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科学で毎日を楽しくしませんか?

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第28回 エレベーターの悪魔

2018.03.12 更新

エレベーター。上の階、あるいは下の階まで運んでくれる便利でお馴染みの機械です。しかし、いつも待たされる気がしませんか。自分が乗り込む階には決まってエレベーターが止まっていない、それは気のせいや運が悪いせいではありません。エレベーターは本質的に乗りたい人のいる階にいない、性悪ともいえる乗り物なのです。どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。
まず、エレベーターの性悪具合を簡単に証明するところから始めましょう。私自ら簡単な検証実験をしてみました。実験では単純化するため、ビルやデパートにあるような階がいくつもあるエレベーターではなく、地下鉄などにある改札とホームを繫ぐような、止まる階が2つしかないエレベーターで行いました。日常生活において、どのくらいの頻度で自分が乗り込む階に止まっていないのかを数値化してみました。
実験を開始したところ、まずは13回連続でエレベーターが自分の乗り込む階にありませんでした。14回目にしてようやく自分が乗り込む階に止まっていて乗ることができましたが、その後はまた、5回連続で止まっていませんでした。そして1回乗れたと思ったら、後は11回連続で止まっていませんでした。結局そこから最後までエレベーターは乗り込む階に止まっておらず、待たされ続けたところで検証実験を終了しました。
この結果からわかるように、エレベーターが自分の乗り込む階にあることは稀です。このなさ加減は、ひょっとすると悪意があるのではないかと勘ぐりたくなるほどです。しかし、これは珍しいことではなく、普通のことなのです。あなたもぜひカウントしてみてください。エレベーターにすんなり乗れることの少なさに、きっと驚くことでしょう。
もちろん、エレベーターは機械ですから、性格というものがあるわけもなく、機械そのものにもそれを制御するプログラムにも、悪意なんてあるはずがないのです。しかし、どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。考えてみましょう。

止まる階が2つしかないエレベーターであれば、自分のいる階か、もう一方かのいずれかに止まっているはずです。もちろん稼動していて途中にあることもありますが、その時間はわずかです。ですから、自分のいる階に止まっている確率は50%くらいありそうな気がします。仮に50%だとすると、この仮定のうえであれば13回連続で自分の乗り込む階に止まっていない確率は0.01%です。つまり10000回に1回しか起こらないことなのです。しかし、現実には頻繁に起こります。起こりにくいことが頻繁に起きるということは、私やあなたの運が極端に悪いわけではなく、別に理由があるということなのです。

その理由は、人の流れです。昇りたい人と降りたい人の割合と、その利用時間帯とに着目すると、エレベーターの悪意ある振る舞いの原因が見えてきます。
例えば、通勤時間帯のオフィス街の駅のエレベーターについて考えてみましょう。オフィス街の通勤時間帯ですから、駅は仕事場に向かう人たちで溢れています。そして、通勤客のほとんどがホーム階から改札階に向かうエレベーターを利用することになります。家に帰るためにホームに向かう人はほとんどいないので、当然逆の利用はあまりありません。
この時間帯にホーム階から改札階に向けてエレベーターが利用された回数を仮に95回、逆の利用を5回としましょう。ホーム階から改札階に向かう人が利用した場合、エレベーターはホーム階で仕事を終え、そこに留まります。ですので、エレベーターが止まっている確率は、改札階が95%、ホーム階が5%ということになってしまうのです。
このようにして不幸が作り出されます。ほとんどの人がホーム階でエレベーターを利用したいというのに、95%の確率で改札階にいて休んでいるのです。ですから、エレベーターが自分が乗りたい階に止まっていないという結果を招くのです。
時間を進めて、お昼過ぎを考えてみましょう。オフィス街に向かう人の数と、去る人の数が一致してきます。すると、改札階とホーム階それぞれに留まる確率は50%ずつに落ち着きます。
さらに時間が経過して帰宅時間帯になると、オフィス街を去る人の数が向かう人の数を圧倒するので、エレベーターはホーム階で留まることが増えます。利用者のほとんどはこの時間帯、改札階からしか利用しませんから、ホーム階で休んでいるエレベーターを呼ぶ必要があり、かなり高い確率で待たなくてはいけません。こうして再び不幸な状況が生まれます。
このように、エレベーターは利用者が使い終えた階に留まるため、どうしても人の流れに逆行することになってしまうのです。しかも悪いことに、人の流れが偏れば偏るほどその傾向は顕著になり、大多数にとって不利益を発生させる仕組みなのです。自らが大勢の流れと一致する行動をとっている限り、エレベーターは悪意があるかのような振る舞いを続けることになるのです。
もちろん、人の流れに逆行する行動をとった場合は、かなり高い確率で自らが乗り込む階にエレベーターが止まっているということでもあるのですが、利用者全体で見た場合、大多数が不幸を被ることには変わりありません。
以前、この連載にて、生物学的に悪魔は存在しないというお話をしました。しかし、エレベーターはその存在そのものに不幸を内在してしまっているため、エレベーターの中に悪魔がいるとも言えます。
これを取り除くためには、曜日や時間帯による人の流れに則って、人の手によって調整をする必要があり、エレベーターのシステムはまだまだ改善の余地があるのです。この分野は徐々に研究が進んでいるため、エレベーターの悪魔が駆逐される日も、そう遠くはないはずです。

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作品について

著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

作品概要

私たちの日常は、科学の法則で動いています。「水は100度で沸騰し、気化(蒸発)する」と習いますが、では、洗濯物が乾く、風呂で湯気が出る、放置したパンが乾く、などは、100度ではないのに水が気化していて、不思議ですよね。身近な科学の、「知りたかった」にお答えします。

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