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世にも小さな ものがたり工場

ショートショート大賞優秀賞受賞者

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「おつかい」(恵誕)

2018.01.30 更新

「神様、ケガが早く治りますように。そして早く春になりますように」
 足を引きずりながら境内の掃除をすませたあと、拝殿の鈴を鳴らし、手を合わせて祈った。
 山の中ほどにあるこの神社は村の鎮守様。雪がちらつく日、あたしはうっかり足を滑らせて木の枝から落っこちてしまったの。
 寒くて、痛くて。ぶるぶる震えているあたしを宮司さんが見つけて、助けてくれた。
 だからあたし、ご恩返しに毎朝お手伝いしているのよ。

「あ、お賽銭あげるの忘れた!」
 あわてて社務所に預けておいたどんぐりを取りに行くと、狛犬さんが二体で書き物をしていた。
 まだ誰もいない静かな時間。狛犬さんたちもお手伝いしているの。

「おはよう、狛犬さん」
「おはよう、小リスちゃん。さっきは何を祈っていたのかな?」
“あ”の狛犬さんが言う。
まずい! タダでお参りしてたの、見られてたみたい。
「あの、お賽銭はこれからあげてくるから。ちょっと忘れただけだから……」
 狛犬さん“あ”は、ニコニコ微笑んでいやいやと手を振った。
「たとえお賽銭がなくても、お参りしていいんだよ」
「そうなの? でも願いを叶えてもらうのに、お礼はひつようでしょう?」
 今度は“うん”の狛犬さんが絶妙の呼吸で顔をあげ、答えてくれた。
「お願いごとは神様との取引じゃないんだよ。大切なのは神様をうやまい、毎日おだやかに暮らせることを感謝する気持ち。そのためにお参りするのだからね」
 なんだかむずかしい。かんたんに言うと神様に“いつもありがとうございます、って伝える気持ちが大切”ということかしら。

「ところで狛犬さんたち、ぜんぜん進んでないじゃない?」
「ふむ。じつはどうも筆が上手に使えなくて。もうすぐ “せつぶん”というご祭礼があるんだけどね。ご寄進くださった方々のお名前やご奉納の品を書くよう、宮司さんから頼まれたんだ。近く境内に貼り出すことになっているんだけど……」
「毛筆ね、あたしにまかせて!」
 机に飛び乗ると自慢のしっぽをひとふりして、毛先にたっぷり墨を含ませた。背筋を正してメモを見ながらゆっくりていねいに、まちがえないように書いていく。

一、 金一萬円也 村長・皆出幸多朗 
一、金五阡円也 消防署長・家屋敷安心 
一、日本酒三本也 酒店・三河屋呑兵衛 
一、玄米五Kg也 農業・田畑豊作 
一、くるみ二個也 林業・小リス
……
 ついでにあたしからのご奉納の品も付け加えさせていただいた!
 うん。いい感じ。これなら御朱印の墨書きだってまかせてもらえるかしら。

「みなさん、そろそろお参りの方たちがいらっしゃる時間ですよ」
 夢中でしっぽの筆を走らせていると、ヤタガラスさんがお知らせしてくれた。
 ヤタガラスさんは、ふつうのカラスよりものすごく大きくて、目もギョロッとしている。ヤタガラスさんの“ヤタ”は“大きい”という意味なんですって。
 はじめて会った時はあたし「食べられちゃう!」って焦ったけど、とってもスマートな紳士なの。神社で迷った方がいると、いつもさりげなく進む道をナビゲートしていて。
 あたしもあんな風にしっかりご案内したいな……。

 ヤタガラスさんにうっとりしている間に、狛犬さんたちはいなくなっていた。きっと鳥居の近くにあるいつもの台座に戻ったのね。
 というか、あたしもお掃除道具を片付けておみくじの用意しなくちゃ!
 慌てて拝殿へ駆けていくと、空からやわらかな声が響いた。
「小リスちゃん、参道の真ん中は走っちゃいけないよ。真ん中は神様の通り道だから端を歩いてね」
 ケヤキのご神木さんだ。この方はなんと七百歳を超えているとかいないとか。いつもみんなをあたたかく見守ってくださる、とくべつな存在。
 あたしがそろそろと、参道のへりを歩いていると背後からパカッパカッと蹄の音がした。
「ぼくちょっと急ぐからごめんねー」
 白馬が白いたてがみをなびかせて駆けていく。
「白馬さんたら、またちこく? もし、絵馬から馬がいなくなってるの見つかったらどうするの?」
「宮司さんには黙っててね」
 そういうと、白馬さんはこちらへ何かを投げてよこした。
 拾って見ると小さな紙袋。『打ち身のクスリ』と書いてある。
 白馬さん、もしかしてあたしのケガのために隣の町の薬屋さんまでお買いものに行ってくれたの?
 あっ、それともあたしのお祈りを神様が聞いて、白馬さんをおつかいに出してくださったのかしら。それで、ギリギリの時間になっちゃったとか……?
 神様ありがとうございます。白馬さんお疲れさまでした。
 あたしが目で伝えると、白馬さんはウィンクして五角形の板の中に飛び込み、凛としたポーズをとった。
 

 こうして神様のおつかいたちがそれぞれのポジションに着いたあと、いつもの朝のように善男善女のかしわ手が境内に鳴り響いた。

(了)

恵誕さんの前作「記憶」はこちら
http://kinonoki.com/book/monogatari-factory/factory16.html

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作品について

著者プロフィール

ショートショート大賞優秀賞受賞者

ショートショート大賞 優秀賞受賞者
恵誕(けいたん):「超舌食堂」で第2回優秀賞を受賞。
高山 幸大(たかやま・こうだい):「雨女」で第1回優秀賞を受賞。
滝沢 朱音(たきざわ・あかね):「今すぐ寄付して。」で第2回優秀賞を受賞。
長野 良映(ながの・りょうえい):「ヤンタマ」で第2回優秀賞を受賞。
梨子田 歩未(なしだ・ふみ):「靴に連れられて」で第1回優秀賞を受賞。
行方 行(なめかた・ぎょう):「紙魚(しみ)の沼」で第1回優秀賞を受賞。

作品概要

あなたはどの作品がお好きですか?
第1回、第2回ショートショート大賞で優秀賞を受賞した6名の方の競作連載。
共通のお題だからこそ浮かび上がる、作家ごとに異なるオチ、着想、作風etc。
きっと好みの作品に出会えます。

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