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女って何だ?

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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第14回

2017.01.26 更新

前回「嫁姑」をテーマにして書いたところ、担当から「重いテーマにしてすまなかった」という謝罪のメールがきた。

結構前から重かったぜ、と思ったが、担当にとっては「100t以下は軽い」というような認識なのだろう。
しかも反省のしどころが「キラキラ嫁がきたら」とか「姑がゆるふわだったら」とか、もっと楽しくなるようなテーマにすれば良かった、という点であるという。

「まだ嫁姑の話を掘らせるのかよ」と戦慄した。
「もうこの話はやめよう」とならないところが担当のすごいところであり、「一度向かい合った相手とはどちらかが死ぬまで戦うべき」という礼儀正しい性格がうかがえる。

それに、キラキラ嫁やゆるふわ姑が襲来して楽しいはずないだろう、正気か、と思ったが、担当は相手が強ければ強いほど楽しくなってしまうタイプなのだろう。ジョブでいえば「バーサーカー」である。

しかし、物事を楽しむ力というのは大事である。
ゆるふわ姑を「いい年して女子ぶってるクソババア」ととるか「私のお義母さん超かわいいんですよ~(と言ってる自分がかわいい)」ととるかでは話が違ってくる。

目を覚ましたら、隣に知らない虎が寝ていたという状況でも本人が楽しいと思えばそれは楽しいのだろう。

しかし我々はこの「楽しもう」という精神でまたしても躓くのである。

余談だが私の主食は「他人の不幸」である。
他人の不幸というのはあらゆる栄養素を含んだスーパーフードであり、舐めるだけで寿命が10年は延びる、アサイーなどよりよほど摂取すべき食物なのだが、世の中にはその効果を打ち消す「他人のサクセス」という有害物質も蔓延しているため結果的にプラマイゼロかマイナスになることが多い。

もちろん摂取するなら上等なものがいいので、ギャンブルや浪費で借金返済に追われている人のブログなどをよく鑑賞するのだが、その中には「楽しみながら借金返済」を掲げている人がいるのだ。

いくらなんでもそれは無理だろうと思うのだが、本人は至って正気なのである。
むしろ楽しいことを前借りした結果が今の窮状だというのに、さらに楽しもうという貪欲さである。
大体こういうのは続かない。何故なら、楽しんでやろうと思うのは「楽しくないことはビタイチやりたくない」と思っているからでもある。

借金返済だけでなく、ダイエットや美容商品でも「楽しく綺麗になる」みたいなこと謳い文句にしているものは多々あるし、そう言ったものは売れる。しかし、楽しいと思って買ったものが楽しくなかったら投げ出すに決まっている。

実際、逆境(砂漠のど真ん中など)にいる状態で「俺はせっかくだから、できるだけ楽しい蜃気楼を見るなどして楽しむぜ」と思うのはいいが、そこに入る前から「砂漠を楽しもう」などと思っていると、暑い、喉渇いた、マジ砂しかない、蜃気楼の作りが雑、という全然楽しくない状況にすぐ心折れてしまうだろう。

また「楽しもう」と思うのも一人でテンション上がっちゃってるならまだいいが、相手がいるとまた問題が大きくなる。「こっちがファンキーな嫁姑関係ビルドしようとしてんのに、あいつ全然グルーブしてこない、マジノリ悪い」と、自分の楽しくしようという提案に相手が乗ってこないことにムカついたりするのである、これでは迷惑な人だ。

どんな状況でも楽しむというのも必要かもしれないが、楽しめなかったときのリスクも高い。それよりは、どう考えても楽しくないことを、これは楽しくないことなのだと認め「嫌だけど仕方ないからやっている」と割り切ることも重要な気がする。

「楽しい」と思えるかどうかと同じぐらい「仕方ない」と思えるかも大切なのだ。
やはり嫁姑関係は、そんなに楽しいものではない。しかし「両親がすでに滅している」「木の股から生まれた人」という条件で結婚相手を探すのも酷だ、つまり「仕方がない」のである。

ちなみに、この担当の反省メールには最後こう書かれていた

「私たちがいまメインで考えていることは仕事や趣味のことですが、それがやがて姑のことや介護など考えていかなければいけないなんてめんどくさすぎて爆発しそうですね。

我々の感じている漠然とした、憂鬱、不安の正体を、全て説明してしまっている。
この担当がいると私がいらなくなるから嫌なのである。

女14

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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