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世にも小さな ものがたり工場

ショートショート大賞優秀賞受賞者

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「以心伝心」(髙山幸大)

2018.06.29 更新

 「悲」。
 「げだ」。
 それに対して「ヒそ別正」と返信。既読2がつく。
 アイ、ユキ、私のグループチャット。
 ピコン、ピコンと通知音が途切れない。
 「なんだそれ? 何かの略語? 全然わかんねぇ」
 「私たちにはこれでわかるの。ってゆうか勝手に見ないでよパパ!」
 「最近のやつは丁寧な言葉で伝えるってことをしなくなった……。嘆かわしい」
 「パパだってママと、おい、あれ、だけで会話することあるじゃん」
 「そ、それは夫婦だからこその以心伝心で……」
 「私たち親友同士だって以心伝心なの!」

 「それ、まじ?」を「そま?」、「了解」を「り」みたいに、極端な略語でチャットするのが流行ってたんだけど、それに乗っかって遊んでいるうちにハマって。私たち三人グループが交わすメッセージは全て略語になった。
 でも、これでやり取りするのは結構難しくて。
 この「悲」は、ただ悲しいという意味にとってはいけない。
 アイは「彼氏が浮気してた。とっても優しくて、サプライズもたくさんしてくれたんだよ。それなのに、悲しい…」と伝えようとしている。
 私たちはそれぞれのSNSでのつぶやき、それから写真や動画を欠かさずチェックしあってる。だから会ったことはなくてもアイの彼氏のことはよく知っていて、さらに今日別れたという報告もすでに目にしていた。
 だから「悲」の一文字でもそのことを悟ることができたんだ。
 それでユキと私は「げだ」、「ヒそ別正」とそれぞれ返信した。
 「げだ」は「げんきだして」、「ヒそ別正」は「ヒドイ。そんなの別れて正解」と言っている。
 この前の「悲」は「髪型を失敗して悲しい」だった。同じ文字でもその都度意味が変わる。空気が読めない言葉をかけることがないように、メッセージを送る前はSNSをしっかり確認することも暗黙のルールなんだ。
 でもさ、話の流れによっては「げだ」は「月曜日ってだるい」の意味に変わることもあって……。なかなか複雑なんだけど、でも毎日チャットしているうちになんとか使いこなせるようになった。
 最近は実際に会ってる時にも略語を使ってる。
 今朝、学校で交わした「お」、「あも?」は、「おはよう」、「あれ持ってきてくれた?」だ。
 ゲーム感覚で楽しいし、伝わるとうれしい!
 そこから「もっと面白いことをやろうよ!」って考え出したのが『以心伝心ゲーム』。
 「一文字、二文字で伝わるんだったら、ひょっとして文字がなくても大丈夫じゃない?」
 例えば、昼休みにユキから「   」とメッセージが届く。
 「この時間にこのコが連絡してくるということは……?」
 あれこれ考えて屋上に行ってみるとアイとユキがいた。
 正解! 一緒にランチしようってことだった。
 このゲームは家に帰っても続く。
 夜の十時すぎ「   」と届いたので、「ドみテ上?(ドラマみてテンション上がってるんでしょ?)」と返信する。
 正解! これも簡単。好きな俳優が出るってSNSではしゃいでいたのを知ってたしね。
 もちろん難しい「   」もある。そんな時は、過去のチャットやSNSとにらめっこ。
 あのコの性格なら引っかけ問題もありうる、このタイミングでの「   」には含みがある、と裏の裏まで読みあうようになっていき……。
 こんな感じで遊んでいるうちにみんなレベルがどんどん上がっていった。
 そして、こんなこともできるように。
 「次土み出! そ計いでゲ! (次の土曜日にみんなで出かけよう! その計画を以心伝心ゲームで!)」と学校で話した夜。
 ピコン。アイからメッセージが届く。
 「   」
 きっと「この前は私がカラオケ行く計画を立てたよね」と言っている。
 ピコン。ユキだ。
 「   」
 「その前は私だった、今度はあんたがやりなよ」だな、きっと。
 わかったと返信。
 「   」既読2。
 個別にも「   」を送る。アイには「この前学校で話したことを思い出して。私が考えているのはそこ!」、ユキには「あそこじゃないよ。早とちりしないで」という想いを込めて。
 二人から「   」の返信。きっと伝わっている。
 最初は画像や動画を使ったヒントもありにしていた『以心伝心ゲーム』だけど、今ではそれなしでも大丈夫。
 土曜日、私が伝えた待ち合わせ場所に行くと笑顔の二人が待っている。集合時間はこれまでの習慣を考えたら簡単にわかった。
 「やわいで! (やっぱり私たち以心伝心!)」
 私は二人に駆け寄った。

 それからしばらくたって……。
 前は毎日のように『以心伝心ゲーム』で遊んでたんだけど、今はもうチャットアプリを開かなくなった。メッセージのやり取りもしていない。
 でもね、それはケンカして連絡を取らなくなったってわけじゃない!
 新しいゲームを始めた日から通知音が鳴らなくなったんだ。
 『以心伝心ゲーム』をやり詰めた結果、「   」のメッセージが届く前から「あのコは今、こんなメッセージを送ろうとしている」と直感が働くようになっていた。
 それで新しく考えたゲームは心の中でチャットするということ。
 真の『以心伝心ゲーム』だ。
 ピコンと聞こえたような気がして、心の中でチャット画面が開く。そこには架空のメッセージが。
 「ひょっとして遅刻しそうになってない?」とアイ。
 「よくわかったね! ごめん、遅れないようにダッシュで行く!」とユキが謝った。また寝坊したな? しょうがないな。
 「私はもうすぐ着くよ! 今日は楽しみ」既読2。
 テーマパークの前、みんなが集まる。
 「どこから回る?」、「これ怖いから絶対ヤダ〜! 乗りたくない!」、「ねぇそろそろご飯食べない?」
 これは全部、無言、そして無表情で交わしているやり取り。グループでいる時はいつもそうだ。もう略語すら使わないし、表情に出さなくても以心伝心。
 マスコットキャラクターの横に並んで記念撮影。
 写真の中、お地蔵さんのように立っているだけの私たち。でも、わかる。
 「みんなテンション高すぎ!」既読2。
 写真の順番待ちをしている女の子たち。彼女たちも無言、無表情だ。
 以心伝心しているのは私たちだけじゃなかったみたい。

(了)

髙山幸大さんの前作「降りられない」はこちら
http://kinonoki.com/book/monogatari-factory/factory45.html

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作品について

著者プロフィール

ショートショート大賞優秀賞受賞者

ショートショート大賞 優秀賞受賞者
恵誕(けいたん):「超舌食堂」で第2回優秀賞を受賞。
高山 幸大(たかやま・こうだい):「雨女」で第1回優秀賞を受賞。
滝沢 朱音(たきざわ・あかね):「今すぐ寄付して。」で第2回優秀賞を受賞。
長野 良映(ながの・りょうえい):「ヤンタマ」で第2回優秀賞を受賞。
梨子田 歩未(なしだ・ふみ):「靴に連れられて」で第1回優秀賞を受賞。
行方 行(なめかた・ぎょう):「紙魚(しみ)の沼」で第1回優秀賞を受賞。

作品概要

あなたはどの作品がお好きですか?
第1回、第2回ショートショート大賞で優秀賞を受賞した6名の方の競作連載。
共通のお題だからこそ浮かび上がる、作家ごとに異なるオチ、着想、作風etc。
きっと好みの作品に出会えます。

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