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世にも小さな ものがたり工場

ショートショート大賞優秀賞受賞者

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「指」(髙山幸大)

2017.11.15 更新

「昨夜はどうだった? オープン初日は盛況だった?」
「日曜の夜だし、次の日みんな休みということもあって、満席御礼」
「ごめんね。僕も顔を出そうと思っていたけど、遅い時間まで起きていられなくて行けなかった」
「お前は昼型の生活をしてるもんな」
「それにしても、こんなところでバーを始めるとは驚いたよ」
「前に白鳥さん主催のナイトプールパーティーがあった時にさ、みんなで集まって飲める場所が欲しいよなって話で盛り上がって。それでさ、ノリで俺、バーやっちゃおうかな、そこに集合して騒げたら楽しいじゃんって言ってしまったのが始まり。みんなが喜んでくれるなら、まぁ頑張ってみるかなと思ってたんだけど、実際始めてみて、たった一日で後悔したよ。マジ大変」
「うるさい客ばっかり来て、店の中が荒れちゃったとか?」
「そこんところは大丈夫。俺も喧嘩には覚えがあるし。俺がキレて嚙み付けばどうなるか、みんな知ってるからな。本気出せば、お前みたいな小せぇやつなら一瞬で落とせるぜ」
「ちょっと、そんな顔しないでよ。超怖いよ」
「悪(わり)ぃ。まあ、そういうことで、少々気性が荒い輩が来ても問題ない。俺が大変だって言ってるのは、そんなことじゃないんだよ」
「何?」
「お前さ、ウイスキーはどんな飲み方する?」
「ウイスキー? 飲み方って? 水割りとか、ソーダ割りとか?」
「あーいや。ほら、ロックとかストレートで飲む時さ。シングルとかダブルってあるじゃん」
「あー、はいはい。あるね」
「お前のシングルやダブルの基準ってある?」
「基準?」
「これってお酒の量なわけさ。シングルはグラスに手の指一本分の幅の高さを目安にしてウイスキーを注ぐ。ダブルは指二本」
「ワンフィンガー、ツーフィンガーとかいうやつね」
「そうそう。でもさ、客はそれぞれ体の大きさが違って、指の大きさも違うわけじゃん」
「うん」
「すると当然、指の幅は違うよな」
「言われてみれば確かに」
「そこが問題なわけさ。指の幅が違えば各々の基準が異なってくる」
「なるほど」
「昨夜、ある客が発端でトラブルになってさ。俺が出した酒に対して、これはツーフィンガーじゃねえぞって荒ぶって怒鳴るやつがいたんだよ。俺の指をよく見てみろ! グラスに入っている酒は、この幅あんのかって。それで、そいつの指を見てみると、とんでもなく太い。二本の指を重ねたら、グラスの高さと変わらないくらいになるんだよ」
「そんなに!? その指の基準でダブルにしたら、グラスになみなみと注がなくちゃいけないじゃん」
「そうなんだよ。商売上がったりだろ? 思わぬクレームにたじろいでたら、じゃあ僕のももっと注いでくれよっていうやつが出てきて」
「そいつも指が太いの?」
「それが小さくて細い指でさ」
「それじゃあ、その幅で注がれても損するだけじゃん」
「そう思うだろ? だから俺も、あんたの指、幅狭いだろ! 本当に、その幅でいいんだなって聞いたんだよ。そしたらさ、そいつ、得意げな顔をして、指を大きく広げてピースサインを見せてきたんだ」
「どういうこと?」
「そいつが広げた指の間を見ると、なんか膜みたいなものがあってさ、その膜で指と指が繫がってて」
「何? それ、気持ち悪いんだけど」
「それでさ、そいつが言うことには、これは指と指が離れてないのと同じだろ、だから、この幅でツーフィンガー。この幅でダブルを作り直せって言い出して」
「なんだよそれ!」
「でも、それだけじゃない。そんな中、さらに妙なことを言ってくる客が現れて」
「まだあるの?」
