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カレー沢薫のワクワクお悩み相談室

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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カレー沢先生、推しへの繁栄願望と独占欲に板挟みな私を救ってください。

2018.09.21 更新

カレー沢先生にお悩み相談です。私は今、あるキャラにハマっているのですが、人気がありません。いえ、ないわけではないのですが、二次創作をしている人が少なく、気が付くと小生の投稿だけがどんどん増えていっている状態です。そのせいか、最近、「コイツのことをわかってるのは俺だけ」など僭越な思考が芽生え始めてしまいました。たまに珍しく推しの話をしている人を見かけても、嬉しいよりも先に苛立ちが湧いてくる始末です。同担拒否過激派を押し通せるならよいのですが、そもそも私は自分以外の推しの二次創作も腹いっぱい食べたいのです。世界が推しで埋め尽くされればいいのにと願っていたはずなのです。それが、隘路(あいろ)にハマった挙句どんどん逆方向へ突き進んでいます。メシア、私を救ってください。

あまりの地獄っぷりに、なんで俺たちはこんなに面倒くさいのか、と絶望的になる投稿です。
しかも、その地獄全てを己が作り出しているという点がさらに深みを与えています。「おっ! この血の池地獄コクがあるね?」という感じです。

しかし、オタクというのは大なり小なり、推しや推しカプに対し「独自の解釈」を持っているものですし、それが一番正しいと思っていたりするので、「推しに対し譲れぬ思いや解釈がある」のを悩むのは「ケツが二つに割れてるのって私だけなのでは?」と悩んでいるようなものです。みんな割れているので気にする必要ありません。

もちろん、全員が「私の解釈が正しい」と公の場で声高に主張しあったら、今頃世界は第56億次世界大戦ぐらいに突入していますし、あなたの髪型もモヒカンなはずです。

よって、あなたが「こいつのことを一番わかっているのは俺」と思うこと自体にはなんら罪はありませんし、そのまま思い続けていいと思います。
しかし、それはあくまで「お前がそう思うならそうなんだろう。お前ん中ではな」という話であり、ズボンという名の心の中でケツが割れているのはいいですが、それを丸出しで往来を歩いたら、大ひんしゅくか、最悪御用です。
よって、誰が見ているかわからないところではそれを出さず、同じようなケツの割れ方(趣向や解釈)を持った者同士が集まるところだけでケツを出し合うことで、オタク界隈は一応の平和が保たれます。界隈で起こる学級会というのは、この「所定の場所以外でケツを出した」ことに起因するケースが非常に多いです。

よって、あなたも心では思っていても、「俺の解釈が一番正しく、他は邪道」などとはケツが裂けても言ってはいけません。
特にオタクの世界というのは「ひとりとんでもないクレイジーがいる」というだけで「あのジャンルは民度が低い」と見なされて、人が寄り付かなくなってしまったりします。
特にあなたの推し界隈はそんなに人口がいないようなので、あなたの行動は目立ってしまうと思います。
よって、あなたがクレイジーゴナクレイジーになるほど、推しの周りから人が減り「自分以外の推しの二次創作も腹いっぱい食べたい、世界が推しで埋め尽くされればいい」という野望から遠のくことになります。
自ジャンルを繁栄させたいなら、布教より何よりまず「お行儀よく」するのが一番です。

しかし、黙ってお上品に正座してても同志は増えないし、仮に同志が増えたとしても今度はまた「推しを一番理解しているのは俺」という独占欲、さらに新参に対し「にわかが」と古参老害丸出しの感情を抱いてしまうことに違いはありません。

しかし、幸いあなたは「創作をする人」です。
よって、「こいつの解釈気に入らねえ」と思ったら、それに文句を言うのではなく、己の解釈を創作物にして発表し続ければいいのです。

これは「暴力は良くないからラップで決着」という「ヒプノシスマイク原理」です。他人の趣向や解釈をただ否定するのは「暴力」でしかありませんが、「ラップ」という名の創作物で間接的に「衝撃」を与えることは悪い事ではありません。

現に私も、全く興味のなかったキャラや、趣向上あまり見ないBLカップリングでさえ、良い創作をする人の作品で殴られたことにより、そのキャラやカップリングが好きになったことが何回もあります。

つまり、解釈違いの人間に出会ったとしても、モヤモヤしたり「解釈違いなんですけど」と言いがかりをつけるのではなく、無言で「作品」でぶん殴り「そ、そんな解釈もあったのか……」と相手をひれ伏させることを考えた方が建設的ですし、戦も起こりづらいです。

あなたが良い創作を発表し続けることにより、あなたの推しを好きになる人や、あなたの解釈に賛同する人も増え、世界中を推しで埋め尽くす野望に一歩近づくことになります。

ただ、あなたを「神」として、世間にあなたの推しの創作があふれたとしてもやはり「自分以外のは気に入らない」という思いは消えないと思います。
しかし、漫画の神さまである手塚先生でさえ新しい才能には敵対心を隠さなかったと言いますので、創作をやる人間としてそれはある意味健全な感情とも言えます。

その時はまた俺の方が上だと、新しい作品で殴りに行けばいいのです。人間同士の殴り合いはジャンルの治安を悪くしますが、作品同士の切磋琢磨は「あのジャンルの二次創作はクオリティが高い」と言われるようになるのです。

推し独占

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作品について

著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神"と崇められ、20本近くの連載を抱える人気作家。近刊はエッセイ『女って何だ?』(小社)。現在クラウドファンディングでコラボカフェの開店を企画中。

作品概要

人間関係、金銭問題、趣味沼……
読者から寄せられる様々なお悩みにカレー沢先生が答えます。

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