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カレー沢薫のワクワクお悩み相談室

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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カレー沢先生、自己肯定感を高める魔法を、わたくしめに授けてください。

2018.11.02 更新

カレー沢薫先生にお悩み相談です。自己肯定感を高めるにはどうしたらいいでしょうか? 常に『あたしなんて……』という意識があり、誉められたり親切にしてもらったりすることがあっても猜疑心にかられて素直に受け止められません。心がまっすぐで明るい人が羨ましいです。

どう頑張っても自分以外の人間にはなれないのに「自己肯定感が低い」つまり「自分が嫌い」というのは非常に辛いことです。
カフカの『変身』の主人公が「起きたら虫だった」みたいな感覚で、「どうしても好きになれない奴」として毎朝目覚めなければいけません。最悪な一日のはじまり方です。

出来れば、サミュエル・L・ジャクソンみたいに自分の顔がプリントされたTシャツを着たり、息子ではなく、自分の名前を体に彫るぐらい自分大好きになりたいものです。

しかし「自己肯定感」というのは一朝一夕で身につくものではありません。仮にあなたが明日の朝起きたらサミュエル・L・ジャクソンだったとしても自分の顔のTシャツは着ないでしょうし、逆にサミュエル・L・ジャクソンは突然虫になっても新しく「虫T」を作って着ると思います。

つまり、自己肯定感の高低は何で決まるかというと、必ずしも能力値に比例するわけではありません。
いつもオドオドして、ヒモ彼氏に手の甲を「灰皿」と呼ばれながら、「私が悪いの」と言っている美人もいれば、「嵐でつきあうなら誰?」という質問に「え~一人に絞らなきゃダメ?」と真顔で返す自信満々のブスもいます。

美人に生まれても、親などに「カワイイ」と言われたことがなく、「お前は本当に醜いな」と言われ続ければ、自己肯定感を持つことはできません。
逆にブスでも、親戚中から「よっプリンセス! 脂身食うか?」と扱われれば、自己肯定感は育ちます。周りに認めてくれる人間がいるかどうかが問題なのです。

つまり、自己肯定感の高低は、自分の能力にもよりますが、それ以上に周りの人間や環境に大きく左右される、かなりの「運ゲー」だということです。
今あなたが「あたしなんて…」と思ってしまうのは、他人より劣っているからというより、運悪く、自己肯定感が育ちにくいコンクリの如き不毛の大地に種をまかれてしまったせいでもあるのです。

もちろん、実際にバカでブスで他人より劣っている可能性もありますが、バカでブスで他人より劣っていると気付かせた周りも悪いのです。

何でも自分のせいにすると辛いですし、「私なんか…」度が上がってしまいますので、まず「半分は運と周りのせい」と思うようにしてください。

このように「自己肯定感」というのは、己の能力、環境、周囲の人間、経験など、全てを積み重ねて形成されていく根深過ぎるものなので、ある程度年を取るとそう簡単には変わりません。
よって、「どうやったら自己肯定感を高められますか」と聞かれたら「生後6か月ぐらいに戻って、何をやっても褒めてくれる人を金で雇い24時間隣に置きましょう」とアドバイスするしかありません。

今から24時間褒めてくれる人を金で買い、今までの人生と同じぐらいの時間をかけて自己肯定感を高めていくという方法もありますが、時間がかかりますし、仮に今あなたが80歳だったら、自分を好きになる前に死にます。

よって、あなたがやるべきなのは自己肯定感を高めることではなく、むしろ「猜疑心」を大切にすることではないでしょうか。
あなたは猜疑心の強さを短所と捉えていますが、これこそが、能力にも人にも恵まれ、素直に育ち、「まさか自分を騙す人間がいるわけない」と思っている人間に唯一勝っている「慎重さ」です。

自分に自信のない人間というのは、被捕食生物なので「お前みたいな女とつきあう男は俺しかいない」というモラハラ野郎に搾取されたり、「これをやれば自分大好きになれますよ」と高額エステや英会話のローンを組まされたり、あらゆるものから食いものにされがちです。

そんな弱い生き物が、捕食動物から身を守る術といったら、卑屈さからくる「人を見たら宗教か絵画ローンと思え」という「猜疑心」しかありません。

あなたが「嫌だな」と思っているその猜疑心がなかったら、今頃、手の甲に根性焼きで作られた北斗七星が輝いていたかもしれないということです。

私も毎朝「また俺でスタートかよ…」と思っている側の卑屈人間ですが、猜疑心が強すぎるせいで、手ひどく騙されたことや、おかしな人間の食い物にされたことはありません。
つまり「自分嫌だな」と思いながらも、そういうヒドイ経験がないので「そんなに不幸でもないな」とも思っています。
自己肯定感がなくても別に不幸にはならないのです。

それに心がまっすぐで明るい人にも、素直ゆえに人を疑うことを知らない「迂闊さ」や、肯定されて生きてきたがゆえに、親にさえ否定されて生きてきた人間がいるということを理解できない「無神経さ」など短所はあるものです。

これから無理に自己肯定感を高めることを考えるより、「低さを生かして生きる」ことを考えた方がいいんじゃないでしょうか。

自己肯定感

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作品について

著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神"と崇められ、20本近くの連載を抱える人気作家。近刊はエッセイ『女って何だ?』(小社)。現在クラウドファンディングでコラボカフェの開店を企画中。

作品概要

人間関係、金銭問題、趣味沼……
読者から寄せられる様々なお悩みにカレー沢先生が答えます。

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