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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第20回

2017.04.28 更新

みなさんは、何も考えずに「かわいい~↑」と言えるだろうか。
私は言えない、そんなことを言えるのはおキャット様相手にだけだ。おキャット様をかわいさの標準値に設定すると、それ以外は全部「グロい」になってしまうのだから仕方ない。

世の中にはまるで息をするように「かわいい」と言う女がいる。「そういう鳴き声」と分析する専門家もいるほどだ。
この女は、対象物を目視してから「かわいい~↑」と発するまでの時間が0.03秒ぐらいしかない。これ以上スピードアップすると相手は、かわいいと言われたことすら気づかなくなるだろう。

「何でもかわいいと言っとけば済むと思っているだろう」と非難する声も多いが、実際社会ではかわいいと言えば済む場面は多いし、自分の美意識と関係なく「かわいい」と発せられる女の方がコミュニケーション能力は高い場合が多い。

大して親しくもない他人から突然見せられた赤ん坊の写真に、“勤続20年サンドイッチ工場ピクルス係(42)”の如く、惰性だが、正確かつスピーディに、「かわいい~↑」という名のピクルスを置ける女と、赤ん坊の写真をなんでも鑑定団のBGMと共に査定、30分の長考の後「鑑定額:39円」というフリップを出す女、どちらに社会性があるだろうか。

なんでも鑑定団女のような、私は自分の認めた物しか褒めない、それが相手に対する誠意である、などというこだわりを、相手が理解してくれるわけないのだ。
ことに女同士においては、本音でぶつかった方がいい相手なんて実は少ない。多くがパステルカラーの部屋でお互いの体に生クリームを塗りあいながら、「かわいい~↑」と飛び跳ねる方が良しとされる関係である。

それなのに「どこがかわいいんだ! よく見ろ! この生後6カ月にして超高校級の鼻の穴!」とキレだしたら、それは相手に社会性がないか、そいつが見せてきた赤ん坊は、そいつにとっても孫でもなんでもない、赤の他赤ん坊なのだろう、どっちにしてもヤバイ人なので近づかないほうがいい。

つまり何でもかんでも「かわいい」と言うのもアレだが、全く言えないのもどうか、という話なのだが、しかし何事もやりすぎている奴というのはいる。

【かわいいジャンキー】
・何を見ても「かわいい」と表現。かわいいに飢えていて、常にかわいいを探している
・靴下、ジュース、木、とにかく「かわいい」
・良し悪しの基準が「かわいい」か「かわいくない」か。褒め言葉は「かわいい」
・精神的に幼く、幼児性が高い。三つ折り靴下、ランドセルのようなリュック、ふわふわ、もこもこが好き。しかしロリータのようなポリシーがあるわけではなく、幼く見せることで「かわいがられたい」「優しくしてほしい」「大人のめんどくささから逃げたい」からこうした格好をしている
・10代、20代は「子どもっぽいかわいさ」、30代からは「大人かわいい」にシフトチェンジ。いくつになっても「お姫様」というキーワードに弱く、またアリス的な世界観にも弱い。ハロウィンはコスプレできるので絶対やりたい
・20代と30代の間で大きな断絶があり、30代になると「休みの日に限定コンバースを履く」くらいのかわいさに抑えてくる
・あだ名が「あやにょん」「さよたん」「みぽぽ」「よーりん」「まなちょ」などひらがなでバカっぽい(そしてちょっとオタクっぽい)。しかしよくある名前でレパートリーがなくなってくると、「ゆぅらゃーちょらぽん」などわけがわからない長文になる
・弱い、病んでいることに憧れる
・キャラクターグッズが好き。好きなキャラクターは舞浜より多摩派
・原宿系のかわいいジャンキーもいれば、OL系のそれもおり、女ほぼ全員の心に巣食っているとも言える
・女は心のどこかで自分が世界の中心だと思っていて、「かわいい」は「私王国の国民にしてあげてもいいでしょう」という許可証のようなもの。ゆえに「あの子かわいいね!」がそうでもない時は、姫は超えてくれるなと思っているということ

「女ほぼ全員の心に巣食っているとも言える」
恐ろしい言葉だ。当コラムはいつのまにか女性の心の解放から、呪いをかける方向にシフトチェンジしたらしい。
確かに私も、今すぐに自分の事を「かぅるぇ~ざわんかをるそ」というあだ名で呼んでほしくなったので、この呪いは相当強い。
かわいい連呼女にとって、「かわいい」は「味がする」くらいの意味しかない、というのはよく聞く話だが、「私王国の許可証」は新説だ。
つまり「かわいい」と褒められているかと思いきや、「苦しゅうない」「よきにはからえ」と言われていただけなのだ。だったら意味なんかない方が良かった。「味がする」「息してる」ぐらいで十分だ。

確かに私も、かわいいに憧れ、かわいいを欲し、そしてかわいいに囲まれた自分かわいいと思い、思われたいと思った時期があった。
最近休刊が発表された個性派ブスのバイブルK●RAを読み、ロリータ系の服も買った。ただそういう服は高いので、「甘辛MIX」と称してエミリーテンプルキュートのお洋服にユニクロの小豆色のコーデュロイパンツという激辛スタイルで町を歩いたのも、今ではとても悪い思い出だ。

「エミキュ愛しすぎてる」というわけでなく、「これを着ている自分かわいい」な場合は長くは続かないし、そのうち自分に似合っていないことがわかってくる。そして何より年を取ると「いい年して」「ババアのくせに」と言われるのを恐れて、だんだんと過剰なかわいいからは離れていくか、こっそりとした趣味になってくる。

高齢かわいいジャンキーもそれを承知で、「誰が何と言おうと、自分はかわいい服とかわいい物が好きで、それに囲まれている自分が好き」というならそれでいい。下手な自分探し女より筋が通っている。

しかし、かわいいに対してこだわりも愛着もない女が、「かわいい物が好きな私かわいいでしょ」という、若い頃は通じていた他人への無言アピールが30過ぎても有効だと思ってやっているなら厳しいものがある。

女は年を取るにつれて、何系になりたいかを考えるより、「自分さえ良ければいい」のか、「他人から見ていい」状態になりたいのかを、先に考えたほうがいいのかもしれない。

女20

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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