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世にも小さな ものがたり工場

ショートショート大賞優秀賞受賞者

世にも小さな ものがたり工場 ブック・カバー
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「神」(髙山幸大)

2018.01.30 更新

 「かわいい!! この洋服、神じゃん!!」
 そんな女の子の言葉に驚いたというのは服の神様。
 「この絶妙な色が神ですよね。凄く人気で私も持っています」
 そう言った販売員にもびっくりしたと、色彩の神様。
 その話に他の神様も続きます。
 「海に遊びに行く日に晴天だなんて、この天気、神」と笑顔で見上げられたお天気の神様、「これがあれば何もいらない。白米は神」と美味しそうにかきこまれたお米の神様。
 この漫画は神、あのコスメは神、冬の布団の温かさは神……。
 私もこんなことを言われたと、堰(せき)を切ったように神様たちが次々に声を上げました。
 「少し前から神曲や神演奏などと言う若者がいて気になっていたが、私だけではなかったとは」
 音楽の神様がつぶやきます。

 神無月、出雲大社に集まった八百万(やおよろず)の神様たちが輪になって議題『この国の若者は、私たちが見えているのではないか?』について話し合っています。

 「若者たちは、あれは神、これも神といつも口にしている。まるで私たちのことが見えているようだ」
 そんなことはとても信じられないといった表情の神様たち。
 「私が見えているとしたら……。よくも平然とできるものだ」
 「ワシなんて、見えていては絶対ダメな神なのに。どうしよう」
 トイレの神様とカツラの神様が顔を見合わせました。
 「ここでサヨナラホームランを打つなんて、あの選手、神ってるな」
 野球選手の中に宿っていたことにまで気づかれていたと、眉間にしわを寄せて腕組みするのは勝負の神様。
 「体の中に入っていても見えているのであれば、もう身を隠す場所はないのかもしれない。もはや神隠れできるのは人間だけとは皮肉なものだ」と苦笑いしています。
 「あの可愛さは人間じゃない! 神だ!」。
 そう言われたのは、人々に癒しと喜びを与えるためにアイドルとして降臨している現人神(あらひとがみ)様。
 神か人間か、神様たちですらすぐには見分けがつかない現人神様であっても、若者たちには正体がばれている。
 その話を聞いた神様たちの間から、大きなどよめきが起きました。
 しかも現人神様たちの中から、各々が好む神を推して神7(セブン)を選ぶといった行事も行われているとのこと。
 「我々の立場はどうなるのだ」と七福神が嘆きました。
 そんな様子を見てすっと立ち上がり輪の真ん中に進みでたのは、この一年間、若者の調査を任されていた神様。
 「見えている、ばれているだけではないかもしれません。実は、ある青年が意味のわからないことを言っていたのですが……」と話し始めます。

 「『エグいしエモいし鬼レベチな感じがマジ神じゃね?』 これに該当する神様はいらっしゃいますか?」
 その問いに困惑する神様たち。誰も手を挙げません。
 「そうですか。やはり……。このように、何の神が見えているのかわからない例が他にも無数にあって。どうやら若者たちは、私たちの知らない神まで見つけているようなのです」
 ここにいない神も存在するのかと、その言葉に皆、息を呑みました。
 「神なのにここに来ていないということは、どこかで別の集まりをつくっているのかもしれない」、「まさか、我々と対峙してこの国を乗っ取る気ではないだろうな」と不安気な声があちこちから聞こえてきます。
 しかし、調査報告はまだ続きます。
 「目覚ましのアラームをセットしていなかったのに朝六時に目が覚めた俺、神」など、若者たちは自分自身に神を見出しているというのです。
 若者はすでに神になっているのか? 我々が知らないところで大変なことが起きている、ひょっとするとここに紛れ込んでいるかもしれないぞと場は騒然となります。
 「若者から目を離すと危険だ。あいつらのやり取りは全て把握しなくてはならない!」
 「そうだ、お札(ふだ)を細工して言動を監視できるようにしよう!」
 「いや、監視するのであれば若者のほとんどが持ち歩いているスマートフォンの方がいい! その中に宿って若者たちを見張るのだ!」
 その発案に、それだ、今すぐやろうと皆が同調し、より一層喧然とします。

 「スマートフォンのことは私の方で調べましたが、それは止めた方がいいかもしれません」
 調査担当の神様は騒ぎを制止するようにそう言うと、調査資料を皆に見せました。
 「調査する中で、神アプリと呼ばれるものがスマートフォンの中に宿っていることがわかったのです。これは若者が自ら宿らせて自由自在に使っているものです。そして、ここに記載している通り、様々な能力を持つ神アプリが存在します」
 神様たちは皆で資料を覗き込みましたが、そこに並ぶ名前はどれも聞いたことのないものばかり。英文で記された名前も沢山あります。
 もしかすると、これが先程話に出ていた我々の知らない神のことか? そうであれば辻褄(つじつま)が合うぞとざわつきます。
 「敵対する神がいるかもしれないスマートフォンの中に入っていくのは、危険だと思います」
 皆、力なく頷(うなず)き、肩を落として落胆のため息を吐きました。
 「ちょっと待て。この神アプリがもし本当に神だとすれば、若者たちはたくさんの神を束ねていて、それを指先ひとつで操ることができるということなのか? 神よりも上の立場になっていると……」

 冷静に報告を続けていた神様はその言葉を聞くと突然うつむき、声を震わせながらこう続けました。
 「今の推測は……。残念ながら当たっている……かもしれません」
 実は最近、若者たちが送るメール等で「こんなに嬉しい誕生日のサプライズをしてくれた君。控えめに言って神」などという文面が散見されるとのこと。

 「控えめに言って……であれば、若者は神を超越しているということではないか」
 しかし、皆、神を越える存在なんて知りません。
 「若者たちが恐ろしい」

 我々は、一体どうしたらいいのだ? 神様たちは頭を抱えしまったのでした。

(了)

髙山幸大さんの前作「サンタ」はこちら
http://kinonoki.com/book/monogatari-factory/factory12.html

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著者プロフィール

ショートショート大賞優秀賞受賞者

ショートショート大賞 優秀賞受賞者
恵誕(けいたん):「超舌食堂」で第2回優秀賞を受賞。
高山 幸大(たかやま・こうだい):「雨女」で第1回優秀賞を受賞。
滝沢 朱音(たきざわ・あかね):「今すぐ寄付して。」で第2回優秀賞を受賞。
長野 良映(ながの・りょうえい):「ヤンタマ」で第2回優秀賞を受賞。
梨子田 歩未(なしだ・ふみ):「靴に連れられて」で第1回優秀賞を受賞。
行方 行(なめかた・ぎょう):「紙魚(しみ)の沼」で第1回優秀賞を受賞。

作品概要

あなたはどの作品がお好きですか?
第1回、第2回ショートショート大賞で優秀賞を受賞した6名の方の競作連載。
共通のお題だからこそ浮かび上がる、作家ごとに異なるオチ、着想、作風etc。
きっと好みの作品に出会えます。

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