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科学で毎日を楽しくしませんか?

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

科学で毎日を楽しくしませんか? ブック・カバー
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第27回 人類は月に行ったのか?②

2018.02.27 更新

今回は、前回に引き続き、月面着陸の真偽について検証していきます。

陰謀論4:アポロの月面着陸の際、流れた映像にコーラ瓶が映っていたという証言がある。だからフェイクだ。
反論:有名な都市伝説です。

説明:伝聞で出所不明の情報を事実と認識するのは危険です。これはオーストラリアのパース地区に伝わる有名な都市伝説が一人歩きしたものです。オーストラリアのラジオ番組『ザ・サイエンス・ショー』のエイプリル・フールのコントのネタでした。コントの内容はこうでした。
「月面着陸の生中継でコーラの瓶が転がっていた。アメリカ訛りでののしり声がきこえて、画面に手が入ってきて瓶を取り去ったんだ。こりゃフェイクだとすぐにわかったよ」
このコントが一人歩きして、いつの間にかコーラ瓶があったことになっています。「らしい」という伝聞情報を、「に違いない」という事実と認識することは、古今問わず危険なものです。最近ではSNSでも似た現象が起こっています。私たちは常に気をつけなくてはいけません。情報をしっかりと把握する力はいつの時代も大切なのです。

陰謀論5:月で撮影した写真なのに空に星が写っていない。だからフェイクだ。
反論:写らなくて正常です。カメラに馴染みがないと勘違いするかもしれません。

説明:アポロ計画で月面に降り立った宇宙飛行士は、月面でたくさんの写真を撮影してきました。しかしその写真には星が写っていないということが、スタジオで撮影した証拠だという主張です。これはどういうことでしょうか。
東京で夜空を眺めてみると、わずかですが星が見えます。街明かりの中で星空を撮影しようとしても、街明かりが明るくて写し出すことができません。より明るい街明かりの方に露出を合わせることで、暗い星が写らなくなってしまうのです。
アポロ計画での月面写真撮影は、主に昼間に行われました。太陽の光は街明かりより圧倒的に明るいです。ですから、圧倒的に暗い星明かりが写り込むことはありえないのです。
私が取り組んでいる成層圏からの宇宙撮影でも同様のことが起こっています。高度40kmで昼間に撮影した写真には星が写りません。しかし、もっと低い高度25km程度を飛ぶ特殊飛行機のパイロットは昼間でも星が見えると証言しています。
最新のカメラを使っても、星を写し出すことはとても難しいです。今から60年近く前にそれが可能であったら、それこそフェイクです。写っていないことは、アポロ計画が事実であることを支持する証拠なのです。

陰謀論6:月面は真空だ。空気がないのだから風は吹かない。それなのに月面に立てた合衆国国旗がはためいているのはおかしい。だからフェイクだ。
反論:真空だからこそはためきます。この指摘は、地球暮らしが骨身に染みていることの証でごもっともな意見です。

説明:風がなくても旗ははためくのです。空気のない真空中では、実は地球上よりもはためきやすいのです。
大気中では、揺らしたものや振動しているものは、空気抵抗で減衰して動かなくなります。しかし真空中では減衰させる抵抗がないため、一度動かしたものはなかなか動きが止まりません。
月面に降り立った宇宙飛行士が旗を立てた時、地面にねじ込みました。その時、旗は当然揺れます。揺れによって旗が振動を始め、波打ち、あたかもはためいているかのように運動したのです。
このような現象は地球上では通常起こらないので、誤解するのも無理はありません。

陰謀論7:月面に残してきたアポロ計画の痕跡がその後の調査で写真に収められていない。だからフェイクだ。
反論:写真はあります。

説明:2011年、月軌道に投入された人工衛星によってアポロ12・14・17号が残してきた着陸船と月面探査機、そして月面探査機のタイヤ痕までしっかりと写し出されています。月軌道から人工衛星で撮影に成功できたのは、テクノロジーの進歩によるものでした。これはとてもすごいことなのです。
宇宙ステーションからの映像で、自宅の車を見つけることができたという話は聞いたことがありませんね。月は地球から48万kmも離れていますから、天体望遠鏡で月に残された月面着陸船や探査機が見つけられないのは、当然なのです。
月の軌道上からでさえ、小さな物体を撮影することは至難の技なのです。月面探査機の大きさはわずか数メートルです。タイヤ痕はもっと小さいです。撮影するためには、とても高い分解能(カメラが細かいものを写し出す能力)が必要なのです。日本の月探査衛星「かぐや」にはそこまで高い分解能はありませんでした。そのため月面探査機をぼんやりとしか写し出すことしかできませんでしたが、着陸地点周辺の詳細な地形データを取得できました。そのデータはアポロ計画で撮影した写真と完全に一致していました。アポロ計画では正確な月の測量はしていないので、後の調査で一致するということは、月に行ったという明確な証拠です。

疑問について科学的に考えることで、アポロの月面着陸がより明白な事実であることが分かります。逆に、陰謀論のほとんどは誤認であったり、地球の常識にとらわれた勘違いであったり、検証不足であったり、憶測からの理論の飛躍であったり、願望による事実無視であるということも見えてきます。
しかし、なぜ陰謀論に人々は熱中するのでしょうか。それはもしかすると、陰謀論そのものが、なにか怪しげで香ばしい魅力を持っているからなのかもしれません。人間は本質的に、あるいは感覚・感情的に陰謀論を好む生き物なのかもしれません。
今回、科学や論理で事実であることを論証しましたが、感覚の前ではこのようなロジカルな説明がほとんど意味をなしません。大概にして感覚は理論にまさるのです。だからこそ、地動説が長らく認められず、進化論が神への冒瀆とされ、アポロ計画が偽りであると未だに根強く信じられているのです。
宇宙ステーションに当たり前のように人が行き来する時代になりました。宇宙に行って帰ってきた宇宙飛行士に、その事実を疑う人はほとんどいません。月面も本格的に利用されるようになれば、いずれ誰も疑わなくなるでしょう。

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作品について

著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

作品概要

私たちの日常は、科学の法則で動いています。「水は100度で沸騰し、気化(蒸発)する」と習いますが、では、洗濯物が乾く、風呂で湯気が出る、放置したパンが乾く、などは、100度ではないのに水が気化していて、不思議ですよね。身近な科学の、「知りたかった」にお答えします。

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