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女って何だ?

カレー沢薫

女って何だ? ブック・カバー
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第13回

2017.01.12 更新

突然だが、担当が会社を退社したそうだ。

私事になるが、私も会社員である。「作家として売れたら会社を辞める」を目標に早8年、一向に辞められぬまま、担当の方が先に辞める、ということが4回ぐらいあったので、貴様らどういうことだと言わざるを得ない。

しかし、よく考えたらこの担当は会社などに属するような人間ではなかったし、人間かどうかも怪しかった、居るとしたら地下要塞とか、しかるべき施設に収容されるべき逸材である。
ちなみに退社後も、外注として当コラムの担当は続けるらしい。倒したはずのボスが変形して襲い掛かって来たみたいな展開だが、年も明けたし、今回が「女って何だ? セカンドシーズン」ともいえる。

そんな生まれ変わった担当(腕が4本ある)からの提案は「今度はシチュエーション別、女同士の関係性について書いてはどうか、嫁姑とか」とのことであった。

相変わらず「セックスオンザシティオブザデッド」みたいな話が好きですね、と思ったが、相手は腕が4本ある上に、背中に漆黒の翼を持っているので黙っておくことにした。

「嫁姑」の話など、意味としては、ベトナム戦争かルワンダ虐殺の話をしよう、と言われたに近い。だが嫁姑にもいろんな関係がある。
私も嫁の立場であり、姑がいるが、同居はしていないし、相手も特に口煩いタイプではないので今のところ問題はない。
しかし「問題がない」というのは、どちらか一人の証言では成り立たないものだ。例えば「うちの家庭には何の問題もない」と言っているおっさんがいたとする。本当に問題がないのかもしれないが、実際は、家庭内の問題全てを一人で背負い解決している嫁がいるだけ、という場合もある。

そういう男はそのうち、巧妙に病気と見せかけたヒ素中毒で死ぬと思うが、実は私も姑にムカつかれており「いつかは」と喉笛を狙われているかもしれないのだ。
虚をつかれないためにも、今度姑に会った時「実はあたしにムカついてるっしょ」等の牽制をしておこうかと思ったが、むしろ戦いの火ぶたが切って落とされそうなので、とりあえず黙っておこうと思う。

つまり嫁姑といっても、仲のいい者同士や、内心ムカついているが平静を取り繕っている者、物理的に殺し合っている者まで千差万別だと思うが、一般的には「嫁姑というのは仲が悪いもの」、そして「姑が嫁をいびるもの」というイメージがある。
では何故そうなってしまうかというと、まず嫁姑以前に、女全体にある「自分より若い女を許せるか許せないか問題」があるような気がする。
基本的に嫉妬というものは、自分が持ってないものを持っている人間に対して起こるものである。若ければいいというわけではないが、生物として肉体的には若いに越したことはないし、願っても二度と手に入らないものなので、持っていたら羨ましいに決まっている。

よって、嫁という時点で自分よりかなり若い女であり、さらにその自分より若い女が大事な息子を奪っていくわけであるから、この時点で姑にとっては「嫁は殺していい生き物だと法律上決まっている」ぐらいの感じになっても不思議ではない。
息子が自分より年上の嫁を連れてきたというなら、若さ問題はクリアだが、また別の意味で心中穏やかではないだろう。

さらに「伝統問題」もある。
どんな女でも生まれた瞬間から姑だったということはないだろう。「生まれながらの王」みたいでカッコいいが、大体は、嫁時代を経て姑になっていると思う。そして自分が嫁時代、姑にいびられていたから、自分もそうしなければいけないような気になってしまうのだ。
代々続く、先輩から後輩に対するしごき、みたいな部活ノリが、嫁姑にも存在するというわけである。
それに部活ならまだスポーツの爽やかさみたいな部分もあるかもしれないが、嫁姑の場合はそういったものもない。
ただ精神的には「お互いが硬球をぶつけ合う」「出来るだけ堅い石を握りこんで殴る」みたいなルールの元戦っているので、ある意味スポーツといえなくもないが、流れる汗は青紫色である。

もちろん皆が「やられたから自分もやる」という思想ではないだろうし、負の連鎖を断ち切ろうとする姑もいるだろう。
そうするとまた「逆張り問題」というのも出てくる。嫁姑問題なんて古い、私は嫁と友達みたいな関係になる、と気張りすぎて「過干渉な姑」「優しくしすぎて嫁が増長」という問題を引き起こすパターンだ。

現在「毒親」という言葉が生まれ、「親でも愛せないものは愛せない」という考えが徐々にだが認識されつつある。
だとしたら、嫁や姑なんて、もっと愛さなくていいはずである。たまたま相手が愛せるタイプだった場合だけ愛せばいいだろう。
では、相手が気に入らない場合は殴りかかればいいかというとそれも違う。皆さんも一人や二人、気に入らない、苦手な人間はいると思うが、そいつを殴ったことがあるだろうか、あるという人は、法治国家に向いていないので世紀末あたりに引っ越した方がよい。

おそらく苦手な人間に対しては「避ける」を使っている人が一番多いと思う。嫁姑も同じで、合わないと思ったら、「無理に仲良くする」「どうやって多額の保険金をかけたあと事故に見せかけて殺すか」ではなく「極力会わない方法を考える」方が建設的な気がする。

女13

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著者プロフィール

カレー沢薫

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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