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カレー沢薫のワクワクお悩み相談室

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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カレー沢先生、ついに実家を出る私に、結婚生活の極意を教えてください!

2019.04.19 更新

これまで30年、実家に住んでいて、一人暮らしをした経験は一度だけ、しかも実家から30分の距離の場所に1年間住んだくらいです。とても甘やかされて育ち、実家でも家事は全て親任せ、特に料理はなにひとつできません。そんな私ですが、今年結婚する予定です。料理はなんとか適当にするとしても、実家を出て結婚生活に入る私に何か注意点やアドバイスがあればお聞かせください。

私も、一度たりとも実家を出たことがなく、身の周りの世話を、お母さんを越えてババアにやってもらっていたという生粋の「子供部屋おばさん」のまま結婚しましたが、何とかなりました。

そう言いたいところですが、夫婦生活ほど双方の意見が食い違っているものはなく、私が「何とかなっている」と錯覚できているのは、ただひたすら相手の努力と忍耐のおかげ、という可能性が高いです。

こういうタイプは定年後に離婚を切り出され「青天の霹靂!」みたいなアホ面を晒すことになるので、そのアホ面側の私に「夫婦円満のコツ」を聞くこと自体間違っています。

それでも、結婚生活は10年近く続いているので、とりあえず10年結婚生活を保たせるアドバイスはできます。
まず、相手が我慢強いタイプであることを神に祈りましょう。

そして次にすることは、あなたの家事能力を伸ばすことではなく、相手を男塾名物油風呂につけて忍耐力を伸ばすことです。

ただそれ以前に、今あなたは誰に言われたわけでもなく「家事は全部自分でしなければいけない」と思っていないでしょうか。
今「ジェンダーバイアス」という言葉が話題になっています。ジェンダーバイアスというのは「男女の役割について固定的な観念を持つこと」を言います。
例えば、桃太郎が桃に入って川を流れる時「俺のことは川に洗濯にきたババアが拾ってくれるに違いねえ」と思うのはジェンダーバイアスです。
ジジイが洗濯をしにきても別に良いですし、何だったら鬼だってババアが倒して良いのです。
ただ「洗濯は女がするもの」という固定観念があるため、桃を拾うのもババアと考えてしまうのです。
もちろんババアが洗濯しても良いのですが「ババアが洗濯しない家なんて異常に決まっている」と桃太郎が川を逆流しだすのは、偏見と言えましょう。

このジェンダーバイアスというのは無意識下で持っていることが多く、自分は性差別しないフラットな人間だと思っていても、「部屋にセーラー服姿の人間が入って来た」と言われたら瞬時に女子学生だと考えてしまいます。
元々セーラー服は船乗りの服なのでおっさんが着ていても不思議ではありませんし、船乗りじゃないおっさんが着ていても特に問題がないにもかかわらず、自然にそう思ってしまうのです。
そもそも私が、あなたを女性と思い込んで答えているのも「男が家事能力の有無で悩むわけがない、何故なら男は家事ができなくても恥ずかしくないから」という見事なジェンダーバイアスなのです。
途中まであなたが男性である可能性を一切考えなかったので、いかに無意識下で行われているかがわかります。

よってあなたが男性だったら申し訳ないのですが、とりあえず今回は女性と仮定してお答えいたします。
ジェンダーバイアスは他人にだけではなく、自分自身の役割にもかけてしまうことがあります。
今あなたは、「結婚したら女の私が家事をやるものだ」「女なのに家事ができないのは恥ずかしい」と気負っていないでしょうか。

あなたの婚約者(一応、男性と仮定します)は「結婚したら俺が家事を全部やらないと」と思って焦っているでしょうか。

もし全部あなたにやってもらえると思っていたら別の大問題なのですが、これから令和を生きようかという日本男児なら「家事は分担してやれば良い」と考えてくれているでしょうし、少なくとも「1人でやらなきゃ」などとは思ってないでしょう。

あなたもまずそう思うようにしましょう。
むしろあなたが「家事は2人でやるもの」と思わなければ「家事はあなただけの仕事」になってしまうのです。
何もできないところから、1人で全部やらなきゃと思ったら焦るのは当たり前ですから、まず「2人でやれば何とかなる」と思いましょう。

ただ、あなた達の結婚形態がわからないので、もしかしたら結婚後、あなたは専業主婦をされるのかもしれません。
そうなると、家事があなたの仕事になるので、話はまた違ってくるのですが、兼業にしろ専業にしろ、家事は相手に見栄を張らないことが大事だと思います。

現時点で、親に甘やかされたボンクラ子供部屋オバさんなのはもうしょうがないことなのです。
それを「素敵な奥様」に見せようと、家事本を読みこみ、相手のことまで全部やって部屋着にまでアイロンをかけていても長くは続きませんし、相手は「ここまでしてもらえるんだ」と思うだけです。

ノートの1ページ目だけキレイに書くと、普通に書いたページすら汚く見えるものです。最初に力を入れ過ぎると、それが標準になってしまい、少し気を抜いただけで「最近手抜きじゃね?」と言われて、10年どころか8か月ぐらいで結婚生活が破綻してしまう可能性があります。

できないものはできないまま行きましょう。
そもそも「女は家事能力完璧で嫁いでくるに違いない」というのも巨大な偏見です。

ただ出来ないにしても「ワイは浪速の子供部屋おばさんや、文句あっか」という態度ではなく、「未熟者ではありますが、これから精進してまいりますので、何卒ご協力ご鞭撻の程お願いいたします」という二世議員のような気持ちで行きましょう。
最初のページが汚い方が、のちのち上達したように見えて好都合なのです。

家事というのは実戦でヤッていくなかでデキるものなので、今デキないことを悩んでも無意味です。

今大事なのは「デキないけどデキるよう努力はする」という気持ちと「家事と子供はヤればデキるし、2人でヤるもの」ということを忘れず嫁ぐことです。

家事とジェンダーバイアス

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作品について

著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神"と崇められ、20本近くの連載を抱える人気作家。近刊はエッセイ『女って何だ?』(小社)。現在クラウドファンディングでコラボカフェの開店を企画中。

作品概要

人間関係、金銭問題、趣味沼……
読者から寄せられる様々なお悩みにカレー沢先生が答えます。

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