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カレー沢薫のワクワクお悩み相談室

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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カレー沢先生、消化試合なこの先の人生をどうすれば楽しく生きられますか?

2019.05.24 更新

26歳女性です。まだ若いと言える年齢ですが、この先の人生が完全に「余生」だと悟ってしまいました。まず、この年代の女性に以後期待されること(恋愛、セックス、結婚、妊娠、出産、子育て、親の介護……etc)に魅力を感じません。働くことも苦痛ですし、唯一の光だったオタ活動や友人とのオタトークも最近は億劫で、刀剣は乱舞するのに私の心は動かざること山の如しです。良くも悪くも人生でやりたいことはやり切った感があり、逆にこの先待っているのは気乗りしないことだらけの消化試合で、もう生きていたくないな~とさえ思います。ただ、さすがにこの心持ちはまずい気もするので、どうにかこの先の人生も楽しく生きられるようカレー沢先生のお知恵を拝借したいです。
ちなみに刀剣が乱舞するゲームの推しは長谷部と大典太です。よろしくお願い申し上げます。

長谷部と大典太が好きな時点で何の心配もない気がしますが、私と趣味が全く同じ、という点では何らか心配が必要な気もします。

まず、このような話をパイセン方にすると「26歳で余生とか片腹痛いわ」と、まるで20歳の女が「もうババアだわ~」と言っているかのような余裕ぶっこきだと勘違いされがちです。

しかし、そういうマダムに「じゃあこれから先何があるんすか」と聞いたら、「アウターは全体的に太るが、毛根や歯茎などのインナーが痩せてくる」「両親との免許返納ぶっちぎりバトル」「夫と同じ墓に入らないための100の方法」など、ますます気乗りしなくなる話ばかり出てきます。
よって、あなたの予想通り、これから気乗りしないことが起こるのは「確」なので、まず20代でそこに気付けたことを誇りましょう。

それに、あなたのような悩みを持っている人はレアでもなんでもなく、☆の数で言えば2寄りの3程度です。
先日、女性誌から「人生に飽きている女」というテーマでコラムを書いて欲しいという依頼がありました。
この「人生に飽きている女」というのは、まさにあなたのような、人生のおかずが早々になくなり、大量の白米だけが残ってしまった女のことです。
この先、結婚や出産というような食いでのあるおかずが来る当てもなく、だからといって趣味などの「ごはんですよ」さえも見つからない、ただ白米だけを毎日食い、正直飽きたし、顎も疲れているという状態です。
そして最終的に、親の介護や自分の老後問題など、冷やごはんしか出て来なくなるかと思ったら「まだご飯が温かいうちに終わらせたい」と思ってしまうものなのです。
この「人生への飽き」は、寿命が延び、結婚や出産などの大きなイベントがマストではなくなった、現代だからこそ生まれた、新しいメジャーな悩みの一つなのです。

件のコラムでは「趣味、というか推しを持て」「推しがいると、むしろ寿命の方が足りなくなる」という結論で締めたのですが、今回は相談の段階から「推し」を封じられているので最悪としか言いようがありません。回答者殺しも良い所です。

では、「楽しみ」ではなく「気乗りしないこと」の方に先に目を向けるのはどうでしょうか。

あなたは今、これから先楽しいことはなく、気乗りしないことばかり起こりそう、という「将来に対するぼんやりした不安」から「だったらここで終わってもよくね」と思っているのだと思います。

しかし、それはあくまで「誰か終わらせてくんないかな~」という「だるいから誰か電気切ってくれないかな」程度の気持ちであり、明治の文豪のようにマジで終わらせるガッツはないと思います。
つまり、どれだけ消化試合が嫌と言っても、自分でゲームセットする根性がない限りは、93回の裏になろうが、寿命まで試合を続けるしかないのです。

この消化試合をいきなり、ツーアウト満塁バッタークロマティ、みたいな激アツな試合にしようとするのではなく、少しでもマシな試合にできるように、まず今あなたが感じている「ぼんやりとした不安」を箇条書きにでもして「クリアな不安」にするのです。

例えば「親の介護」の場合、親が倒れた時、認知症になった時、具体的にどうすれば良いのか、ネットでもいいので少しでも調べてみましょう。
正直、問題というのは、その問題から目を逸らしている時が一番怖いのです。
問題の実体がわからないと、幽霊のような、得体の知れない、どうしようもないものを相手にしているような気分になります。
よって、思い切って正体を突き止めてみた方が、「なんだ、ただのジェイソンか」と気が楽になったりするのです。

どっちにしても怖いし、死ぬわ、と思うかもしれませんが、相手がジェイソンとわかれば、実行可能かはおいておいて「ジェイソンの母のセーターを着たのち、ジェイソンの仮面を破壊し、ある程度ダメージを与え、膝をついたところで、トミーがとどめを刺す」という具体的解決策を考えることができます。
問題が実態不明のままでは、それすらできず、怯えることしかできません。

ぼんやりとした不安をクリアな不安にし、それに対して知識を得て準備をしておくことは「心の余裕」に繋がります。
そうすれば少なくとも、今の「よくわかんないけど、楽しくないし、何かが怖いので、死にたい」という情緒不安定な人のSNSみたいな状態よりは、前向きな気持ちになれるのではないでしょうか。
気持ちが明るくなればまた、新しい楽しい事を見つけようという気にもなってくるでしょう。

それに、趣味に飽きているのなら、無理して趣味を作ったり、新しい事をはじめたりせず、むしろ今がチャンスと思って素直に「貯金」しても良いのではないでしょうか。
正直、将来に対する不安を鎮静させ、心を落ち着かせる一番のハーブは「銀行口座の数字」です。

逆に、趣味や熱中するものがある人は、あなたの「ぼんやりした不安」とは違って、「金がない」という「具体的すぎる不安」を抱えていたりするものなのです。

結局、自分でゲームセットするガッツがなければ、種類は違えど、人間死ぬまで何らかの不安を抱えて生きていくしかなく、それを和らげるため、知識、準備、貯金、覚悟、などの「麻酔」が存在するのです。
実は趣味もその一つであり、効果が強く、ハイになるため、「シャブ」の方に分類されているだけです。

とりあえず「麻酔」の方を打って、不安を和らげ、余裕が出て来たら「シャブ」の方も探してみましょう。

消化試合

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作品について

著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神"と崇められ、20本近くの連載を抱える人気作家。近刊はエッセイ『女って何だ?』(小社)。現在クラウドファンディングでコラボカフェの開店を企画中。

作品概要

人間関係、金銭問題、趣味沼……
読者から寄せられる様々なお悩みにカレー沢先生が答えます。

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