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世にも小さな ものがたり工場

ショートショート大賞優秀賞受賞者

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「サンタ」(髙山幸大)

2017.12.15 更新

 現代のサンタは過酷だ。
 様々なことに、我々は苦心している。

 その一つが、プレゼントの準備。
 子どもに配るおもちゃの種類が多くて、仕分け作業が複雑になっているし、プレミア化したゲーム機などは、仕入れも困難を極める。
 サンタ自ら、徹夜して行列に並ばなくてはいけない場合もあり、希望通りのプレゼントをそろえるのに、毎年、苦労している。

 「自分で好きなものを買いたいから、プリペイドカードが欲しい」という子どももいるが、これはこれで可愛げがない。

 そういえば、昔は、「こんなおもちゃが欲しいな」と子どもたちから手紙が届くのが楽しみだったものだ。かわいいサンタの絵が添えてあると、さらにうれしくなった。
 しかし、最近では、プレゼントの依頼もメールでくるようになった。
 「毎年大変お世話になっております」の定型文から始まるかしこまった文面に、「バージョンやカラーの間違いがないように」と、希望する商品の画像がネットショップのアドレスとともに添付されていて、これではモチベーションが上がらない。

 最近は、子どもが夜遅くまで起きていることも我々を苦しめている。
 子どもが眠りにつくまでプレゼントを配ることができないので、そのような場合は一旦引き返して、他の家から回ることにする。
 しかし夜が更けてからもう一度行ってみると、まだ起きていて・・・。
 それに、灯りが消えていたって、起きている場合もあるから厄介。
 真っ暗な部屋で、タブレットに見入っているというケースもあるので、気をつけなくてはいけないのだ。

 寒空の中を、行ったり来たり。
 その繰り返しで、朝方までかかることも多くなった。
 長時間労働を強いられ、ぐっと冷え込むホワイトクリスマスともなると、体調を崩すサンタが続出してしまうのだ。

 このような状況下で疲労が溜まると判断力が鈍り、ミスも起こる。
 運転を誤ったソリ同士の衝突事故が多発しているのも、サンタ界の社会問題だ。
 私も、居眠り運転のソリにぶつかりそうになったことがある。
 ソリ保険の加入件数が年々伸びていると聞き、私も今年、入ることにした。

 忘れてはならないのが、子どもの親への配慮。
 煙突からプレゼントを配っていた時代とは違い、オートロックのマンションに住む現代の人間たちは、セキュリティーに対しての意識が高い。
 不法侵入者扱いされることもあるので、まず、インターフォンを通して身分照会したのちに、子どもの部屋まで行くという手順を踏まなくてはいけないのだ。
 忙しい中でのこの作業は面倒極まりないのだが、この手間をかけないと、クレーム処理で、後から余計な時間をとられかねないので仕方がない。
 中には、温かいお茶を差し出し、休んでいくことを勧めてくれる親もいるが、時間に追われている身には、正直迷惑。
 しかし、冷たい態度をとれば、SNSですぐに拡散されてしまう。
 サンタのイメージを守るためにも、このような場合には、「じゃあ、お言葉に甘えて少しだけ」と感謝の意を伝えてブーツを脱ぐはめになる。

 そうだ、おもちゃの動作確認もしておかなくては。これも怠ると、クレームの元になる。
  

 現代のサンタに必要なのは、プレゼントを配るスキルではなく、あらゆることに気を配ることなのだ。

(了)

髙山幸大さんの前作「指」はこちら
http://kinonoki.com/book/monogatari-factory/factory02.html

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著者プロフィール

ショートショート大賞優秀賞受賞者

ショートショート大賞 優秀賞受賞者
恵誕(けいたん):「超舌食堂」で第2回優秀賞を受賞。
高山 幸大(たかやま・こうだい):「雨女」で第1回優秀賞を受賞。
滝沢 朱音(たきざわ・あかね):「今すぐ寄付して。」で第2回優秀賞を受賞。
長野 良映(ながの・りょうえい):「ヤンタマ」で第2回優秀賞を受賞。
梨子田 歩未(なしだ・ふみ):「靴に連れられて」で第1回優秀賞を受賞。
行方 行(なめかた・ぎょう):「紙魚(しみ)の沼」で第1回優秀賞を受賞。

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