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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第24回

2017.06.30 更新

今回のテーマは「干物女」である。
この干物女、今まで触れていなかったのが不思議なくらいメジャーな女であり、それゆえに気づかなかったのかもしれない。灯台下暗しというように、気づいたら冷蔵庫で干からびている、そんな幸せの青い鳥のような存在なのかもしれない。ただリアルに青くなっているものがあったらそれはカビなので即捨てよう。幸せが逃げるどころの騒ぎではない。

「干物女」という言葉が広まったのは、漫画『ホタルノヒカリ』の主人公が作中でそう評されていたことからだと思う。
だが、その定義はただ「だらしなくてモテない(恋愛に消極的)女」というわけではない。干物女というのは、「活きのイイ魚時代を経て干物になった女」を指す。
割と早い段階で色々と諦めて、干物化する女もいるだろうが、「キラキラ」から「スピリチュアル」まで、ありとあらゆる武器で戦ってきた女がついに、ついにゴルゴダの丘ですべての武器を捨てた、というような伝説の老兵の如き干物女も存在するのである。

よって、干物女は、不戦敗を繰り返すモテない女(喪女)とは別カテゴリであり、いわば女界の退役軍人である。
ちなみに、生まれてこの方、ずっとだらしなく、男と付き合ったことがない女は、干物女ではない、「生き腐れ女」である。

そうした干物女が、パワーストーンや自己啓発本という名の、銃や手榴弾を捨てて、吉良吉影のように、植物のような静かな生活が送れるかというと、吉良吉影が全然静かな生活を送れなかったのと同じように、むしろ引退してから敵が増えるという、ハリウッド映画のような展開を見せることがある。
それもジェイソン・ステイサムが毎日襲ってくるとかなら楽しいが、現実は007のオープニング戦に巻き込まれる町民みたいな連中が襲ってくる。

まず、世間はいい年して女の子ぶっている女に厳しいが、女であることを放棄している女にも厳しい。
「まだ乾かへんぞ!」と浅瀬で土俵際の粘りを見せている同年代女にとっては、こうした女は格好のマウンティング対象(「○○さんみたいに肩の力抜いていきたーい」などと言われる)であり、男にとっても、女を捨て気味な女はいじりやすいため「そんなんじゃ、嫁のもらい手がないぞ(ドッ!)」というような、セクハラギャグの餌食になりやすい。

また、「これからは楽に生きよう」と言うと、どこからともなく「諦めんなよ!」と松岡修造みたいな奴が現れる。
ホンモノの修造なら、「もうちょっと頑張ってみっか」という気にもなるかもしれないが、そのニセ修造の右手には、固く握られた拳の代わりに、捨てたはずのパワーストーンや自己啓発本が握られている。

つまり、もういい年だしと言って乾きはじめると「アンチエイジング! アンチエイジング!」と叫びながら棍棒で殴ってくる奴がいるのである。
「いつまでも女の子ぶるな」は長年トップランナーとして走り続けてきた女への呪いだが、最近では「いつまでも女でいろ」という呪いも、追いつけ追い越せのデッドヒートで、日々切磋琢磨しながら、こちらに向かってきているのだ。

そういう雑音に対し「つまみは炙ったイカでイイ」と同じ調子で、「肌には薄めたオロナイン」と言い切れればいいのだが、干物女だって、ある日突然「干物王に俺はなる!」と燻煙器に突っ込んでいったわけではなく、だんだん色んなものに疲れて干からびていった場合が多いため、周りにあれこれ言われると「やはりこのままではダメなのか!?」と思ってしまうのだ。
捨てたエロ本を午前二時集積場に取りに行くように、庭に埋めたパワーストーンを掘り起こすだけならまだ良いが、大体の女が、また新しい石を買ってしまうのである。

そもそも、生涯キラキラ、もしくは生涯干物という女の方が少なく、大体が、キラキラと干物の反復横飛びであり、それをいつ止めるかの違いしかないのだが、完全に止まった、と見せかけて、壊れたと思っていたフラワーロックが突然踊り狂いだすように、いきなり立ち上がり、目にも止まらぬ速さで横にスライドしていくものなのである。
よって、今、自分はもう完全に干物で平和だ、思い込んでいる女でも、死ぬまで油断は出来ないので、気合いを入れて干からびておく必要がある。

つまり、干物女とキラキラ女のような「頑張ってる系」は、同一線上にあるのだ。
しかし、干物女の方が圧倒的に周りにあれこれ言われやすいのである。キラキラ女だって目立つし鼻につくので、あれこれ言われるだろうと思われるかもしれないが、それはあくまで、陰であれこれ言われているのであり、面と向かってキラキラ女に「キラついてんじゃねえよ、ツヤ消しぶっかけるぞ!」と言える奴はそうそういない。

だが干物女というのは、女から見ても男から見ても、直接言いやすい存在であり、むしろ「こいつはこのままじゃダメだから何かアドバイスしてあげないと」と、親切心で大上段からあれこれ言われてしまうのである。
そう言われるとやはり気になってしまい、歴代最高値のパワーストーンを入場券代わりに、また反復横飛び会場に舞い戻ってしまうのだ。

干物女に必要なのはやはり、外野の声に「ひよっこが何か言っておるわ」と、炙ったイカをしゃぶれる、伝説の老兵精神なのだろう。

女24

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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