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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第29回

2017.09.08 更新

◇孤独死しないために…

担当からのネタメモの書き出しだ。
三点リーダーをつけると、何にでも余韻が出てくるというのはわかったが、全く情緒のないテーマである。

だが年を取るごとに、人生からロマンが消え、代わりに畳臭さが漂い、そのうち、風に乗って病院の消毒液臭がやってきて、いつの間にか充満しだすものである。

子ども時代、ノストラダムスに脅されていた世代が今、「お前らの老後はとんでもないことになる」と煽られているのだ。しかもこの予言は、ノストラダムスより相当信憑性が高い。

すると、「メディアの煽り記事を鵜呑みするな、貴様のような情弱がトイレットペーパーやピザポテトの買い占めをして場をさらなる混乱に陥れるのだ。1918年の米騒動も元をたどれば貴様のせいである」と怒られてしまうのだが、かと言って「孤独死とか都市伝説」と決め込んで、全く対策をせず実際に孤独死したら、「なぜ警告したのに何の準備もしていなかったのか情弱め、自己責任だ」と怒られるに決まっている。

すでに孤独死しているなら怒られても平気かもしれないが、それまでの過程がつらそうだ。
よって、焦ってピザポテトやカールを買い占めるが如き行動を起こすのはあれだが、何らかの対策は考えておくべきだろう。
私もそう思い、老後対策について調べることが増えたのだが、とりあえず「親戚や近所の人間と密なコミュニケーションをとりましょう」と書いてあるものは唾棄するようにしている。

すでに人生ロスタイムに入っている人間に対し、「やっぱコミュ力だよね!」と言い出すのは優しくなさすぎる。今までの人生でずっと言われてきたことを、この期に及んでまだ言われるかと思うと暗澹たる気分だ。

大体、高二の時持ち上げられなかったバーベルが、80超えて軽々いけるようになるなんてこと滅多にないだろう。若いころコミュ力がなかった人間が老齢になって突然目覚めるなんてほぼない。むしろさらにダメになっている可能性が高い。

それに、コミュ力がなければ野垂れ死ぬ社会なんておかしいだろう。日本語が3語ぐらい話せれば助けを求められる社会制度とかの方が重要だ。

だが「人づき合い大事」も、ウソではない、むしろ正しい。
人づき合いができていれば、少なくとも「何かあった時、早めに気づいてもらえる率」が上がるからだ。それができない人間ほど、「どうしてこうなるまで放っておいたんだ」案件を発生させるのである。
つまり、最終的に孤独死だったとしても、「孤独死早期発見選手権」の勝者になるには、やはり人づき合いは重要になってくるのだ。

優勝は無理でも、予選ぐらいは突破したい。それを目標に、人づき合いについて考えていきたいと思う。

老後や孤独死対策の人づき合いといったら、まずは親戚だろう。近所づき合いも大事かもしれないが、庭先や屋根の上で死んでいない限りなかなか気づいてもらえない気がする。

いっぽう、重要だが、もっとも面倒なのが親戚づきあいだろう。
担当のネタメモにもこう書かれている。「気の合わない親戚のババアとどうつき合えばいいのか」と。

突然口が悪くなる担当を見ていると、我々には老後の前に更年期という問題が待ち受けている、と身が引き締まる思いだ。
そもそも「親戚のババア」とは何か、担当曰くこういう生き物である。
『親族の噂話が大好き。遺産の全取りをたくらんでいる。冠婚葬祭や正月などに会ってしまう。結婚や出産ネタに対してのデリカシーがない。』

一言でいうと関わり合いたくないタイプだが、他人と違って避けきれぬのが親戚だ。落石注意の落石みたいなものである。

自分は処世術の達人ではないし、むしろ、「孤独死早期発見選手権」書類審査ギリ落ち、ぐらいのコミュ症なので、「親戚にそういうババアがいないことを神に祈る」ぐらいしか思い浮かばないが、それではあんまりなので、発言小町とかヤフー知恵袋など、賢者が集う森から意見を集めてみた。

賢人曰く、そういう噂、悪口しか言わない嫌味なクソババアというのは、自分の生活に不満しかない不幸な奴なのだから、ムカつくより哀れめ。そもそも短い人生、そんな大便お婆さんのことで悩んでいる時間がもったいないではないか、ないものと思え、何を言われても1ワードしか登録されてないbotのように「そーですね」と言っておけばいいのだ、とのことである。

賢人も超口が悪いが、言っていることは正論だ。
それにババアというからには、自分より年上だろう。どんなにウザくても自分より先に死ぬのだ。
結局、避けようがないものなら、極論で考えて苦痛を軽減するしかないのだ。
何を言われても、「どうせ自分より先に死ぬ」「少なくとも今、死ぬまで殴れば死ぬ」と思えば、無心で「そーですね」と言えるものである。

それに、自分より先に死ぬなら、「老後対策」には全くの無用である。
老後を考えるなら、親戚づき合いも、自分より若い世代と仲良くした方がいいのではないか。

さっそく、若い親戚に近づこう。話題は、親族の噂や悪口がよいのではないだろうか。

孤独死しないための老後を救う親戚づき合いの仕方はわからなかったが、「どうやって親戚のクソババアが生まれるか」は、何となくわかった気がする。

女29

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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