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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第23回

2017.06.16 更新

この連載をはじめてから、「○○女」シリーズとして、「キラキラ系女子」や「ウェイ系女」のような「遠いぜ……」としか思えない女や、六本木ヒルズの屋上で「Tokyoの光……Love」とつぶやいている「逆・鎖国女」など、実在を疑うような、スカイフィッシュ女も多々出てきたが、逆に「スピリチュアル系女」のように、対極にいるように見えて、実は隣に住んでた、みたいな女も出てきた。

どんな女が自分と似たタイプであるかは、先入観だけではわからないものだが、今回登場するのも、ブラジルぐらいに遠いところにいると思ったら、浅草にいた、みたいな女である。

【ヤンキー】
・ウェイ系の生き方が下手版
・集団行動が好き、イオンに集い、びっくりドンキーで飲み会
・車に『ONE PIECE(ワンピース)』などのぬいぐるみやファーを飾る
・来年のことは考えない
・初詣のお願いごとは「世界平和」だったりする
・「先輩」が絶大な権力をもつ。先輩と付き合う女はステータスが高い
・「遊ぼう」と言ってやることは、日帰りで茨城からお台場に行き写真を撮るだけで帰る
・いちばん盛り上がるのは行き帰りの車中。CDのカラオケトラックでカラオケ
・女が集団にひとりという場合もあるが、オタサーの姫のようにちやほやされたいわけではなく、男女の垣根が低いから
・いっぽう、オタクと兼任している場合もある
・お歳暮を包装紙で包むバイトや駄菓子の工場など、地元の地味な職場で働いていることも多い
・犬はチワワ、ダックスフントなどわかりやすい犬種が好き
・地元の祭りではりきる、処女喪失は祭りか花火大会

私、いや拙者は高校時代、膝下スカートに、白のハイソックス、もしくは、異常に短い白のソックスと、ともかくルーズじゃない(ルーズソックス最盛期でありんした)白ソックスにスニーカーで、何かの使命のようにリュックを背負い、電車でカバーなしの『アンジェリークラブラブ通信』を熟読するオタクでござったし? ヤンキーにいじられるポテンシャルすら持っていなかったもんどすから? いやまったく、無関係、感謝の無関係。むしろ彼女らの視界に入っていたのかさえ不明、入ってたとしても「やたらでかい飛蚊症」と思われてた可能性大でござる。

そもそも私が通っていた高校が進学校だったため、ヤンキーというものがほぼ存在せず、スクールカースト上位の目立つ女子でさえ、他の高校から見ると相当地味なほうであった。
ある日、クラスに留学生が来たとき、先生が冗談で、クラスの派手目の女子を「ディスイズヤンキー」と紹介したところ、留学生は真顔で「ゼンゼンヤンキージャナイ」と、カタコトの日本語で答えた。どうやら彼はすでにホンモノを見ていたようだ。

そんな環境だったため、駅でたむろするホンモノのヤンキーを見ると、「異人さんや」と思ったし、もちろん関わりもなく、関わりたくもないと思っていた。

しかし、ヤンキーにも色々いるのだと大人になって知った。
簡単に言うと、積極的に法を犯し、大人になっても主に法を犯す職業に就く、とにかく法をFUCKしすぎなタイプのヤンキーと、ただ派手な格好をし、飲酒喫煙をし、学校をサボる、またはドロップアウトする、ヤンキー同士でケンカをするなど、法律や規則はそこそこ破るけど、犯罪はあまりしないヤンキーがいる。

上記のヤンキー女はおそらく後者である。
先生や、大人ウケはそんなに良くないが、ヤンチャな仲間(ファミリー)と、海や駅前(住んでいるのかというぐらい駅前にいる)で楽しい青春を送ったタイプだ。
そんな、祭りの夜にミニバンの後部座席で処女喪失したであろう女と、アンジェリークのオスカー様の台詞が暗唱できた私にどんな共通点があるかというと、「保守的」「上昇志向が低い」点である。

地元と仲間(ファミリー)を愛している、と言えば聞こえがいいが、「ぬるま湯から出たくない」とも言えるし、さらにそのぬるま湯には仲間(ファミリー)も一緒に浸かっているので安心できる。
同じく私も地元を出たことがない。ただ私が浸かっているのは、湯というより「六一〇(ムトウ)ハップ入れた?」みたいな、異臭を放つ黄色の液体なうえ、周りに誰一人いねえ、という貸切状態であり、「出るべきだ」とは思っているものの、出られない。
出られない理由はヤンキー女と同じだ。
「出たら多分寒い」からである。
そして「じゃ今のままでよくね?」となるのだ。

私たちのようなタイプは、上昇志向の強いキラキラ系や自分探し系などから見ると、低い場所で低い仲間とくすぶっているという、焼肉食べ放題1,980円で使われている備長炭みたいな女かもしれない。
しかし、都会を羨みながら田舎でくすぶっている、私のような焼け残り綿入れ女とヤンキー女には、大きな差がある。
それは、ヤンキー女は「現状に割と満足している」という点だ。

何たって、まずヤンキー女はイオンが楽しいのだ。この「イオンで満足する力」は強い。そこにスタバが入っていようものなら、「テンションぶち上げ」で、そこは東京ディズニーランドになる。もはや都会になど行く意味も必要もなくなる。
上昇志向というものは、上昇できないのなら、あっても辛いだけなのだ。

またそこに仲間(ファミリー)がいるヤンキー女と違い、ボヤ現場で半焼している毛布みたいな女というのは、ずっと地元にいるにも関わらず、実は地元にもそんなになじめていないため、「自分の居場所はここではないのでは?」と思ってしまうのである。
だが思うだけで行動に移す勇気がないので、ずっと37度の六一〇ハップから一人出られぬのである。

一方ヤンキー女はそんなことは考えず、海をバックにファミリー10人ぐらいで写真を撮って、そこに「10年後もこの場所で……この仲間と……Forever……」とポスカで書けてしまうのだ。
10年後もこのままでいいと思えるなんて、なかなかないことである。大体が来年は別の場所にいたいと思いながらも、また同じ場所で自撮りしているものだ。

キラキラ系や自分探し系は、上昇志向が強く、さらに現状満足度が低いのだろう。だからむやみに上を目指したり、今の自分じゃない自分を探してしまうのだろう。

別に上下スエットにキティちゃんのサンダルでドンキの妖精になる必要はない。
だが、今の自分に満足する力というのはヤンキー女に学ぶべきかもしれない。

女23

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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