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カレー沢薫のワクワクお悩み相談室

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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カレー沢先生、正社員だけが正義な家族を論破する方法はあるのでしょうか?

2019.06.07 更新

私は週5日の会社勤めをしていますが、通勤だけで疲れてしまい、休日は身動きもできません。気分転換に在宅のライター業をしてみたところ、記事が採用されお金も少し入り、完全にいい気になりました。会社勤めを少し減らし、その分執筆業で生きていきたいとまで思うようになりましたが、姉が猛反対します。
どうやら姉は、人間は朝起きて週5日会社に通勤するべき生き物で、それ以外は社会不適合者だと大真面目に考えているようです。
こんな姉の事は放っておいて、好きなことを仕事にしても良いものでしょうか? 悩む私の背中を、先生に思い切り突き飛ばして頂けると嬉しいです。

まずお姉さんがあなたの仕事に対し、いわゆる「貴賤」で反対をしているなら、残念ながらお姉さんの考えを変えるのはなかなか難しく、変えようと思ったら、説得する時間と労力がかかります。

説得するより手っ取り早いのは、お姉さんのことを「昭和1ケタ生まれ」なのだと思うことです。
私には90歳になるババア殿がいるのですが、たまに、ツイッターなら炎上間違いなしの差別発言をナチュラルにかまします。

発言自体を正すべきでしょうが、何せそれは90年かけて確立した考えです。今から変えさせようと思ったら、明らかにババア殿の寿命の方が先に尽きます。
なので、そこは「ババアなんだから仕方ねえ」「もうすぐ死ぬ人間を論破してどうする」「そもそも論破できねえから時間の無駄」と思って我慢し、残された時間を他の楽しい話でもして費やしています。

お姉さんはまだお若いでしょうから、考えを改めさせたい、という気持ちもわかりますが、それにはあなたの貴重な時間と精神力を使いますので、それで疲弊するよりお姉さんのことは「おばあちゃんなんだから仕方ない」と思って諦めるのも策かと思います。

ただ、お姉さんはあなたのことを「心配」もしているのだと思います。
正社員以外は恥という世間体以上に、「それで本当にやっていけるのか」という不安があって反対しているのではないでしょうか。

これに関しても、ダブルワークを始める前からお姉さんを完全に納得させるのは無理だと思います。
今の世の中、終身雇用崩壊や年金終了? のお知らせが示すように、「絶対大丈夫」などと言い切れるのは「現金で2兆円持っている」以外なかなかないのです。

よって、お姉さんに「やっていける」という根拠を、収入試算して説得するより、実際それで「やっていけている姿」を見せ続ける方が良いのです。
おそらくお姉さんは、あなたが正社員を辞め、若干不安定な職になることにより、身内である自分が迷惑をかけられるのでは、という危惧があるのだと思います。

ならば「迷惑をかけない」ことが、一番説得力があるのです。
迷惑さえかけず数年経てば、「やってることは認められないけど、こっちに迷惑かかるわけじゃないからいいか」と、相手もあなたの生き方に慣れてきます。

私の親も、私のことをフリーランスどころか完全な無職だと思っています。
よって、昔はあなたのお姉さんと似たようなことを言っていたのですが、年金支給日を狙って実家に帰ったり、冷蔵庫の中の物を勝手に持って行ったりなどの迷惑をかけないまま10年ぐらい経ったので、今は何も言ってきません。
ついに認めてくれた、または諦めたのです。
このように、言葉で説明するより「お前に迷惑はかけない」という行動で示した方が、相手を納得、もしくは諦めさせやすいです。

それでも、「そろそろちゃんとした仕事したら?」などと小言を言われることはゼロにはならないでしょうが、回数は減るでしょう。そして、言われた時は、相手は卒寿なのだと思ってやり過ごしましょう。

そもそもあなたは、会社を辞めて文筆業に絞るというのではなく、会社勤めを減らして、文筆業を増やすという方針です。
現在では、収入自体を増やすより、収入源を増やした方が良いという考え方もあります。
よって、あなたのやろうとしていることは、リスキーな賭けというわけでもなく、逆にリスクを分散しようとしているため、むしろ安定した働き方と言えなくもありません。

あと、非正規やパートでも、条件次第では社会保険や雇用保険には入れますので、そこを確認した上で、会社勤めとフリーランスのうま味を両方享受できるように立ち回ることをお勧めします。
私も長らくそのような生活をしていたのですが、休みが皆無、ガチャのせいでどれだけ働いても無意味、会社にバレて逃げるように辞めるなど、予期せぬアクシデントがあり、現在フリーランスという名の無職なので、その点は気をつけましょう。
そうしなければ、突然いろいろ失います。

上手くやれば、正社員時代より収入と自由時間が増え、それなりに安定もしているという理想的な状態になると思います。
しかしそうなると今度は、あなたの方が、週5で朝起きて会社という名の強制労働施設に通っているお姉さんを「まだ会社で消耗してるの?」とバカにしてしまう恐れがあります。

もしかしたら、お姉さんが反対しているのも、自分は会社に勤める以外収入を得る術を知らないのに、妹は何かよくわからないことで稼いでいる、ということに対する嫉妬からかもしれません。

そんな理由で社会不適合扱いされるのは癪ですし、見返してやりたいとも思うでしょうが、今後あなたがどれだけ成功しようと、お姉さんのことを「会社勤め以外能がない」などとバカにしてはいけません。

それをやると、今度あなたが上手くいかなくなった時、お姉さんがまた「鬼の首を小脇に抱えてやってくる」と、姉妹でエンドレス見下し合いをすることになり、最終的に世界は核の炎に包まれます。

お姉さんがあなたの能力を認めてくれないのは悲しいことですが、あなたも負けじと会社員しかできないお姉さんをバカにすれば、結局あなたも「人の生き方の多様性を認められないおばあちゃん」ということになってしまい、ババアVSババアというこの世で最も醜い戦いが始まってしまいます。

それに、週5で朝起きて会社に行き、それを何十年も続けるというのは、実際リスペクトに値することです。

よって、お姉さんに対しては、小言は「はいはい」と聞き流しつつ、「おばあちゃんは、週5で会社通ってて偉いね」と敬意を払う「敬老精神」で接することをお勧めします。

働き方

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作品について

著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神"と崇められ、20本近くの連載を抱える人気作家。近刊はエッセイ『女って何だ?』(小社)。現在クラウドファンディングでコラボカフェの開店を企画中。

作品概要

人間関係、金銭問題、趣味沼……
読者から寄せられる様々なお悩みにカレー沢先生が答えます。

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