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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第17回

2017.03.10 更新

今回登場する女は、太古の昔より、女たちのある種頂点に君臨せし伝説の魔獣である。

【お局】
・飯の席でだけ仕事への情熱が高まる
・昼飯食いながら上司、後輩、同僚の悪口、飲み会でも上司、後輩、同僚の悪口、とにかく会社の話が大好き(ただしすべて悪口)
・仕事に対して、常に上から目線で話す
・「仕事の効率」「会社の利益」など、仕事中には考えもしなかった仕事への情熱がランチタイムに覚醒し、いつの間にか悪口に発展
・仕事が好きというより、夫と倦怠期、彼氏がいないなど、プライベートでやることがないので、仕事以外で考えることがあまりない
・かつてはチヤホヤされていたものの、「チヤホヤ枠」が次々と入ってくるので冷遇されてしまい、しかし仕事のスキルもないので後輩いじめくらいしかやることがない
・小物だけハイブランド、シンプルシャツなど「いい女」っぽく見える服装が好き
・新しいペンは手前から取る、ゆうパックは受け付けない、裏紙の箱はA4、など細かいルールを設けたがる
・やっている仕事は、3時のおやつタイムにおやつ配り、会社のアカウントでツイート、などだったりする
・育児休暇、時短勤務の際は、それらが切れるタイミングで新しい子を作るなどして、結果3年間育休、5年間時短勤務などの強者も存在する

このお局、皆も一度は聞いたことがあるだろう、有名な生物だ。
しかし、「昼飯食いながら上司、後輩、同僚の悪口、飲み会でも上司、後輩、同僚の悪口、とにかく会社の話が大好き(ただしすべて悪口)」である。
これは「このペンはペンである(ペンだ)」ぐらいの念の入れようだ、歌詞ならここがサビだろう。

お局は、何せ語源が「春日局」だ。キラキラ女子、ウェーイ系女のようなポッと出女とは歴史からして違う。
だがもし、それらの語源が「キラキラ式部」「ウェーイ納言」などからだとしたら、それは私が無知だったということでご容赦いただきたい。

上記のお局像は「ヤマタノオロチを想像してみろ」と言われたら、大体首が8本の竜を思い浮かべるのと同じように、万人が思い浮かべるお局像とそう大差ないだろう。
だがそれでも「ゆうパックは拒否」だけはわからない。最近のお局は、ゆうパックで来た荷物は受取拒否するのが主流になったのであろうか。強い、さすが伝説の生き物だ。それか、担当の職場にゆうパックを頑なに拒否するお局ババアがいたかだろう。

お局というのは、間違いなく、職場で疎まれ、嫌われている存在であり、強く恐ろしい存在でもある。進撃の巨人で言えば巨人側だ。誰もが「駆逐してやる」とは思っているが、大体の会社というのは、エレン、リヴァイ不在の、登場回=死亡回になるモブ集団なので、高い壁(その壁は新入社員などで出来ている)を築いて距離を保とうとするが、時にそれすら破壊してわれわれの元にやってくる脅威の存在なのである。

私も平素はOLであり、年齢的にも、もうお局と言われてもおかしくない。
しかし、年を取れば大人になれるわけではないのと同じように、「ババアになればお局になれるわけではない」のだとヒシヒシと感じている。
アオムシだったらモンシロチョウになれる。だがOLはそうではない。蛾になるか、モスラになるかの差がある。

どっちも蛾じゃねえか、と思ったかもしれないが、同じ蛾ならフマキラーで死ぬより、東京タワーをへし折れる方がいいし、その両脇で「BBAやBBA」と歌ってくれる取り巻きも出来るだろう。ただそいつらは美しい双子の妖精ではなく普通にブスだというだけだ。

それに、お局は時として職場に必要な存在である。
何も悪口が好き(悪口が好き)なのはお局だけではない。正直カレーよりも悪口の方が万民に好かれている。
とくに会社で女が交わす会話はほぼ悪口だ。悪口が公用語であり、ほかの話題はサンティアゴ・デル・エステロ・ケチュア語ぐらいの消滅危機言語のようなものである。
つまり悪口が女たちの大事なコミュニケーションツールになるため、一緒に遠慮なく悪口の対象にできる存在(お局)がいると、皆は一致団結できるのだ。

だが、そのお局が本当に駆逐されてしまったらどうなるだろうか。
RPGなら魔王が倒されれば世界は「平和」になる。だが現実はそうではなく「乱世」になる。

今までお局が目立ちすぎていたため見えなかったお互いの粗が見え出すし、「お局の悪口」という共通の話題がなくなったら、他の誰かの悪口を言うしかない(悪口以外の話をするという選択肢はない)。
進撃の巨人だって、巨人がいなくなったら、「アルミンのこと人間的には全然好きになれない」みたいなことを言い出す奴が絶対出てくるのだ。
また、新しいお局が擁立されるという場合もあるが、もしそうならなかったら「戦国時代に突入」である。

このように、お局がいる職場の方が均衡が保たれている場合もあるので、お局は破壊神でありながら平和の使者でもあるという両面性を持っている。
また恐れられている存在なので、表向き冷遇されることはあまりない。それより、お局になれなかったBBAの方がチヤホヤもなく、若い者から舐められているため立場が悪い。だがそういうBBAも、職場から完全に気配を消す「ステルス系」になって、乱世を遠くから眺めたり、煽ったりと楽しんだりしているので、これまた油断ならぬ存在である。

このように、職場にはお局だろうがなかろうが、気を抜けない存在だらけなのだ。しかし最後の「3年間育休、5年間時短」は気になる一文である。
それはゆうパック絶対拒否、のようにお局が勝手に決めたルールではなく、会社に認められた権利だろう。
つまり、現代日本の会社では、認められた権利を全部行使する女は「厚かましい」「お局」「強者」というイメージなのだ。そんな扱いでは、気の弱い女は制度を使えないし、それに耐えかねて離職を余儀なくされる場合もある。
だからそんな空気をものともせず、率先して「権利全部取り」をやってのけるお局という存在は、やはり必要なのかもしれない。

女17

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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