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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

女って何だ? ブック・カバー
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第27回

2017.08.11 更新

人は見た目ではない。
確かにそうかもしれない。

しかし、どんなに美味い飴でも、その周りがウンコでコーティングされていたら、まず口に入れる気にもならないだろう。
つまり、中身がどんなによくても、まず人が近づいてみたいと思う、少なくとも遠ざけない見た目をしていないと、誰も中身まで到達してくれないのである。
「話してみたらいい奴だった」の「話す」までにいかないのだ。

というわけで今回担当から出されたテーマは、人にとっての見た目がどれほど人間関係に影響があるのかを問う、「顔面レベルの掟」だ。
いや、見た目が、人間関係に影響を及ぼすものだということは知っていたが、「掟」と言われるまで厳しいものだとは知らなかった。担当のせいでまた一つ人生が不自由になった。

担当のメモには、「自分より明らかに顔面レベルが上のキラキラ女と何を喋るといいのか? またそういったキラキラ女とは友達になれるのか? 女も見た目で友達になるか判断しているのか?」書かれていた。

とりあえず担当はキラキラ女が嫌いなことはわかったが、問いに対する答えはこれから考えることにしよう。
まず大人になると、職場に男子小学生がいない限りは、面と向かって「ブス」などと言われるケースはほぼない。
そうなると、容姿で受ける不当な差別というのは、「態度や扱いの差」になってくる。では、何故そのような差別を受けるかというと、そこに比べる対象がいるから、つまり、自分より上の女といるからである。

職場に同じようなブスが3人しかいなかったら、3人まとめて無視されるという平等、世界平和が訪れる。
比較をされたくないなら、自分と同レベルの顔面とつるむ、逆に比較されることで得をしたいなら、自分より顔面レベルが下の女を周囲に置くのがベストだ。
ただし後者を選択すると、どんどん低みを駆け下がっていき、最終的にデスクの周りをメスのカナブンで囲むしかなくなるのでほどほどが良いだろう。

ならば、顔面高レベルの女とは一切関わらない方がいいのかというと、これは本人の意識の問題だろう。
世の中には、自分より格上の女と一緒にいることで刺激を受け、自らのレベルを上げようとする女もいる。
キラキラ女というのは、周囲にワックスが剝げた床みたいな女を配置して、自分が輝いているように見せかけている女のことではなく、むしろ輝いている人間の隣に行って、自分も光っているように見せている女だろう。インスタに著名人とのツーショットを載せたがるのは、まさにそれだ。
そのうち、そういう輝いている人間をレフ板のようにしなくても、自分自身が輝きを放てるようになるというわけだ。

確かにレベルの高い人間と行動を共にした方が、自分のレベルも上げやすい、というモンハン理論は当然の理屈のように思える。
しかし何度も言うが、これは本人の意識の問題だ。

「イケメン怖い」という言葉を知っているだろうか。
イケメンを見ているだけならいいが、一緒にいると、内心バカにされているのではないかと思ったり、いつイルカの絵の複製を50回ローンで買う話や、神や宇宙についての話題が出てくるんだろうと、気が気じゃないので、イケメンと一緒にはいたくない、という奴だ。この思考は美人といても大体同じである。

そういう人間にとって、美人やイケメンというのは、「俺様の卑屈心に火をつけやがる存在」なのである。
顔のいい奴の親切は裏があり、陰では自分を笑っているはずなので、感謝しない、むしろ迷惑。
周囲もこんなブスと美人が一緒にいることを笑っている。
おい、今お前、なんでこいつには渡してアタイには消費者金融のポケットティッシュ渡さねえんだよ、どうみてもこっちの方が必要そうじゃねえか。あれか、こちとらがブスであっちが美人だからか、責任者呼べ。とりあえずジャンプ! ジャンプ! なんだ320円しか持ってねえのかシケてんな、おい! とりあえず死ね。

というように、顔のいい人間といるだけで、「類稀なる疑心暗鬼と被害妄想」という、秘められたポテンシャルが完全覚醒してしまう女もいるのだ。

つまり容姿のいい女と一緒にいてレベルが上がる女もいれば、トルネコの大冒険で不思議な踊りを食らったが如く、レベルが下がってしまう女もいるのである。

よって、顔がいい女の方が「お前と一緒にいると私の顔の黄金比が狂う、なんのスタンドだ」などと具体的に攻撃してくることは稀で、大体こっちが勝手にダメージを受けている場合が多いのだ。

では、顔面レベルの高い女とは何を話したらいいのだろう。
顔がいいんだから、まず顔を褒めたらいいんじゃないかと思うかもしれないが、これは逆に相手を困らせる場合が多い。何故なら褒め言葉を言われた方はリアクションに困るからだ。

「美人だよね」と褒められて「うん、そうだよ」と言ったら、「嫌な女だ」と思われるし、「そんなことないよ、ブスだよ」と言ったら、「ブスなわけないだろ、わかっているくせに嫌な女だ」となるし、「普通だよ」と言ったら、「貴様が普通だったら私は何だ、鉄クズか、なんて嫌な女だ」となってしまう。

つまり美人に対し、「美人だ」と褒めるのは、ある意味相手を袋小路に追い詰める行為なのである。

よって、美人を詰めてやりたいと思ったら、出来るだけ女がたくさんいるところで、「○○さんって美人だよねー?」と疑問系で褒めてやればいいのだ。

女27

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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