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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第28回

2017.08.25 更新

今回のテーマは、「趣味と環境」である。
担当メモによると、「職場や学校で何となく誰とでも仲良くなれる“浅く広く女”と、趣味の場でだけソウルメイトをみつける“狭く深く女”は、どちらが幸せなのか?」とのことだ。

以前(第25回参照)「大人になると、友達の必要性は学生時代より格段に減る」と書いた。
だとすると、前者のような、歓迎されていない客に出されるカルピスの如き薄い友達をたくさん作る女より、原液をビンから直に飲むような会話のみができる、生活習慣病友達が作れる後者の女の方がいいように思える。

確かに、大人になると無理に友達を作る必要はない。
しかし、「誰とでも広く浅く当たり障りのない会話をする能力」がないことに対するコンプレックスは、年を取ってからの方が強くなる。

誰だって、気の合う仲間と永遠に、とうらぶや艦これ、ガルパンや、まどマギ、何でもいいが、とにかく自分の得意分野の話だけして過ごしたいものである。

しかし、そうもいかない時がある。というか、そうじゃない時の方が大人になると圧倒的に多くなる。そんな時、上記の誰とでも広く浅く当たり障りのない会話をする能力がない人間にとって、「そうじゃない」時間は非常にキツいのだ。

何を話したらいいかわからねえ。

多くのコミュ症が抱える悩みだ。
たとえば、年に1、2回程度しかない、あらゆる世代が入り交じった親戚の集まり。
共通の話題など、「今頭上にある空が青い」ぐらいしか見つからぬ。よって誰かの話に、半笑いで、頷いているんだか、寝かけてるんだかわからない揺れをし続けるしかない。

その内、気配りできる人が「あっ、こいつ全然しゃべってねえ!」と気づき、例の当たり障りのない会話ボールを投げてくれる。
それに対し、習字なら花丸がつくほど美しい「くの字」になって、投げられたボールを完全スルー。

いつの間にかキャッチボールからドッジボールに変わっているという事態に、ボールを投げてくれた人は、半笑いで縦揺れ、そして訪れる沈黙。

私は三十代半ばになった今でも、現役でこれをやっている。野球選手なら相当なベテランだが、未だに引退の打診はこない。
一体いつまで、こんな渋々連れてこられた中学生みたいな態度を取り続けるのだろうか。苦痛というか羞恥である。そして、同年代でボールを投げる役をやっている女に対し、並々ならぬ羨望、そして凄まじい劣等感を覚える。

では、こういう広く浅いタイプの女は話術に長けていて面白い話をしているのか、というとそうでもない。むしろコミュ力のある人間ほど、「空は青い」ということを臆面もなく言っている。

つまり、「どうでもいい話」をしているのだ。
だが、「どうでもある話」というのは、この「どうでもいい話」を経ないと出てこない場合の方が多い。
人間誰しも初対面の時は、「周りに空気がある」ぐらいの共通項しかない。だがそういうわかりきっていることをわざわざ口に出すことで、新たな共通点が見つかったりするのだ。
「今、私の周りに空気があります」「奇遇ですね、私もです」「80%ぐらいは窒素です」「え? もしかして20%ぐらいは酸素ですか?」「もしかしてあなたも?」
と、このように、会話が広がり、最終的にお互いが穴兄弟だということが判明し、固い握手を交わすに至るのだ。

しかし、何せ、どうでもいい話である。思うように弾まないことだって多々ある。しかし人間関係というのは、最初は男の乳首ぐらいの凸であったとしても、取っ掛かりを見つけてよじ登っていくしかないのだ。
「ネットで知り合った夢女子のオフ会」のように、いきなり自分の彼氏(二次元)の話だけできる場などそうそうないのである。

コミュ症には、このどうでもいい話、つまり「世間話ができない」という特徴がありがちだ。
なぜできないかというと、自己評価が異常に低いため、こんなつまらない話をしたら相手が不愉快に思うのではないかとか、趣味とか休日何やってんの?といったプライバシーに関する質問は失礼に当たるのではないかと考えてしまうからである。

これは一見謙虚に見えるが、その裏には、「猛烈に自分が恥をかきたくない」という心理もあり、つまらない話をしてスベるぐらいなら黙って相手の話に頷くだけ、という安全圏にいた方がいい、という自分かわいさだったりもする。

またソウルメイトと濃い会話ばかりしていると、薄い場で薄い会話ボールを投げられた時に、「何でこの人こんな、どうでもいい話するんだろう」と、それが相手の気遣いであることにすら気づかず、斬鉄剣をかまし、「またつまらぬ会話を切ってしまった」と得意げにすらなってしまったりするのだ。

良いとか悪いとかではなく、「広く浅く誰とでも話せる」女は偉いと思う。
よって、あまたの会話を斬鉄剣で切ってきた私ごときに、未だに空が青いとか暑いとか寒いとか声をかけてくれる人に対しては、畏敬の念を抱く。

だが私はコミュ症なので、そのたびにくの字になりながら「そっすね」とだけ言ってしまうのだ。

女28

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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