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女って何だ?

カレー沢薫

女って何だ? ブック・カバー
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第10回

2016.11.24 更新

このコラムは『「女」って何だ?』などという大仰なタイトルの割には私に情報収集能力がないため、担当の「こんな女がいまっせ」という○○女メモ(通称:黒の書)に頼って書かれている。
そしてその初弾のメモを全部消化する前に、早くも次のメモが届いた。担当がやる気で私も嬉しいが、問題はそれが「殺る気」と書くところだ。
開いてすぐに「これは元気な時しか読んではいけないやつだ」と思い即閉じした。
よく、女たちが迷走し、もがく姿をここまで冷静に分析、箇条書きにできるなと思った。98個ぐらいにバラされた死体を眉一つ動かさず鑑識する監察医である。

どうやら担当はこの世の女たちを全員殺すつもりらしい、やっと奴の目的が見えてきた。
しかし、本当に恐ろしいところは、このメモが貼付されていたメールに「皆殺しだ、慈悲はない」などと書かれていたらまだ「ですよね」と納得、素直に命乞いができるのだが、「このコラムで現代日本社会で女たちが無理せず生きていくにはどうしたらいいか、ということも提唱できたらいいですね」みたいなことが書かれていたのだ。

絵に描いたような「本当に怖い人は優しいことを言う」状態に、「鬼が笑っておる」とPCの前でしばし呆然としたものである。

そんな担当の新生「女逆補完計画」メモの栄えある一番最初に書かれていたのは、こんな女だ。

【自分探し系女】
・サブカル、意識高い系の先にある姿
・今の私は本当の私じゃないと思い、小説を書く、旅に出るなど「どこかにいる本当の私」を追い求める
・25を過ぎたら、30を前に、など、ある特定の年齢で発症しやすい。突然仕事を辞めてカフェをやりたい、海外で働きたいなどと言いだす
・仕事はお金じゃない、やりがいだと言い、「人を幸せにしたい」「ありがとうと言われたい」からと仕事を選ぶ
・結果「イオンいちおしゃれな飲食店(チェーン店)」で年間休日50日くらいで働くやりがい搾取に引っかかる

実はこれでメモの三分の一程度なのだが、文字数を取りすぎるというより「つらい」という純粋な理由により、ここまでにしたい。

「自分探し系」。もうこの名前からして見失っている感がすごい。サブカル系や意識高い系の進化型ということだが、ピカチュウがライチュウになったはいいが「ピカチュウの方が可愛かった……」と思うのと同じだ。
そしてついに「搾取」という言葉のお出ましである、しかも「やりがい搾取」。このコラム、私よりも担当のほうがよほどいい言葉をドロップする、悪い意味で。
確かにこの症状(すでに病気カテゴリである)20代後半から30前後の女が発症しやすいが、正直不治の病であり、特効薬はない。仕事があろうが、結婚していようが、子供がいようがなる時はなるし、死ぬまでなる。

それに自分探し系というのは、いかにも暇を持て余した女が罹る病のように見えるが、実は忙しい女もなる。
暇な女が罹る自分探し病は、暇ゆえに元気があるため発想がまだポジティブであり、それこそ「元気があれば何でもできる」のようにベクトルが希望に向かっている。
しかし忙しい女の自分探し病は、もっと切実で深刻だ。日々、仕事や家事に追われ疲弊しているが決して充実しているわけではない。しかしそんな中ふと暇ができると「何もすることがない」のである。この空虚ぶりは、筆舌に尽くしがたい。何もない女が抱える空虚より、やらなければいけないことは山積みなのに、「やることが何もない」と感じてしまう女のからっぽぶりの方がよほど底が深い。

かくいう私も、未だにこの病を発症し続けている。平素会社員をやり、家に帰れば作家業、家のことも多少はしなければいけないし、とても暇とはいえない、むしろとても忙しい。それでも、たまたま空いた時間に何もすることがないと、それでもさらに「何かしなければいけない」「新しいことをはじめなければいけない」という強迫観念が生まれる。

希望というより、焦りであり、さらに疲れているため、判断力も低い。逆にこういう女を搾取しない方がおかしいぐらいの搾取対象である。

ではどうしたらいいかというと、『美味しんぼ』の海原雄山に「馬鹿どもに車を与えるな!」という名言があるように、「疲れている女に考える時間を与えるな」なのである。
もちろん考える間もなく働けという意味ではない、寝ろということだ。弱っているときの思考なんて、大体ろくでもない。
そういう女は「たまの休日を寝て過ごしてしまった……」とまた凹んでしまうのだと思うが、起きていて何ができたという話なのだ。そんな状態では新興宗教のキャッチにひっかかるぐらいしかできない。病気でなければ寝る以上の体力精神力の回復はない。

いつになくまじめで暗い話になってしまった。担当の「現代女性を生きやすくしたい」という志が本心なら、まず私が元気になるようなテーマをくれまいか。
とりあえず今から寝て体力を回復しようと思う。

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著者プロフィール

カレー沢薫

1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。

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