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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第18回

2017.03.24 更新

この連載に出てくる「女」たちは、「こういう女いそう」と思わせつつも、「でも実際会ったことはあんまりないな」という、「いてもおかしくない、いそうでいないUMA」という感じであったが、今回の女は今までで一番「これ私だ」と思えた女である。

【菩薩女(悟り系)】
・かまいたち女の地味版。陰があるけど暗いだけと思われている
・仕事、姑、子どもなど半径10m以内で起きる出来事に疲れている
・疲れることにも疲れて、悟りだした
・そのため、ゆるふわの進化系ともいえる
・「怒らない」「主張しない」ことが美徳とされている世の中においては重宝されるべき存在のはずが、忘れられることもよくある
・派手すぎず地味すぎずダサくない服装で場をわきまえている
・職場では、定時に帰る、雑用をさり気なくパスする、など疲れないよう、かつ反感を買わないようにやり過ごすテクニックがある
・優しい、いい人などと評されることもあるが、それは相手に興味がないことからうまれた心の余裕である
・飲み会やランチの場では相槌を打つことが多く、場を盛り上げる、おもしろい話をするなどができないためうっかりするとハブられる
・優しくてもダメ、厳しくてもダメ、ならいったい何が正解かと思っているが、職場にもさほど興味がないので、まあいいかと思い、定時で帰るし飲み会にも「子どものお迎え」「親の介護」などと言って参加しない
・テレビっこ、AMラジオが好きで健康に関心がある
・効率、コスパを重視している

ここに出てくる女たちは「いてもおかしくない、いそうでいないUMA」、と言ったが、おそらく担当の周りには全員いるのだと思う。町で肩がぶつかった相手がチュパカブラで、飛蚊症かと思ったらスカイフィッシュ、朝起きると週三ぐらいでキャトルミューティレーションされている、そんな生活を送っているのだろう。

しかしこの菩薩女なら、私にもわかり哲也である。
だが「菩薩」などというと、雲の上から下界の喧噪を眺めている天上人のようだが、実物の菩薩女はそんなに良いものではない。
菩薩なんて贅沢な名前だ、今からお前の名前は餃子だ、いいか餃子だ。

大して画数が減らなかった気もするが、ともかく餃子である。
中華料理のことではない、中華料理だったら、餃子のようなVIPではなく、空芯菜の空の部分あたりだ。
だから餃子(ぎょうざ)ではなく、餃子(チャオズ)なのだ。餃子(チャオズ)とは、ドラゴンボールの登場人物で、人造人間という強敵と戦う際、兄弟子の天津飯に「餃子はオレが置いてきた。修行はしたがハッキリ言ってこの戦いにはついてこれそうもない」と言われた存在である。

つまり戦力外、取るに足らないポジション、内紛でも「雑魚に構ってられねえ」と無視される存在である。

その場にいる女全員から「格下」と思われている女なのだが、餃子女はそう思われる方が楽であり、実際それで楽をしているのだ。
作中の餃子(チャオズ)はどうか知らないが、餃子女は全然「人造人間と戦いてえ」などと思っていない。修行をするのも、大事な戦いでは置いていかれることをわかった上でのポーズだ。最初から、他のZ戦士が修行している間に午後ローとか見ていたら角が立つので、「自分もやる気はあります。あ、でも自分じゃ無理っすか、残念ッす!」と、実は協調性皆無なのに、「和を乱すつもりはないんすよ」という姿勢を取り続けるのである。

女たちはまず目に見えて協調性のない女から殺していくので、餃子女にまで火の粉が飛ぶというのは、「会社ごと燃えた」「焼夷弾が落ちた」ぐらいの事態であり、もうその組織は一旦解散した方が良い。

つまり、目立たない、女としてのレベルが低めだと舐められている(敵と見なされない)という自らの特性を生かし、ありとあらゆる面倒ごとを回避しているのである。

これは一番おいしいポジションのように思えるが、餃子女はそれ故に油断しやすい。
そもそも「誰も私のことなんか見てないから大丈夫」と思うのは、「女」を舐めていると言う他ない。
その女が、自分はまだ生きていると思い込んでいる霊体でない限り、そこに存在するだけで、女は絶対女を見ているのである。
だが餃子女は上記のように雑魚スペックなため、わざわざ殺されないだけだ。
しかしどんな人間でも、「雑魚でも殺したい」時がある。

社内で一番怖い女子社員、ウシジマさん(仮名)が「蚊がよ……ちょっと血を吸ったくれーで殺すだろ? 今、そんな気分。 気持ち伝わった?」と言いながら、「餃子さん(仮名)っていつも何の仕事してるの? 常にネット開いてるよね? ツイッターやりすぎじゃない? てかリアタイで会社で起こったことつぶやくのマジでやめた方がいいよ?」と、餃子女が今まで「バレてない」と思ってやってきたことを、突然全部言ってくることがあるのだ。

例え本物の菩薩でも、いきなり腹部をジャックナイフで刺されたら「アルカイックスマイル」とはいかないと思う。ましてや餃子女なら即死だ。

また戦力外ゆえに、一切の発言権、決定権がないため、自分のことが自分不在で決まっているということも多々ある。しかしそういうときでも、すでに自分の意思や意見というもの自体をなくしてしまっているので、何かに巻き込まれたときは、もう諾々と、濁流に飲み込まれていくしかないのである。

三下ポジションで生きていこうと思うなら、やはり三下らしくしていなければいけない。自分を菩薩だなどと勘違いしたところから崩壊がはじまる。

非暴力、そして服従主義。
菩薩、というより、良いところが特にないガンジーのような女なのかもしれない。

女18

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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