「お取込み中、誠に申し訳ないのですが、それでは私の場合、どうなるんでしょうか? とか言いながらカウンターにどかっと足を乗せてくる客がいたんだよ」
「丁寧な口調なのに、そんな横暴なことをするの? なんか、一番怖いタイプのやつじゃん」
「私、手というものがなく、このような足しかないのですが、どれくらいお酒をいただけるのでしょうか、だって。長く伸びた白髪の隙間から、潤んだ瞳でこっちを見てくるんだよ」
「そいつ、なんなの? 恐ろしくて身の毛が逆立ってきた」
「俺は、思いもよらない状況に開いた口が塞がらなかったよ。そうこうしているうちに、それなら俺の指はどうだ、私のグラスにはもっと酒を注ぐべきじゃないのかって、店中の客が俺のところに詰め寄ってきて。もう、どうしたらいいのかわからなくなって、混乱しちゃってよ。指のことは次までに考えておくから、とりあえず今日のところは勘弁してくれって、閉店時間まで謝りっぱなしだったよ」
「大変だったね」
「オープンしたてなのに、これからが憂鬱でさ」
「難癖つけたらお得に酒が飲める店があるって噂が広がったらどうする?」
「そういえば、ピースサインの野郎、確か、仲間がたくさんいるって言ってたな。こぞって来られたら面倒だ」
「それはマズいね」
「ここでバーをやるのは大変だろうと覚悟はしていたけど、まさか、指の基準に頭を痛めるとはな。盲点だったぜ」
「ここには、まだまだ色んなのがいるよ。体も指もめちゃくちゃデカイやつとか」
「そうなんだよな。でも、とんでもなくデカイ類(たぐい)のやつが来た場合は、とりあえず、その体は店に入らないからって理由で追い返せる。レストランを間借りして営業しているわけだし、実際、キャパには限界がある」
「レストランの前には広場があるじゃん。店に入らないって言うのなら、そこで飲ませろってなるかもよ」
「そうだった。あそこ、イベントスペースだからめちゃ広いんだよな。どうしよう」
「とにかく、早急に対策が必要だね」
「そうだな」
「入場口のところに案内看板あるじゃん。それを見ながら、ここにはどんなやつらがいるのか、改めて調べてみようよ。夜型のやつは、特にチェックしておいた方がいいかもね。僕も手伝うよ」
「助かる。それにしても、客がお前みたいな指のやつらばっかりなら、苦労もしないんだけどな」
「僕なんて、小さな木の実を持つのも大変だからね。まぁ、こういう指のやつも結構いると思うよ」
「そういうのだけを相手にしたバーにできないもんかね。小さいやつ専門の店にするか」
「そんな店にしたら、君が食べるために開いているバーじゃないかと疑って、誰もこないよ。僕の仲間を誘っても絶対に行かないだろうね」
「そうか。お前らリスは警戒心が強いもんな。まずは昨日のゴリラ、コツメカワウソ、アルパカの対応策から練っていくか」
「それにしても、お酒をつくる時、君の指を基準にできればよかったのにね。マスターは君なんだし、それなら文句は出ないでしょ」
「残念ながら、それは無理だな」
「君はアナコンダだもんね」

(了)

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著者プロフィール

ショートショート大賞優秀賞受賞者

ショートショート大賞 優秀賞受賞者
恵誕(けいたん):「超舌食堂」で第2回優秀賞を受賞。
高山 幸大(たかやま・こうだい):「雨女」で第1回優秀賞を受賞。
滝沢 朱音(たきざわ・あかね):「今すぐ寄付して。」で第2回優秀賞を受賞。
長野 良映(ながの・りょうえい):「ヤンタマ」で第2回優秀賞を受賞。
梨子田 歩未(なしだ・ふみ):「靴に連れられて」で第1回優秀賞を受賞。
行方 行(なめかた・ぎょう):「紙魚(しみ)の沼」で第1回優秀賞を受賞。

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