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科学で毎日を楽しくしませんか?

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第26回 人類は月に行ったのか?①

2018.02.09 更新

1969年7月20日。人類は初めて地球の衛星、月に着陸しました。これは歴史上、人類による地球以外の天体への初めての到達でした。月からの映像は全世界にライブ中継され、月に降り立ったときの宇宙飛行士ニール・アームストロングの言葉「この一歩は一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとって偉大な飛躍である」は、今でも歴史に残る名言となっています。
人類の月面着陸は言葉の通り人類にとっての偉大な一歩でした。月面着陸の計画はアメリカ合衆国によるアポロ計画の中で行われました。アポロ計画では月を目指す数々のロケットや宇宙船を開発し、何度となく実験と失敗を繰り返しました。長期にわたる巨大プロジェクトで、多大な困難と障害を乗り越え実現された月面着陸だったのです。一連の計画の中で、6回の月面着陸を成功させ、月面に12人の宇宙飛行士を送り帰還させています。現在まで地球外の天体に人類を送り込んだ唯一の例であり、人類史に残る偉業の一つです。
しかし、この月面着陸は噓偽りのでっち上げである、という陰謀論がまことしやかにささやかれています。つまり人類は月に行っていないというのです。陰謀論者が言うには、映像はスタジオで撮ったフェイクであるというのです。果たしてどうなのでしょうか。アポロは月に行ったのでしょうか。今回は、彼ら陰謀論者の主張を基に、月面着陸の真偽についてを2回にわたってお話ししたいと思います。
陰謀を主張する主な論を7つピックアップしました。陰謀論はここでピックアップしたものの他にもたくさんあるのですが、例えば宇宙人に出会って口止めされている等、ファンタジーに富んだ内容も多くあるため、議論可能な論で有力なものを選びました。
陰謀論の主張→反論→根拠 という流れで説明していきます。

陰謀論1:アポロ計画終了後、なぜ人類が月面に行かないのか。きっといく技術がないからだ。
反論:月面調査にかかる費用と得られる利益が釣り合わないため、行っていません。江戸城がなくなった後、なぜ作らないのか。それと同じ理由です。

説明:アメリカの宇宙開発は常にソビエト連邦(現在のロシアを主体とする国家群)との競争の中にありました。ソ連が世界で初めて人工衛星スプートニクの打ち上げを成功させ、世界で初めて動物の飛行を行い、さらに世界で初めて有人飛行も成功させました。この時のソ連の宇宙飛行士ガガーリンの言葉「地球は青かった」は人類史に残る名言です。さらに、宇宙遊泳を世界で初めて実現したのもソ連でした。このように、アメリカは宇宙開発においてソ連の後塵を拝していたのです。
それもあってか、アメリカはどうしてもアポロ計画を成功させる必要がありました。月面着陸の計画のため、巨額の予算が割かれました。そして、たくさんの失敗の上、無理をしてようやく達成できた月面着陸だったのです。
ソ連との冷戦が終わり、同時に宇宙開発競争も終わりました。その後、アポロ計画を進めていた当時と比べ、宇宙開発に割かれる予算割合は4分の1程度まで削減されたと言われています。
当時よりも予算割合の減った昨今ですが、宇宙開発は、宇宙ステーションや人工衛星をはじめとして、さまざまなプロジェクトが同時並行で進んでいます。これらのプロジェクトは気象予報や研究開発、通信など、私たちの生活を支える実益を兼ね備えたものが多いです。
月は地球から非常に遠く、さらに到達するまで相当のリソースが必要でした。しかし、その負担に見合うだけの資源が月面にはありませんでした。月は地球から38万km(比較:地球直径1.27万km)とあまりにも遠いため、実益あるミッションを月面で行うことが難しいこともあり、わざわざ月面に行く価値があまりないというのが実情です。限られた予算の中で、実益に乏しい月面着陸には多くの予算を割けないのです。
アポロ計画に準じた月面着陸プロジェクトをどうして再開しないのか。それは江戸城がなくなった後、どうしてつくらないのかと同じです。なにも江戸城でなくても構いません。ピラミッドでも空中庭園でもファロス灯台でもロードス島の巨神像でもいいです。なぜつくらないのか。それを実現する障害に対する価値が見合わないからです。
昨今、コンピューターの高度化、ロボット技術・通信技術の進歩によって人間が現場に行かずともできることが増えてきました。技術の進歩は止まることがありませんから、人間が行く理由はこれからもどんどん小さくなっていくでしょう。そうなると、人命をかけるリスクが高い有人ミッションは、今後より少なくなっていくことでしょう。
月面基地計画などもありますが、いつ実現されるのか、なかなか難しいものがあるでしょう。

