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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第21回

2017.05.12 更新

皆さんは、何かを信じているだろうか。

信じる者はすくわれる、足元を。
そんな世の中だ、何かを信じるというのは大変なことだ。
まず自分が自分を裏切る。ダイエットしたい俺を、ピザポテトを食いたい俺が裏切るのだ。販売停止決定しているのに、それでも見つけて、俺が俺を裏切るのである。

そんな自分で自分の足をすくって倒れるという、ただ単に足がもつれちゃった人がそこかしこに散見できるご時勢なのだ。

こんなポイズンな世の中において、愚直なまでに「信じる心」を失わなかった女がいる。否、こんな世の中だからこそ、彼女らは信じることにしたのだ。
今回はそんな高潔な精神を持った女の物語である。

【スピリチュアル女】
・引き寄せ、前世、夢占い、宇宙にお願いなど、「見えない何か」に頼って生きている
・ブスなのは、貧乏なのは、お前らが、世間が悪い
・でも神は、妖精は、宇宙は、本当の私を知っている!と、見えない何かにプレッシャーをかけている
・○○するだけで幸せになる、痩せる、運命の人と出会える、など「するだけ」が好き
・それ系の本は同じような内容であっても何冊も買う
・夢は「カウンセリング喫茶店をオープンしたい」だったり、友人は「こんなにフリフリのお洋服を着ているけど浄化石マスターの○○ちゃん」など、本人も友人たちもうさんくさいというか騙されている感がある
・「すごい!」の規模が小さく、世間とずれている
・宇宙や神に頼るが、知識はない
・反省をせず、過去を振り返るときは他人や世間へのダメ出し
・部屋が汚いのは邪気のせい、食べ物がまずいのも邪気のせい
・神社やパワースポットに行くと「あーわかる」と言ってくる
・年齢問わず上目遣いで、何事も「そうだと思った」「うん、うん」とわかってるふうの口ぶりで話す
・色が濃いスカート、ファンシーなカバンなど、服装が過剰でお香の香りがする
・薬や不幸=自慢アイテム
・カラコンもしていないのに黒目がデカく見え、何かを強制するかのような笑顔

私は元々信心の薄い女である。
信奉するのは「油で揚げたもの」等、目に見えるか味のするものだけだし、神頼みをするのは、腹を下しているか、酩酊時、つまり便所から出られないので神に祈ることしかやることがない時のみである。

よってスピリチュアル系というのは、私の最も対極にいる存在で、分かり合えることはないと思っていた。
しかし、このたび、私とスピリチュアル女の精神構造は全く同じであると判明した。
そしてこれは、私だけではなく、女ほぼ全員の心に巣食っているとも言えるだろう(前回担当が編み出したフレーズだが、女に呪いをかけるのに最適なため、毎回使いたい)。

どこが同じかと言うと、掲げている御旗が「他力本願」と「責任転換」であり、心臓に彫ってあるタトゥーが「NO努力」なのだ。

「そのタトゥーは……まさか姉さん!?」と、敵だと思っていた相手が、実は生き別れの姉だったと気づいたかのような気持ちである。もちろん、ダメな妹とダメな姉が出会っただけなので特に感動はない。
ただ唯一の相違、そして羨ましい点は、浄化石マスターの友人がいるというところだろうか。
相手が邪気やパワーストーンでなくても、自分が上手くいかないのを何かのせいにし、上手くいかせるために、自分以外の何かに縋っている状態は、スピリチュアル女ということだ。
今度から、ダイエット商品や自己啓発本を買っただけで生まれ変わった気分になることを、「スピリチュアル状態」と呼ぶことにしよう。

つまり、どんな女の心にも大なり小なり巣食っている精神であり(効率的に呪いをかけたいので何回でも言う)特に珍しいものではない。
だが、その縋っている対象が「スピリチュアル」というのが問題なのだ。
問題、というのは本人にとってではない、周りの人間にとってだ。

「スピリチュアル」というのはリアクションに困るのである。
それ系を信じていない者に対し、邪気や浄化石の話をすると、大体「こんな時どんな顔をすればいいかわからないの」という綾波レイ状態になる。
しかし、スピリチュアル女はシンジ君のように「笑えばいいと思うよ」とは言ってくれないし、むしろ笑ったら烈火のごとく怒るような気がする。
そんなスピリチュアル女からは目に見えて邪気が出ているだろうから、相手に邪気の存在を信じさせるにはうってつけかもしれないが、邪気を出している女とは誰もつきあいたくないものである。
ということは、上手くいかないのは邪気のせい、というのはあながち間違いではないのかもしれない。

信仰対象が、アイドルや二次元な場合はまだいい。適当に話を合わせられるし、逆に真っ向から否定だってしやすいのである。
だがスピリチュアルに関しては、否定してももちろんヤバイが、適当に話を合わせるのもヤバイ気がしてならないのだ。

邪気やオーラを感じることはできなくても、スピリチュアル女を怒らせると物理的に悪いことが起きそうな予感だけは、誰もが感じることが出来るのだ。
もちろん無害なタイプも多いだろうが、ヤバイ人と思われがちなのは確かであり、実際は、加藤清正の井戸などのパワースポットめぐりをしているくらいなのに、他人からは、平将門の首塚にドロップキックしてそうな人、という印象を持たれてしまうのが、世間一般におけるスピリチュアルのイメージだ。

つまり、スピリチュアル話を聞かされた方は、「あーわかる」「うん、うん」と言いながらフェードアウトしていくのである。

しかし何度でも言うが、これはどの女にも巣食っている精神である。対象がスピリチュアルだからといって偏見を持つのはよくない。
何より、友人になれば、浄化石マスターの友人を紹介してもらえるかもしれないのだ、それだけでもつきあう価値はあるだろう。

浄化石を、水槽の底かよ、というくらい部屋に敷き詰めれば、きっと、痩せて、運命の人と出会え、二兆円を手にすることが出来るだろう、少なくとも足ツボには良いはずである。

女21

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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