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カレー沢薫のワクワクお悩み相談室

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

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カレー沢先生、沼時代をどう総括すればいいんでしょう?

2018.06.08 更新

三次(♂)の推しから降りようと、ネット上から得られる情報を全て遮断したら、わりとすんなり上がれそうです(まだひと月しか経ちませんが)。追いかけていた約7年間は一体何だったのかと自分に呆れています。つぎ込んだお金は何になったのでしょうか?

趣味第一女は、三次元の一般男性とのリアル恋愛に一喜一憂しボロボロになっている女を見るにつけ「男に依存するからこんなことに」「ひとりで楽しめる趣味持ってる自分最強説」と思ってしまいがちですが、結局、目頭の目くそと、目じりの目くそぐらいの差しかありません。

ちなみに、私は立体感のある男に興味が薄い、二次元クソ萌え豚ですが、ずっと「万歳、君を好きでよかっ(萌えゲロ)死ぬまでハッピ……(し死んでる!)」というわけではありません。

推しキャラが原作で不遇な目に遭えば、両親が目の前で知らないおじさんにぶん殴られているかのような気分になりますし、推しキャラがもう3年ぐらい原作に登場してない間は、飢餓や渇きの感覚を超えて、じっと動かず光合成で生きるという人生植物状態に陥ります。
中には、推しが死ぬと、「何故1話でキャラが3人ぐらい死ぬバトル漫画のキャラを好きになってしまったのか……」という、愛してしまったことへの根本的問いかけに発展してしまう者もいます。

逆に嬉しい時ですら、オタクは「しんどい」と言います。これは比喩でも大げさでもなく、本当に推しのSSP(シコシコポイント)が致死量を超えていて苦しいのです。

結局、対象が二次元だろうが三次元だろうが電車だろうが、その思いがファン程度だろうがガチ恋だろうが、「何かを好きな時」は「何か」に一喜一憂し、振り回され、座ったと思ったらもう立たなければならない、落ち着きのない生活をせざるを得ないのです。

つまり、何も好きじゃない時より、精神的にも肉体的にも、時には金銭的にも遥かに「消耗」するのが「何かを好きな時」と言えます。
しかし、自分の色んなものを燃やしているのですから「充実感」はありますし、そんじょそこらの情緒不安定には真似できない怒涛の喜怒哀楽を短時間で体験するので、圧倒的「人として生きてる」感があります。

極論を言えば、「何かが猛烈に好き」な間、人は死にません。
明日推しのライブという女にでかめの隕石をぶつけても多分死なないでしょう。
オタクに推しの新情報を与えると、「無理!」と叫んで爆発四散したのち「これ見るまで死ねない!」と、見た目的には明らかに死んでいる状態で、高らかに生きる決意を宣言します。

ここまで臆面もなく「死ねない」「生きる」と言えるのは、「生きる希望」つまり推しなどの好きな物がある時なのです。

よって、好きな人、物に振り回されて辛いという状況より、質問者さんのように「虚しくなった」時が一番まずいのです。
好きなものことが一生好きで、死ぬまでそれのことで、立ったり座ったりする人生というのはある意味幸せです。

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「慣れる」「忘れる」というのは神が人に与えた最大の慈悲ですが、同時に我々は残念ながら「飽きる」ようになってしまったのです。

ただ飽きるだけなら良いですが、往々にして質問者さんのように「今までやってきたことまで虚しくなる」と「人生無駄した」「とりかえしのつかないことをした」と過去からこの先の人生まで否定につながってしまいます。

よって、まず「突き詰めて考えて虚しくならないものなどこの世に存在しない」と思いましょう。
極端に言えば、最低限の生活に必要な衣食住に関わる金以外は全部「無駄遣い」ですし、それすら「何でどうせ死ぬのに生きようとしているの?」と考えれば無駄です。
つまり、全部無駄なのですから「あれは無駄だったのでは?」と考えること自体無駄なのです。

しかし、「どうせウンコになるし」と言う理由で飯を食わなかったら餓死しますし、どうせウンコになるとしても、口に入れる時点ではできるだけ美味いものの方がいいに決まっています。

よって、あなたの7年間、推しの存在はそういうものだったと思いましょう。
消化されてしまったものなので、もう今後何にもなりません。ただ7年間あなたが生きるのに必要な栄養だったのは確かであり、それがいなかったら餓死していた可能性が大いにあります。

もう、それはあなたの口に合うものではないかもしれませんが、推しに7年生かされた今があるからこそ、また次の美味いものを見つける未来があるのです。

それに、一番良くないのは、「もう飽きたし全然美味いと思えないが、今までかけた金と時間が惜しくて、自分に嘘をついてでも美味いと言って食い続けている状態」です。

つきあった時間を無駄にしたくなくて、もう好きでもない相手とつきあい続けるのと同じで、さらに時間と金を無駄にすることでしょう。

少なくともあなたはそこからは脱していますので、無駄だったと悔いることはあるかもしれませんが、「これ以上無駄にすることはない」と前向きに考えてみてはどうでしょうか。

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著者プロフィール

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神"と崇められ、20本近くの連載を抱える人気作家。近刊はエッセイ『女って何だ?』(小社)。現在クラウドファンディングでコラボカフェの開店を企画中。

作品概要

人間関係、金銭問題、趣味沼……
読者から寄せられる様々なお悩みにカレー沢先生が答えます。

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