴らと接した経験を踏まえ、系統別に女をやり玉に挙げていき、火あぶりにしろというわけである。

確かにスタンダードなやり方だが、ここで大きな問題が生じる。多分私はサバサバ系にもゆるふわ系にも会ったことがない。何故ならひきこもりのコミュ障ゆえ、今まで接してきた人間の数が、常人より遥かにすくなく、そんなに色んなタイプの女と出会ったことがないのだ。
また、こういったテーマは人間観察が得意な人間が手腕を発揮するのだと思うが、当方人間観察どころか、極力人と目が合わないように、常に人と人との間の虚空を眼球すら動かさず見つめているヤバい人なため、ますます人が近寄ってこない。

つまりこのテーマは、書きたくないうえに、向いてもないという全方位に不幸な話であり、暴力を用いてでも「猫とからあげのこと以外は書かない」と言い張るべきだったのだ。
そもそも「女が苦手な女」というテーマであるが、普通「この女苦手だな」と思ったら、必要最低限の関わりしかもたないように努めるはずで、間違っても「観察、理解してやろう」とは思わないはずだ。そんなの「この虫、超気持ち悪い! よし! ひっくり返して足が何本あるか数えるぞ!」と言い出すのと一緒だ、ド変態である。

しかし、会ったことがないから書けないというわけではない。今まで私はリア充に対する怨嗟をたくさん書き綴ってきたが、リア充に会ったことがあるかといえば、具体的に思い浮かばないし、少なくともリア充にこんな苦汁を舐めさせられた、という経験はない。
じゃあ何にそんなに怒ってきたかというと、自分の脳内にあるリア充のイメージにである。
自分の作りだしたリア充の幻影に、本気で怒り、嫉妬し、時には涙を見せてきたのである。

つまり具体的に会った記憶はなくても、偏見とネット知識で作りだした女のイメージに、マジギレしていけばいいのである。
妄想とは楽しいことを考えることだと思うかもしれないが、このように、己の作りだした幻と一生戦い続けるだけの人生もあるのだ。それに、そういうことをしているうちに「そういやあの女は〇〇系だった」と過去の記憶(全部黒歴史)が蘇るかもしれない。

前置きが長くなったが、今回は「サバサバ系女」についてである。
これを聞いてイラッときた人は多分サバサバ系女より「自称サバサバ系女」のほうを先に想像してしまうからだと思う。
自称サバサバ女とは「私ってサバサバ系だから」と、己のガサツさをあたかも長所のように言い、さらにはサバサバ系だから、人に無礼な物言いをしても悪気はないから許してね、と暗に言っているような女だ。
自己申告すれば何でも許されるとしたら「私、窃盗団だから」と言えば、店の商品を次から次へと軽トラに積み込んで良い事になってしまう。
ではそういう輩ではなく、本物の「サバサバ系」とは何か、いつも通り私の唯一の友、グっさん(グーグル)に聞いてみた。

サバサバ系女とは:言いたいことをはっきりと言う、適当でズボラ、姉御肌、気に入った人間には世話を焼くが、そうでない人間には時に攻撃的、粘着はしない、嫉妬心も薄い。

自称サバサバ系もヤバいが、本物のサバサバ系も結構厄介なタイプであることがわかった。適当でズボラなのがサバサバ系なら私も完全にサバサバ系であり、飯を食い終わった皿を、そのまま床に直置き放置するほどサバサバしている。
おそらく、サバサバ系を褒め言葉として使う場合は「姉御肌で粘着性がない」の部分だけフィーチャーして言っているのだろう。

冒頭、サバサバ系には会ったことがないと言ったが、あれは噓だ。この性格は女子グループを仕切っている女の性格そのものであり、学校でも会社でも必ず一人はいる、どうやらあれはサバサバ系だったようである。
つまり「私サバサバ系なんで」というアピールは「私女ボスゴリラなんで」という自己申告であり「気に入らないことがあるとウンコ投げつけるから、気をつけな」と注意喚起しているという意味ではかなり親切である。
私はというと、言いたいことが言えない、そもそも言いたいことすらない、ポイズン系である。
若い人には全く分からない例えだと思うが、とにかく、言いたいことを言えないのはポイズンなのだと覚えておけば、年配とつき合う時役立つのでメモっておこう。

サバサバ系とポイズン系の関係はほぼ主従である。サバサバが「こうしよう」とでかい声で言ったことに対し、ポイズンは文句が5兆ぐらいあっても、もちろん言えないので、サバサバに従うしかなく、さらに、気に入らない者には攻撃的なサバサバ系に嫌われたら一大事なため機嫌を取る。
つまりクラスにいる、RPGに出てくる山賊団みたいなボスと手下で形成された女子グループはサバサバとポイズンだったのである。
サバサバとつき合うコツはとにかく同調である、私はサバサバに気に入られたこともないが、敵にされたこともない。
しかしこの同調の仕方にもコツがある。
その昔サバサバ系が「〇〇子ってホントオタンコなすだよね」と他のクラスの女子の悪口を言ったので、ポイズンである自分は「オタンコなすだよね」と同調し、さらに調子を合わせ「〇〇子ってひょうろくだまだよね」と言ったところ、「私が言ったこと以外は言わなくていい」とマジで怒られたのだ。

つまりサバサバ系とつき合う時は「100%の同調かつ、自分の意見は1ミリも入れない」ことが重要なのだ。もはや言語すら話さないほうが良い。「わかる」と言ったら「そこは「せやな」だろ」と言われる恐れがある。
よってサバサバ系が何か言ったら「半笑いで、鼻から空気を出し何か音を出す」が正しい、サバサバ系はこれを「全肯定」ととるはずである。
つまりポイズンはサバサバと一緒にいる時は「陰気な赤べこ」になるのが一番間違いがない。

ではポイズンはサバサバにひたすら搾取されつづける存在かというと、そんなこともない。
ポイズンが言いたいことを言えないのは、発言したら反論される恐れがあり、それを何より恐れているからでもある。
しかし、その言いたくても言えないことをたまにサバサバが代わりに言ってくれるのである。しかも言ったのはサバサバだから発言の責任はサバサバにあり、攻撃されるのもそいつである(サバサバは言いたいことを言う分敵を作りやすいという側面もある)。
ポイズンは、そういう時だけ「DAYONE!!」と、暗黒赤べこからEAST END×YURIぐらいのテンションで尻馬に乗り、さらに攻撃は全部サバサバが受けてくれるというボーナスステージに突入できるのである。
これは、言いたいことがあるけど自分じゃ言いたくないから、ツイッターで自分と同じ意見のツイートをリツイートするのと同じである。

自分とは全く真逆の存在と思っていたサバサバ系であるが、こう考えると、かなり昔から共存関係だったということがわかった、今も、同意見だが敵を作りそうなツイートに全力で「いいね」しながらそう思う。

女03

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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