陰謀論2:月に行く途中、ヴァン・アレン帯という放射線が強い領域を通過する。当時の技術で放射線から宇宙飛行士を守れる技術がなかったはずだ。
反論:宇宙飛行士への影響はありません。

説明:ヴァン・アレン帯とは、地球をドーナツ状に取り巻く放射線の強い領域です。ご存知の通り、人体は放射線に弱いです。月に行く時には必ずヴァン・アレン帯を通過しなくてはいけません。陰謀論によると、当時の技術で放射線から宇宙飛行士を守れるはずがないので、月面着陸は実現しないというのです。もっともらしい説明に聞こえますが、この論は、放射線には種類があるということを見逃しています。
放射線の種類は複数あります。アルファ線、ベータ線、中性子線、陽子線のような粒子放射線、ガンマ線やエックス線のような電磁放射線があります。それぞれ性質が異なります。ヴァン・アレン帯の放射線は陽子線(水素の原子核)とベータ線(電子)が主です。これらは薄い金属1枚で遮蔽して防御することができる透過性の弱い放射線です。X線や中性子線だと分厚い金属すら通してしまいますから、これらと混同しているものと思われます。
アポロ宇宙船は金属でできていますから、ヴァン・アレン帯の放射線から人体を守るための仕組みは十分に備わっています。よって、ヴァン・アレン帯は月面着陸への障害にはならないのです。

陰謀論3:月から持ち帰ったという月の石は、地球で採取したものを偽っている。だからフェイクだ。
反論:月の石は偽物作りが科学的に不可能です。しかしぱっと見ではわからないので、偽物も多く出回っています。

説明:アメリカは月面から大量の月の石を持ち帰っています。月の石は地球の石と成分が異なり、形成された年代も全く異なることから、地球上で同様のものを形成するのは科学的に不可能です。作り出すために40億年程度の時間が必要であるため偽物の製造の可能性はあり得ないのです。ですから、持ち帰ったと考えるのが自然です。よって、月の石は月面に到達した証拠になりえます。
さらなる証拠もあります。当時アメリカとソ連は冷戦中であり、宇宙開発で競い合っていました。アメリカがやると言ったら、出し抜かれてはいかんとソ連もやる、逆もまたしかり。そんな時代でした。お互いが国家の威信をかけて張り合っていたのです。
当然、ソ連も月探査を行なっています。そして、ソ連も月面からサンプルを持ち帰っています。もしアメリカの月の石が偽物であったとしたら、それはアメリカの威信を地に落とし、ソ連こそが世界一であることを示す最高の機会となります。そんな危険を冒すのは考えにくいものです。なお、いがみ合っていた両国の持ち帰ったサンプルが同質のものであったことからも、月面に到達したのが事実であることを二重に証明しています。
しかし、月の石に偽物があることも事実です。一部の月の石は科学サンプルとして世界中に出回りました。ぱっと見は地球上の石と似ています。科学調査をしなくては月の石であることがわからない代物です。
月の石は極めて貴重なものであったため、数百グラム1億円の価格で取引されたことすらありました。これに目をつけた悪い人たちもいたのでしょう。月の石の偽物がたくさん出回りました。そしていつの間にか偽物が本物であるかのように丁重に扱われてしまう例も出てきました。騙されて手に入れた偽物を本物だと思い込み科学調査をした結果、地球のものであることが判明した、なんてことが起きたのです。
アメリカとソ連が持ち帰った月の石の総量と、地球上で保管されている月の石の総量では、なぜか保管されている分の方が多いのです。この辺りは人間の罪です。(次回につづく)

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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