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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第19回

2017.04.14 更新

世の中には、「終わらせる言葉」というのがある。
今で言うと「ウザい」「キモい」などという言葉がそれで、「あいつはとにかくウザくてキモいのでこの話は終わりだ、解散」という、人を切り捨てる言葉である。
確かに便利な言葉だが、明らかに使う側の思考停止が見て取れる。使うことにより知性を疑われてしまう危険な言葉だ。
どうせ知性がないなら、「ヤバい」「パねえ」「神」の三語でパイセン方と会話を成立させている後輩のほうが、言葉の意味がポジティブなだけまだマシだ。

そして女に向けられる「終わりの言葉」の筆頭は、言うまでもなく「ブス」だ。
「ブス」という言葉は、もはや顔とか全く関係ない場面にすら出てきて、一瞬で辺りを鳥山漫画でよく見る荒野に変え去ってしまう滅びの言葉だ。
さらに「ブス」が「ウザい」「キモい」などと一味違うのは、「説明責任を果たしている」という点である。
「ウザい」は何故ウザいか、その根拠となる言動があるはずである。それを説明せずに「ウザい」だけで終わらせるのは、明らかに怠慢であり、こいつ面倒くさくなっているな、という感が伝わってくる。
それに引き換え「ブス」はその一言で説明が終わっている、バッドルッキングなのだ。
しかも本当にそうか、一目でわかるため、説得力もある。
凄まじく暴力的でありながら、理由と根拠をキッチリ示してくる真面目さがあるという、「天才が努力したら勝てない」の典型のような言葉である。
あと60億年ぐらいは「ブス」に勝てる言葉は出てこないと思うし、出てきたら一瞬で地球が水蒸気になると思うが、最近これとは対極をなす「不真面目な天才」が現れている。

それが「残念」だ。
割と最近使われるようになった言葉だと思う。「ウザい」「キモい」は、詳細は説明されていないが、なんとなくニュアンスが伝わる。しかし「残念」は徹頭徹尾、何も説明されていないのだ。しかし「あの子、残念だよね」と言えば、そいつは「残念な女」になってしまうのである。

まさに「何の努力もしてないのに、何か強い」という言葉である。
こんなチートが許されるはずがない。仮にも人様の娘を「残念」などと断ずるならば、せめて何が残念なのか、その根拠を示すのが礼儀だ。

そこで、礼節とジェノサイドに定評がある我が担当が、「残念な女」の「残念」をつまびらかにしてくれた。

【残念な女】
・かわいいのにギャグがスベる、清楚な見た目なのにテンション高いなど、かなしいギャップがある
・きれいめの服なのに毛玉、バッチリメイクなのにファンデーションがよれているなど、雑というギャップもある
・柔軟剤、制汗剤、芳香剤、ボディクリームなどが混ざったしつこい匂いがする
・何かが悪いわけじゃないのにモテない
・デートで根性を発揮してしまう
・箸や鉛筆の持ち方がおかしい
・バッグからいつのだかわからないコンビニ袋や使用済みティッシュが出てきたり、靴が汚いなど、がさつ
・追っかけ、何でもペンキを塗る、パワーストーンを手作りして周囲に配布、水木しげるの紙芝居集めなど、マイナーな趣味をもち、かつ趣味に比重を置いている
・「女を感じない」と言われる
・飲み会で友だちが酔いつぶれていても終電になれば帰る
・悪気はないのでどこを直せばいいかわからない、というか直す気もない
・「寝起きまじでひどい」「すっぴん妖怪なんだけど」とツイート、フォロワーはリアクションに困る

結果、残念な女の「残念」を明らかにしないのは、「優しさ」であることがわかった。
私だって、自分の著作のつまらない点を一つ一つ説明されるよりは、「面白くない」の一言で終わらせてもらったほうがマシだ。
冒頭、口角泡(黄緑色)を飛ばして「一言で終わらすのは怠慢と思考停止」などと言ったが、あれは「慈悲」だった、悔い改め、謹んでお詫びする。

この残念な女の概要を、意識を失わずに最後まで読めた人は気づいたと思うが、「残念」というのは「惜しい」という意味に近い。
「残念な女」は決してブスではないのだろう、むしろ、上の下、最悪でも中の上レベルの容姿は持っていそうだ。
つまり神から与えられた素材を全部自らの手で殺している人である。
ブスなんて、はっきり言って神のせいだ。逆に残念な女は「神のせいにすらできない」のでキツいものがある。

また、見てわかるとおり「これが悪い」という決定打もない。
ブスというのは顔面にでかい腫瘍があるようなものであり、それを取り除けば治る。
ただもちろん、その腫瘍がブスの本体であるため、取り除いたと同時に死ぬが、きっと死に顔は美しいだろう。

その点、「残念な女は」全身に腫瘍が転移した状態である。まさに五臓六腑に染み渡ってしまっている。これに対する医者の判断は、「手術は無理」である。つまり「痛みを抑えつつ、腫瘍と一緒にできるだけ長く生きていきましょう」という治療方針である。

不幸のようだが、上記のように「悪気はないのでどこを直せばいいかわからない、というか直す気もない」残念な女はさほど不幸ではない。
これが「直す気」になってしまった時に真の悲劇がはじまる。「自分探し女」の爆誕だ。
しかも、そんじょそこらの「自分探し女」とはワケが違う。細かい悪い点が星くずのように全身にちりばめられているため、一見悪いところが見当たらないという、トリックアートみたいな女なのだ。そこから何かを探し出すのは至難の業だ。

しかも何度も言うように、素材は悪くないのだ。神から逆ギフトを与えられたブスから見れば羨ましくもある。
しかし、残念な女は、その悪くない素材に、人の目の前でソースとマヨネーズを全部かけてしまうから、見たほうも色々言いたいことはあるが、結局「残念」の一言しか出てこないのかもしれない。

女19

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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