キノノキ - kinonoki

キノノキ - kinonoki:ナビゲーション

世にも小さな ものがたり工場

ショートショート大賞優秀賞受賞者

世にも小さな ものがたり工場 ブック・カバー
バックナンバー  1...6667686970...92 

「わたし、したわ」(恵誕)

2018.07.18 更新

 カーテンの透け感に朝の気配を感じ、ゆっくり瞬きを繰り返すと、ベッドの上にわたしが倒れていた。
 もしかして幽体離脱? それともわたし、死んだの?
 高速で目をパチパチさせ、焦点をしっかりあわせると、格子のようなものが目の前に浮かぶ。
 わたしは文鳥と、入れ替わっていた。
 わたしのカラダを持つ文鳥は起き上がると、ちゃっちゃと身じたくを整えはじめた。そして、鳥かごの中にいるわたしに「じゃ、シゴト行ってきま〜す」と言い捨て、出て行った。夏バーゲンで買ったばかりの、青のワンピを着て。
 10時、12時、12時30分、13時、15時……かごの中の一日はなんて長いのだろう。
 19時、20時……わたし文鳥は帰ってこない。シゴトは18時に終わるはずなのに、残業はないのに、なんでよ。わたしが一体なにしたっていうのよ。
 そして、深夜1時。頬を染め、ほろ酔いで帰宅。
「砂肝、お・い・し・かっ・た」
 唇をテカらせながらこちらにささやくと、そのまま着替えもせず、ベッドへダイブ。
 悩みなんてなにもなさそうな顔で、スヤスヤ寝息をたてはじめた。
 ちょっと! 起きてよ! これ、どういうことなのよ! それと、化粧くらい落としなさいよ! 肌が荒れちゃうじゃないの!!
 両足で鳥かごを揺らし、必死に叫んだ。
 悲しいことにわたしの声は「ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!」と高く響くだけだった。
 ベッドのわたし文鳥は片目をあけて、めんどくさそうにカラダを起こした。
 わたしはテーブルの上をにらみ、続けてわたし文鳥をにらんだ。
「ああ、これ? 夜中に酔ってネットでポチったやつ。バカなもの買ったよね。わ・た・し」
 そう言うと、それを無造作にゴミ箱へ放り込んだが、かなり手前で落ちてしまう。
【誰かと入れ替わる楽しさ! あべこべリング】
 そう書かれたパッケージには、わたしの右の足環と同じデザインのリングが2つ、描かれている。
 ねぇ、なによそれ! ちょっと見せてよ!
 わたしの声を無視して、わたし文鳥は捨て直す。そして振りかえると、静かな声で言った。

「やだ、また寝ぼけてじぶんのこと、ニンゲンだと思ってるの? しーちゃんは生まれたときから、文鳥なんだよ」

(了)

恵誕さんの前作「旅先変更」はこちら
http://kinonoki.com/book/monogatari-factory/factory63.html

バックナンバー  1...6667686970...92 

作品について

著者プロフィール

ショートショート大賞優秀賞受賞者

ショートショート大賞 優秀賞受賞者
恵誕(けいたん):「超舌食堂」で第2回優秀賞を受賞。
高山 幸大(たかやま・こうだい):「雨女」で第1回優秀賞を受賞。
滝沢 朱音(たきざわ・あかね):「今すぐ寄付して。」で第2回優秀賞を受賞。
長野 良映(ながの・りょうえい):「ヤンタマ」で第2回優秀賞を受賞。
梨子田 歩未(なしだ・ふみ):「靴に連れられて」で第1回優秀賞を受賞。
行方 行(なめかた・ぎょう):「紙魚(しみ)の沼」で第1回優秀賞を受賞。

作品概要

あなたはどの作品がお好きですか?
第1回、第2回ショートショート大賞で優秀賞を受賞した6名の方の競作連載。
共通のお題だからこそ浮かび上がる、作家ごとに異なるオチ、着想、作風etc。
きっと好みの作品に出会えます。

おすすめ作品

第3回 遭難

堀真潮(ほりましお)

世にも小さな ものがたり工場

「謝罪会見」(髙山幸大)

ショートショート大賞優秀賞受賞者

世にも小さな ものがたり工場

「おもいでホイップ」(滝沢朱音)

ショートショート大賞優秀賞受賞者

世にも小さな ものがたり工場

「わかれ」(長野良映)

ショートショート大賞優秀賞受賞者

ページトップへ